
皆様こんにちは。
北野純一税理士事務所の北野です。
2026年1月から中小企業の取引を支えてきた「下請法」が大きく生まれ変わり、「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行されます。
名称変更だけでなく、適用範囲の拡大や支払期日の明確化、禁止行為の強化など、実務に直結する改正が多数盛り込まれています。
企業にとっては、取引慣行の見直しや透明性を高める絶好の機会であり、今まさに準備が求められる重要な制度変更といえるでしょう。
1.改正の背景と社会的意義
従来の下請代金支払遅延等防止法(通称「下請法」)は、発注側(親事業者)と受注側(下請事業者)との取引における支払遅延や一方的な減額などを防止する制度です。
しかし近年は、「原材料価格・人件費・エネルギーコストの急激な上昇」「サプライチェーン構造の変化(特に物流・運送分野の委託構造)」「資本金による適用除外を狙った構造(資本金外し)の懸念」が課題となっています。
このような背景のもと、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を目指すため、下請法が全面改正され、名称を新たに「中小受託取引適正化法(取適法)」とし、内容が大きく拡充されます。
2.適用対象の拡大と基準の明確化
■対象取引の追加「特定運送委託」
これまでは独占禁止法の枠組みにより規制されていましたが、無償で荷役や荷待ちをさせられている問題がありました。
その対策として、対象取引の類型に「特定運送委託」が新たに加えられます。
具体的には、販売する物品、製造を請け負った物品、修理を請け負った物品、作成を請け負った情報成果物(カタログやポスターなど)が記載される等の物品について、その引渡しのために荷主事業者が運送を委託し、さらにその運送を他の事業者へ委託する構造が「特定運送委託」の枠となります。
■事業者の基準の見直し
これまでの資本金基準に加え、委託業者、中小受託事業者適用事業者の範囲に「従業員数基準」が追加されました。
・製造委託、修理委託、特定運送委託、情報成果物作成委託、役務提供委託は「従業員300人以下」
・役務提供委託、情報成果物作成委託は「100人以下」

■中小受託事業者がフリーランス
中小受託事業者がフリーランス(特定受託事業者)にも該当する場合、取適法とフリーランス・事業者間取引適正化等法のいずれにも違反する行為が委託事業者から行われた場合は、原則としてフリーランス・事業者間取引適正化等法が優先適用されます。
3.実務が問われる4大義務と11の禁止行為
委託事業者には、4つの義務と11の遵守事項が課されています。禁止行為には「協議を拒む一方的な代金決定」「手形払・満額現金化困難な支払手段」「振込手数料の受託者負担」など、取引の“裏の慣習”にも焦点が当たっています。


4.新たに設けられた禁止行為
取適法の11の禁止行為に新たに設けられた禁止行為が3つあります。
いずれも発注側と受託側の関係を“対等なパートナーシップ”に近づけるための重要な制度設計といえるでしょう。
■協議に応じない一方的な代金決定
受託事業者(特に中小受託事業者)が代金の協議を求めたにもかかわらず、委託事業者が協議に応じず、必要な説明をせずに一方的に代金を決定する行為は、取適法上明確に禁止されています。
この禁止は、単に受託者と価格交渉する機会を与えない構造を封じることを目的としており、発注側が「協議には応じない」と事前に宣言すること、あるいは協議を引き延ばして実質的に拒否することも違反となる可能性があります。
このルールによって、受託側は適正な対価を求める交渉の権利を法律上保障される形となります。

■手形払等の禁止
これまでも支払手段や支払期日の適正は下請法での課題でしたが、、委託者が支払手段として手形を用いたり、支払期日に受託者が十分な現金を受け取り得ない構造(例えば電子記録債権・ファクタリング方式)を採用することが「支払遅延」または「不当な支払手段」と見なされ、禁止されます。
この改正により、受託者が実質的に代金を受け取れないまま、支払期日を迎えてしまうような構造を法的に防止することが狙いです。
■振込手数料を負担させることの禁止
取適法では、委託事業者が振込手数料等を中小受託事業者に負担させ、代金から差し引くような取引慣行は、「減額」に該当する禁止行為として定められます。
ただし、振込手数料を受託事業者が一時的に負担していたとしても、委託事業者がその分を契約書や明示書面で合意・補填し、最終的に受託者が満額の現金を受け取る構造を整えていれば、問題とはなりません。
5.「不当な負担」の見直しは施行前に
取適法は、中小受託事業者が不当な負担を強いられない健全な取引環境を整備するとともに、委託事業者にとっても取引の透明性と信頼性を高め、企業価値向上につながる重要な制度です。2026年1月の施行を機に、双方が法律の趣旨と内容を正しく理解し、適用開始までに、契約書・支払フロー・支払手段を見直しておくことが、会社経営においても鍵となるでしょう。
■参考資料
・取適法ポイントリーフレット(中小受託事業者向け)【公正取引委員会・中小企業庁】
・「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」【政府広報オンライン】

こんにちは、北野純一税理士事務所です。
令和7年11月24日、ネクスト飯田様にて「相続発生前 これだけは生前に整理しておきたい!」セミナーを開催いたしました。
今回は、ネクスト舟岡様・ネクスト仏生山様・ネクスト林様に続く4か所目の開催であり、 最終回となりました。これまで各会場にご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。
また今回は、建設会社の方や不動産会社の方にもご同席いただき、不動産に関するご質問にもその場でお答えすることができ、より幅広い内容のセミナーとなりました。
相続は、残されたご家族にとって大きな負担になることがあります。
負担をかけないために、生前整理を始めようと思っていても「何から手をつえればいいのか分からない」状態ではありませんか?
そのようなお悩みを解決するために、生前にできる「身のまわりの整理」や「今からできる手続き」について実例も交えて専門家がわかりやすく解説しました。
【セミナー内容】
①相続財産とは何?
②生前の準備 現預金編
③生前の準備 生命保険編
④生前の準備 有価証券編
⑤生前の準備 不動産編
⑥まとめ

ご参加いただいた方より
・資料にまとめてもらっていて、分かりやすい。
・毎回とても勉強になります。
・とても重要なことばかりでした。
・前回も参加すればよかった。
・個人でお話しが聞けるのが良いです。
等様々なご感想をいただきました。
ご参加いただきましてありがとうございました!
次回のセミナーは来春の開催を予定しております。
ぜひ、ご参加ください!
また、北野税理士事務所では毎月無料の相談会も開催しております。
相続税に詳しい税理士の他、司法書士の先生にもご相談いただけます。
相談は予約制です。
ぜひこちらよりご予約ください!

こんにちは、北野純一税理士事務所です。
令和7年11月13日、ネクスト林様にて「相続発生前 これだけは生前に整理しておきたい!」セミナーを開催いたしました。
ネクスト舟岡様、ネクスト仏生山様に続きまして3か所目の開催です。

ご参加いただいた方より
・自分の状況を確認するのに役立った。
・今日勉強した内容を今後に役立てていきたいです。
・漫画があって分かりやすかった。
・動いていくきっかけになりありがたいです。
・少し分かりづらい部分があったので、もう一度聞いてみたいです!
等様々なご感想をいただきました。
ご参加いただきましてありがとうございました!

こちらのセミナーは残り1回開催を予定しております!
・令和7年11月24日(月・祝) ネクスト飯田(高松市飯田町810)
開催時間は 10:00~11:00 です。
先着20名様の方にご参加いただけます。
参加無料です。
ご予約は ネクスト様(0120-04-5909)までお電話をお願いいたします。
【セミナー内容】
相続は、残されたご家族にとって大きな負担になることがあります。
負担をかけないために、生前整理を始めようと思っていても「何から手をつえればいいのか分からない」状態ではありませんか?
そのようなお悩みを解決するために、生前にできる「身のまわりの整理」や「今からできる手続き」について実例も交えて専門家がわかりやすく解説しました。
①相続財産とは何?
②生前の準備 現預金編
③生前の準備 生命保険編
④生前の準備 有価証券編
⑤生前の準備 不動産編
⑥まとめ
また、北野税理士事務所では毎月無料の相談会も開催しております。
相続税に詳しい税理士の他、司法書士の先生にもご相談いただけます。
相談は予約制です。
ぜひこちらよりご予約ください!

皆様こんにちは。
北野純一税理士事務所の北野です。
今回は私たちの生活に浸透してきたキャッシュレスの話題です。
ここ数年、私たちの暮らしの中から「現金」という存在が少しずつ姿を消しつつあります。街のカフェやスーパーではスマートフォン一つで支払いが完結し、財布を開く機会は減ってきました。
2022年から国や自治体への手数料・税金などの納付がキャッシュレスで行えるようになり、翌2023年には賃金のデジタル払いがスタートしました。こうした制度の整備によって、行政・企業・個人の間でお金の流れがデジタル化され、データで完結する経済インフラが広がっています。
また、経済産業省の発表によると、2024年の国内キャッシュレス決済比率は42.8%(決済総額141兆円)に達し、政府が掲げていた「4割程度」という目標を上回りました。
キャッシュレスはデジタル化推進の重要な要素の一つです。今後、益々私たちの生活と経済の基盤に深く根を下ろすことでしょう。

1.キャッシュレスの定義
キャッシュレス決済とは、現金(お札や硬貨)を使わずに、電子的な方法で支払いを行う仕組みです。代表的な手段には、クレジットカード、デビットカード、電子マネー、QRコード決済などがあります。


2.何故、キャッシュレスが必要なのか?
キャッシュレス推進の意義として2023年の経済産業省が作成した「キャッシュレス将来像の検討会」で8項目の社会的意義を上げています。
1:消費者の利便性向上
キャッシュレス決済は、紙幣や硬貨を持ち歩く手間をなくし、財布やATMを意識せずにスムーズな支払いを可能にします。銀行での引き出しや釣り銭の確認、現金残高の把握といった日常的な作業が不要となり、時間的・心理的な負担を軽減します。
2:インフラコストの削減
現金を発行・流通・管理するには、印刷・輸送・ATM運用など多くの社会的コストが発生します。日本国内では、これらの維持費が年間約2.8兆円にのぼると試算されています。
キャッシュレス化を進めることで、こうした物理的なインフラ維持コストを削減し、行政や事業者の業務効率化にもつながります。
3:業務効率化・人手不足対応
店舗や事業者において、レジ対応の現金処理・入金管理・釣り銭管理・帳簿取付作業などが削減され、オペレーションの効率化につながります。特に人手不足が深刻な業界(小売、飲食、サービス業等)では、キャッシュレス化によって現金取り扱いによる負担を軽減し、従業員はより生産性の高い業務へシフトできます。
4:公衆衛生上の安心の実現
現金利用では「手に触る、受け渡し」という物理的な接触が発生するため、感染症リスクの観点から懸念があります。そのため、キャッシュレス化(非接触・非対面決済)によってこの接点を減らすことが期待されます。
5:データ連携・デジタル化
キャッシュレス決済では、「誰が・いつ・どこで・いくら使ったか」というデータが自動的に蓄積されます。このデータを活用することで、企業は販売動向の分析、行政は経済政策のモニタリング、消費者は支出管理を容易に行うことができます。
6:不正・犯罪抑止
現金取引は“目に見えない、記録が曖昧”な部分があり、窃盗・内部不正・脱税・資金洗浄などに悪用される可能性があります。キャッシュレス化・データ化により、こうしたリスクの可視化・抑止が可能になります。
7:多様な消費スタイルを創造
キャッシュレス化により、消費者が「どこでも・いつでも・すぐに」決済できるようになるため、従来の「現金をもって・ATMを探して・釣り銭を受けて」などの制約から解放されます。
さらに、スマートフォン・アプリ・ポイント連携といった付加価値サービスと融合することで、新しい消費行動(インバウンド、観光、ECとリアル融合、マイクロペイメント等)が生まれやすくなります。
8:脱炭素社会への貢献
現金の発行・輸送・管理には紙幣・硬貨の製造・流通・保管という物理活動が伴い、CO₂排出やエネルギー消費といった環境負荷があります。キャッシュレス化によってこれらの物理活動を削減することが期待されます。
3.キャッシュレスの目指す姿
日本のキャッシュレス化は、最終的に「すべての決済をデジタルで完結できる社会」、つまり“決済のフルデジタル化”を目標としています。その実現に向けて「消費者・加盟店への周知・広報」に加え、「競争環境整備」、「付加価値サービスの開発」、「取引の自動化・効率化」、「認証手段の高度化」、「企業・行政DXの推進」というアクションを国だけでなく、民間企業や業界団体など多様な実施主体が連携しながら、段階的かつ着実に進めていく必要があります。
キャッシュレス化は単なる「便利な支払い手段」ではなく、社会全体の効率化・透明性向上・環境対応を実現する未来の基盤です。人と企業がより快適で安全に活動できる社会を支えるために、キャッシュレスの推進は欠かせない取り組みとなっているといえます。


こんにちは、北野純一税理士事務所です。
令和7年11月7日、ネクスト仏生山様にて「相続発生前 これだけは生前に整理しておきたい!」セミナーを開催いたしました。
相続は、残されたご家族にとって大きな負担になることがあります。
負担をかけないために、生前整理を始めようと思っていても「何から手をつえればいいのか分からない」状態ではありませんか?
そのようなお悩みを解決するために、生前にできる「身のまわりの整理」や「今からできる手続き」について実例も交えて専門家がわかりやすく解説しました。
【セミナー内容】
①相続財産とは何?
②生前の準備 現預金編
③生前の準備 生命保険編
④生前の準備 有価証券編
⑤生前の準備 不動産編
⑥まとめ

ご参加いただいた方からは
・初めて参加しましたが、とても分かりやすかったです。
・今まで相続手続きに関わったことはないので、全部が新鮮でした。
・聞きたいことが聞けてよかったです。
・日常関わりない話だったので、大変参考になりました。
・専門用語が多く難しい内容だったが、自分の身に無関係ではないので、帰ってから読み直したです。
とのお声をいただきました。
また、前回のセミナーにもご参加いただいていて今回も来てくださった方からは
・継続して進めていただきたいです。
といったお声もいただいております。

こんにちは、北野純一税理士事務所です。
令和7年11月1日、ネクスト舟岡様にて「相続発生前 これだけは生前に整理しておきたい!」セミナーを開催いたしました。
相続は、残されたご家族にとって大きな負担になることがあります。
負担をかけないために、生前整理を始めようと思っていても「何から手をつえればいいのか分からない」状態ではありませんか?
そのようなお悩みを解決するために、生前にできる「身のまわりの整理」や「今からできる手続き」について実例も交えて専門家がわかりやすく解説しました。
【セミナー内容】
①相続財産とは何?
②生前の準備 現預金編
③生前の準備 生命保険編
④生前の準備 有価証券編
⑤生前の準備 不動産編
⑥まとめ

ご参加いただいた方からは
・具体的に細かいことまで話してくださって、よく分かりました。
・学びの場を提供していただき助かります。質問に対しても分かりやすく丁寧に答えてくださり良かったです。
・今は元気だけど、先のことを考えることが大切だと思いました。
・具体的に今後のことを考えるきっかけになりました。
・新しい情報を分かりやすく知ることができてよかった。
・安心感があり、楽しく聞かせていただきました。
とのお声をいただきました。
また、前回のセミナーにもご参加いただいていて今回も来てくださった方からは
・前回よりも進化していて、とても勉強になりました!
・前回の受講により少しずつ生前整理ができています。今回のセミナーを参考にさらに進めていきたいです。
といったお声もいただいております。

こちらのセミナーは今月あと3回開催を予定しております!
日時と場所は以下の通りです。
・令和7年11月7日(金) ネクスト仏生山(高松市出作町292)
・令和7年11月13日(木) ネクスト林(高松市林町1472)
・令和7年11月24日(月・祝) ネクスト飯田(高松市飯田町810)
いずれも開催時間は 10:00~11:00 です。
各回先着20名様の方にご参加いただけます。
参加無料です。
ご予約は ネクスト様(0120-04-5909)までお電話をお願いいたします。
北野税理士事務所では毎月無料の相談会も開催しております。
相続税に詳しい税理士の他、司法書士の先生にもご相談いただけます。
相談は予約制です。
ぜひこちらよりご予約ください!

皆様こんにちは。
北野税理士事務所の北野です。
帝国データバンクの調査では、「人手不足倒産」が年々増加し、2025年上半期には214件に達し、労働集約型業種を中心に過去最多を更新しています。また、中小企業庁の資料では、「経営者の高齢化が進み、後継者不在、廃業の増加による雇用や技術の喪失が懸念されている」と指摘されています。そのため、事業承継を早期に取り組むことが、経営者の高齢化・後継者不在・技術喪失といったリスクを軽減し、地域経済・雇用を守る観点から極めて重要とされます。

1.事業承継の種類
■親族内承継
経営者の子どもや親族に事業を引き継ぐ形態です。血縁関係があることから、経営理念や企業文化の継承がスムーズで、長期的な視点で準備を進めやすい特徴があります。また、相続や贈与による財産・株式の移転を活用できるため、所有と経営の一体的な承継が実現しやすいメリットがあります。
■従業員承継
役員や従業員など、親族以外の社内人材が事業を引き継ぐ形態です。長年会社で働いてきた従業員であれば、事業への理解が深く、取引先との関係も構築されているため、経営方針の一貫性を保ちやすいメリットがあります。また、経営能力や実績に基づいて後継者を選定できるため、経営の安定性が期待できます。
■M&A(第三者承継)
M&Aとは、親族や従業員に後継者候補がいない場合でも、株式譲渡や事業譲渡を通じて、他の事業者や個人に事業を引き継ぐ方法です。 M&Aの実施件数は年々増加しており、2022年度は事業承継・引継ぎ支援センター経由で1,681件、民間M&A支援機関経由で4,036件が成立しています。また、公的機関による支援体制も整備され、中小企業でも活用しやすい環境が整ってきています。
2.なぜ、早く事業承継に取り組むべきなのか?3つの要因
中小企業にとって事業承継は「経営のバトンタッチ」であると同時に、「会社の未来を守る」ための経営課題です。しかし実際には、多くの経営者が「まだ先でいい」「後継者が決まってから考える」と後回しにしがちです。その結果、承継準備が遅れ、事業の継続が危うくなるケースも少なくありません。
防止策としても事業承継は“早めの着手”こそが最大のリスク対策といえるでしょう。
■1:人手不足が「承継の準備」を難しくしている
人手不足による倒産件数は過去最多を更新している中、中小企業の多くが採用難・後継者難・熟練者の退職など「人」に関する課題を抱え、承継準備を進めたくても日常業務に追われ、時間が取れない状況にあります。
特に従業員承継やM&Aによる第三者承継では、後継者候補の育成・業務の引継ぎ・取引先調整など、人材面での負荷が大きく、十分な時間と人員が必要です。
■2:経営者の高齢化が進み、「待ったなし」の段階の状況
中小企業庁の調査では、経営者の平均年齢はすでに60歳を超え、70代で現役を続けている方も増えています。このまま高齢化が進み、経営判断や財務管理の感覚が鈍り、次第に事業の勢いを失うリスクが高まります。また、健康問題や突発的な事情によって「突然の引退」や「急な廃業」を余儀なくされる場合もあります。
■3:承継には「長い時間」がかかる
事業承継は単なる社長交代ではなく、人・資産・経営権・信用をすべて次世代に引き継ぐプロジェクトです。
後継者の育成だけでも3〜5年、株式・資産の整理や取引先・金融機関との調整を含めると10年単位の準備が必要になることもあります。例えば、親族承継では相続・贈与の最適化、従業員承継では社内の信頼形成、M&Aでは相手探しやデューデリジェンスなど、いずれも短期間では完了しません。また、承継後の成長(新規事業、デジタル化、人材採用など)まで見据えると、準備開始から完了までを見据えた時間が必要です。
●サプライチェーン事業承継
サプライチェーン事業承継とは、取引先企業の廃業を防ぎ、企業間の繋がりを維持・強化するために行う事業承継の取り組みです。例えば、重要な部品メーカーが廃業すれば、完成品メーカーの生産に支障が出るだけでなく、物流や販売など関連企業にも影響が及び、連鎖的な経営危機を引き起こす恐れがあります。
中小企業の経営者の高齢化や後継者不足が深刻化する中、取引先企業が廃業すると、その影響は直接の取引先だけでなく、地域産業全体に波及する可能性があります。そのため、自社の事業継続のためにも、取引先企業の事業承継状況に目を向けることも重要です。
3.先を見据えた事業承継
事業承継は、単なる社長交代ではなく「会社の未来をつなぐ経営課題」です。
事業承継の構成要素は、大きく「人(経営)の承継」「資産の承継」「知的資産の承継」の3つに分類されます。これらの要素は相互に関連しており、どれか一つが欠けても円滑な事業承継は困難です。特に知的資産は一朝一夕には築けないため、計画的な承継準備が必要となります。
後継者の育成や株式、資産の整理には想像以上に時間がかかります。早期に着手した企業ほど、持続的な成長を実現しています。
逆に、問題を先送りするほど、選択肢が減り、廃業に追い込まれがちです。「まだ早い」ではなく、「今から備える」ことが、企業を次の世代へ確実に残す最善の経営判断と言えるでしょう。
会計事務所としても、経営者の想いと人材のバトンをどう繋ぐかの支援や承継計画を共に考え、地域の企業を未来へ導く役割を果たしていくことが求められているでしょう。
4.事業承継の支援策
全国47都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターを中心に、後継者不在の相談からM&Aまでを支援しています。さらに、事業承継・引継ぎ補助金による費用補助、事業承継税制(法人版・個人版)による贈与・相続税の軽減、ファンド・金融支援・法制度特例など、承継準備から実行、承継後の成長までを多面的にサポートする体制が整えられています。




皆様こんにちは。
北野税理士事務所の北野です。
70年の自民党の歴史で初めて、高市早苗氏が女性総裁として選出され、一般家庭出身の女性が、トップに立つという歴史的な瞬間を迎えました。長く問題視されてきた政治の世襲依存と、女性の社会進出の低さに対して大きな転換点となる出来事といえるでしょう。
しかし、日本のジェンダーギャップ指数は世界148カ国中118位(2025年)と依然として低迷しています。
企業の現場では賃金差、女性管理職比率の伸び悩み、登用パイプラインの細さ、そして閉鎖的な後継選抜といった構造的課題が数字として表れています。
本コラムでは、女性総裁誕生という歴史的転換点を機に、企業における具体的なジェンダーギャップ解消の取り組みにつなげるための道筋を探ります。
1.いまの日本の現状
総裁選が始まる前の2025年6月12日に発表された日本のジェンダーギャップは、世界経済フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数(GGI)において、世界148カ国中118位と深刻な状況にあります。特に政治分野と経済分野における男女格差の大きさが、順位を押し下げる要因となりました。

また、企業における女性の活躍を示す指標を見ると、プライム市場上場企業の女性役員比率は18.4%、経団連会員企業でも19.0%に留まっています。
政府は2030年までに30%という目標を掲げていますが、現状ではその達成には課題が残されています。
特に懸念されるのは、女性役員が一人もいない「ゼロ企業」がプライム市場でも2.4%存在することです。
さらに、女性の就業状況を示す特徴的なデータとして「L字カーブ」があります。これは30代以降の女性の正規雇用比率が大きく低下する現象を指します。
この背景には、出産・育児期における仕事との両立の難しさがあります。実際、若年層の意識調査では、「性別は関係ない」と考える人が約7割いる一方で、「仕事と育児の両立に不安」を感じる人が72.2%に上っており、制度面や職場の支援体制の不足が浮き彫りとなっています。
2.女性の活躍の推進に向けた体制整備
■女性活躍推進法の情報公表
女性活躍推進法は2016年4月に施行され、「日本社会に根強いジェンダーギャップの解消と、急速に進む労働力不足への対応」を目的としており、当初は2026年3月31日までとなっていた法律の有効期限が、2036年3月31日までに延長されました。
2022年7月8日から、常時雇用する労働者が301人以上の事業主は「男女の賃金の差異」の情報公表が義務付けられ、常時雇用する労働者が101人以上300人以下の事業主は、指定された16項目から任意の1項目以上の情報公表が必要になりました。
2026年4月1日から従業員数101人以上の企業は、「男女間賃金差異」及び新たに「女性管理職比率」の情報公表が義務となります(従業員数100人以下の企業は努力義務の対象)。
対象となる企業は、施行後最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度開始後おおむね3か月以内に公表する必要があります。
この取り組みにより、企業の賃金格差の実態が可視化され、格差是正に向けた具体的な取り組みが促進されることに期待されています。

■上場企業における女性役員の状況
企業における女性の活躍推進は、個人の能力発揮の機会を確保するだけでなく、多様な視点を経営に取り入れることでイノベーションを促進し、日本の経済社会に活力をもたらす取り組みです。
政府は「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023」において、東証プライム市場上場企業に対して2つの目標を設定しました。
1つは「2030年までに女性役員比率30%以上」、もう1つは「2025年までに女性役員を最低1名以上選任」です。
これらの目標達成に向けて、2023年10月に東京証券取引所の上場規程が改正され、企業行動規範に明記されました。
3.えるぼし認定とは
“取組”と“実績の見える化”を両輪とするのが「えるぼし認定」です。
えるぼし認定は、女性活躍推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定・届出した企業のうち、女性活躍に関する取組や実績が一定の要件を満たした場合に厚生労働大臣が認定する制度です。
えるぼし認定には、1~3段階の区分があり、5つの評価項目(採用、継続就業、労働時間等の働き方、管理職比率、多様なキャリアコース)のうち、満たした項目数で段階が決まります。
上位区分として、取組・実績が特に優良な企業を対象とする「プラチナえるぼし」があります。プラチナえるぼし認定企業は、一般事業主行動計画の策定・届出が免除されます。


4.人材戦略にも新しい視点
一般家庭出身の女性が、日本のトップに立つという前例が、今後、企業の人材戦略にも新しい視点をもたらすのではないでしょうか。
今、企業に求められるのは、単なる"象徴"で終わらせない具体的な行動です。2026年4月からの情報公表制度の拡大を好機と捉え、賃金差・女性管理職比率のKPI化と一般事業主行動計画の実効運用、そして「えるぼし」認定の取得を軸に、採用・登用・評価・開示のPDCAを実践していく必要があります。
今こそ、従来の枠組みにとらわれない多様な人材の登用と、それを支える公平な評価・報酬体系の整備に着手すべき機会ではないのでしょうか。
■参考資料
【一般社団法人日本経済団体連合会】
「上場企業役員ジェンダー・バランスに関する経団連会員企業調査結果 2025」
【厚生労働省】
「労働政策審議会労働政策基本部会 報告書(第4期) (素案)」

皆様こんにちは。
北野純一税理士事務所の北野です。
近年、あらゆる分野でデジタル化・DX(デジタルトランスフォーメーション)の波が急速に広がっており、AI、クラウド、IoTといった技術の進展は、単なる業務効率化の手段にとどまらず、新しいビジネスモデルや価値創造の基盤となりつつあります。
会計事務所でもクラウド会計ソフト、AIによる帳簿チェックや自動仕訳、電子申告・電子帳簿保存法の義務化など、業務プロセスの効率化が進んでいます。
しかし、最新のシステムやサービスを導入しただけでは、DXは実現できません。
重要なのは、それを活用し、経営課題の解決や新しい付加価値の創出につなげられる“人材”の存在です。デジタル人材は、単にプログラミングやシステム知識を持つ人に限らず、データを読み解き、新たな価値を提供し、組織を巻き込む力を備えた人材を意味します。
しかし経済産業省の調査では、日本企業はデジタル人材の不足が課題として挙げています。
多くの企業が「DXの必要性は理解しているが、進められない」現状です。理由として知識やスキルがある人がいないなどの「人材不足」を指摘しています。
そのため、裏を返せばデジタル人材を育成・確保できる企業が、市場の変化に柔軟に対応し、持続的成長を実現できる可能性があります。

1.スキルベースの人材育成に向けた政策
政府は「デジタル田園都市国家構想」の中で、2022年度から2026年度の5年間で230万人のデジタル人材を育成するという大きな目標を掲げています。
この取組は、単に技術者を増やすだけではなく、社会全体でデジタル活用を当たり前にし、あらゆる産業・地域にDXを浸透させることを狙いとしています。
この目標を実現することで、日本全体が「学び続ける社会」へと変わることが期待されています。
■デジタルスキル標準による学びの指針
デジタルスキル標準(DSS)は、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が策定した、DXの実現に向けた指針です。
個人の学習や企業の人材確保・育成に活用することを目的としており、「DXリテラシー標準(DSS-L)」と「DX推進スキル標準(DSS-P)」の2つの標準で構成されています。

■学習機会の拡充とアクセスの容易化
政府とIPAが運営するポータルサイト「マナビDX」では、民間企業の教育講座をスキル標準に紐づけて一元的に提供。2025年時点で700以上の講座が掲載され、社会人や学生が自分に合ったリスキリングの機会を選べる環境が整いつつあります。
■能力保証とキャリア連動
情報処理技術者試験をはじめとした国家資格や民間資格を通じて、学習成果を客観的に評価・証明します。資格や認定をキャリアアップや処遇改善と結びつけることで、個人の学びへのインセンティブを強化します。

■官民連携によるエコシステム形成
人材育成を公的部門が担うだけでなく、学習サービスの提供や現場での実践教育は民間が主導とする役割分担を進めています。
これにより、社会全体で学び直しを促進する「リスキリングのエコシステム」を形成し、地域や企業規模を問わず人材育成の裾野を広げることが可能になります。
2.育成の課題とその乗り越え方
デジタル人材の育成には、時間不足や学習意欲の低下、知識の陳腐化、現場への適用難などの課題があります。
これを克服するには、「個人の学びの動機づけ」と「企業側の評価・処遇の仕組み」の個人と企業を両方強化することが、育成を加速させるカギとなるでしょう。

3.今後を見据えて
デジタル時代における企業の発展は、人材育成への投資にかかっているといえます。
会計・税務の世界でも、単なる数字処理だけでなく、データの価値を引き出し、顧問先の意思決定支援や業務効率化に貢献することが求められつつあり、デジタル人材の育成は選択肢ではなく、経営的戦略になることが予想されます。
そのため、「どのようなデジタルスキルを持った人材が必要か」を明確化し、それを育てるプランを立て、外部リソースや制度を積極的に活用することで、単なる業務効率化にとどまらず、顧問先への新たな価値提供や、将来的な事務所全体の競争力強化につながることでしょう。
■参考資料

こんにちは!
北野純一税理士事務所の北野です。
今回はマイナンバーカードで何ができるのかを解説します。
マイナンバーカードは、2025年7月末時点で国民の約79.2%が保有しており、ここ数年で生活に浸透してきました。マイナポイント事業をきっかけに取得者が増え、すでに多くの国民が日常的に利用できる状態となりました。
2021年10月20日からマイナンバーカードの健康保険証利用が本格運用され、従来の健康保険証の新規発行が2024年12月2日に終了し、今後はマイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」を基本とする運用に移行します。また、マイナンバーカードと運転免許証及び運転経歴証明書の一体化が今年の3月24日から開始されました。
政府の活用推進基本計画によると、今後も活用範囲を広げるとの事で、今回はマイナンバーカードで何ができるのかを解説します。

1.マイナンバーカードでできる事
マイナンバーカードは、単なる身分証明書にとどまらず、暮らしに密着した幅広い行政手続きや生活インフラと結びつく「国民のデジタル基盤」としての役割を担っています。
■身分証明書としての利用
マイナンバーカードは、顔写真付きの公的な身分証明書として利用できます。マイナンバーの提示と本人確認が同時に必要な場合、このカード1枚で対応可能です。
■各種証明書のコンビニ取得
全国のコンビニエンスストアで、以下の証明書が取得可能です。利用時は4桁の利用者証明用電子証明書の暗証番号が必要です。
・住民票の写し
・印鑑登録証明書
・課税証明書/非課税証明書
・戸籍関係証明書
■健康・医療情報の管理
・マイナ保険証として医療機関での受診が可能
・診療、薬剤情報の確認
・医療費情報の確認や医療費控除の手続き
■公金受取口座の登録
給付金等を受け取るための預貯金口座を事前に登録できます。これにより、年金、児童手当、所得税還付金などの受け取りが円滑になります。登録した口座情報はマイナポータルで確認でき、いつでも変更や削除が可能です。
■行政手続きのオンライン化
・確定申告に必要な証明書類の一括取得
・年金情報の確認と各種申請
・引越し時の転出届のオンライン申請
・運転免許証との一体化(マイナ免許証)
■その他の便利な機能
・図書館カードとしての利用
・パスポート申請手続きでの活用
・各種行政サービスの電子申請
2.今後の活用方針
医療分野では電子処方箋や診療情報の共有が始まりつつあり、患者一人ひとりの情報がよりスムーズに医療機関間でやり取りできる体制づくりが進められています。また介護や福祉サービスにおいても、マイナンバーカードを活用した利用者管理やサービス提供の効率化が期待されています。
民間分野でも利用拡大が視野に入っています。特に金融機関では、口座開設や本人確認(KYC)にマイナンバーカードを利用する動きが強まっており、従来煩雑だった手続きが簡素化されつつあります。電子署名の仕組みを活用すれば、契約書の締結や各種取引も効率的に行えるようになり、今後は企業活動の中でも存在感を増していくでしょう。
■医療・福祉分野での統合利用
電子処方箋や診療情報の共有、介護や福祉サービス利用の効率化にマイナンバーカードを活用。
■民間事業者との連携
金融機関やオンラインサービスにおける本人確認手段としての利用拡大。電子署名を活用した契約の効率化も見込まれます。
■セキュリティ・利便性の両立
生体認証や暗号化技術を活用し、セキュリティを確保しながら利用シーンを広げる方針。
■データ連携基盤の構築
自治体・医療機関・教育機関といった公的機関に加え、民間事業者とも連携できる仕組みを強化し、社会全体でのデジタルインフラとして定着を目指す。
3.マイナンバーカードの課題
マイナンバーカードの課題は残されています。個人情報保護やセキュリティへの不安は依然として根強く、利用者への説明が欠かせません。また、高齢者やデジタルに不慣れな層が利用しやすい環境整備も重要です。さらに、自治体によって対応スピードに差があることから、地域ごとの格差をどう埋めていくかも今後の課題と言えるでしょう。
■利用者の不安解消
個人情報保護やセキュリティ面での懸念が根強いため、透明性のある説明や安全性の実証が不可欠。
■地域格差の是正
自治体ごとの対応速度に差があるため、全国的に均一な利便性の確保が課題。
■高齢者・デジタル弱者への支援
利用が困難な層に対する支援体制の充実が必要。
4.「普及フェーズ」から「活用フェーズ」へ
マイナンバーカードは普及段階から「本格的な活用フェーズ」へ移行しており、医療、福祉、金融、行政手続きと、活用領域は広がり続けています。マイナンバーカードの活用によって「書かない窓口」「ワンストップ行政」の実現が進みつつあります。また、デジタル庁は、自治体だけでなく民間事業者の利用シーン拡大に向けた取り組みを促進しています。
会計事務所としては、単なる制度の動向把握にとどまらず、顧問先の業務効率化や経営改善の視点から「マイナンバーカードをどう活かすか」を積極的に提案していくことが、今後ますます重要になるでしょう。


こんにちは!
北野純一税理士事務所の北野です。
今回は、10月から創設される「教育訓練休暇給付金」の話題です。
令和7年10月から「教育訓練休暇給付金」が創設されます。
この制度は、令和6年5月に成立した「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)」に基づくもので、雇用保険の被保険者が教育訓練のために休暇を取得した際、賃金の一定割合を給付金として受け取ることができます。
本コラムでは、この新制度の概要や注意点についてご紹介します。社員の能力開発やスキルアップを支援したいとお考えの方は、ぜひご一読ください。
1.教育訓練休暇給付金とは?
「教育訓練休暇給付金」とは、働きながらスキルアップを目指す労働者を支援する新しい制度です。
この制度では、労働者が自己啓発のために教育訓練に専念する期間中、失業給付(基本手当)に相当する給付金を受け取ることができます。
「スキルアップしたいけど、仕事と資格の勉強を両立させるのは難しい」「資格取得のために会社を休んで通学すると、その間の給料が不安」と思ったことがある方などに検討して頂きたい制度です。
■職業訓練休暇の手続きの流れ

■この制度の対象者
対象者は雇用保険の一般被保険者であり、以下の要件を全て満たしている必要があります。
①休暇開始前の2年間、12か月以上の被保険者期間があること
※原則、11日以上の勤務実態がある月が被保険者期間として算定の対象になります
②休暇開始前に5年以上の雇用保険加入期間があること
※離職期間等がある場合、12か月以内であれば、一定の要件に合致すると加入期間を通算できます
●受給期間、給付日数、給付額について

●対象となる休暇
教育訓練休暇給付金の支給対象となる休暇は、3つの要件をすべて満たす必要があります。
①就業規則や労働規約等で定められた休暇制度に基づく休暇であることが求められます。
そのため、教育訓練休暇制度を就業規則または労働協約等に規定する必要があります。
②この休暇は労働者が自発的に取得を希望し、事業主から承認を得た30日以上の無給の休暇である必要があります。会社からの業務命令ではなく、労働者本人の意思による取得が前提となります。
③休暇中に受ける教育訓練は以下のいずれかに該当する必要があります。
・学校教育法に基づく大学、大学院、短期大学、高等専門学校、専修学校、各種学校での教育
・教育訓練給付金の指定講座を提供する法人等での教育訓練
・職業安定局長が定める職業に関する教育訓練(司法修習、語学留学、海外大学院での修士号取得など)
2.教育訓練休暇給付金の注意事項
●事業主に対する注意事項
(1)解雇予定者への休暇付与は認められません
解雇や雇止めを予定している労働者に対して、教育訓練休暇給付金の対象となる休暇を取得させることはできません。このような場合に虚偽の届出を行うと、罰則の対象となります。また、教育訓練休暇を取得した労働者を後日解雇した場合、事業主は一定期間、雇用関係助成金を受給できなくなる可能性があります。
(2)申請関連書類は速やかに交付
教育訓練休暇給付金の申請手続きでは、以下の流れで書類の提出・交付が必要です。
特に③の段階で、事業主は受け取った書類を速やかに該当する労働者へ渡してください。
①事業主がハローワークへ賃金月額証明書等を提出
②ハローワークから事業主へ必要書類(賃金月額証明票、申請書等)が交付
③事業主から休暇取得者へ書類を交付
●労働者に対する注意事項
(1)被保険者期間のリセットについて
教育訓練休暇給付金を受給すると、休暇開始日より前の被保険者期間や雇用保険加入期間はリセットされます。これにより、一定期間は失業給付などの雇用保険制度に基づく給付金を原則として受給できなくなります。ただし、育児休業等給付、介護休業給付、教育訓練給付金については影響を受けません。
(2)不正受給の禁止
虚偽の申請など不正な行為により給付金を受給した場合、以下の処分を受ける可能性があります。
・給付金の受給資格喪失
・不正受給額の返還
・返還額の2倍の金額の納付命令
・詐欺罪としての刑事処分
また、給付前であっても不正が発覚した場合、休暇開始日前の被保険者期間が無効となり、教育訓練休暇給付金や他の給付金も受けられなくなります。
3.新制度を利用してスキルアップ!
教育訓練休暇給付金の創設は、これまで十分な支援がなかった「働きながら学ぶ」人々を後押しする制度です。
この制度により、生活費の不安なく教育訓練に専念できる環境が整い、多くの働き手が新たなスキルを習得する機会を得られるようになります。
企業にとっても、意欲ある人材に学習機会を提供することは、従業員の満足度向上はもとより、組織全体の生産性向上や創造性の醸成につながります。
さらに、労働人口が減少する中、外部からの人材獲得が困難になっている現状を踏まえると、既存の従業員の能力開発は企業の持続的な成長に不可欠な要素となっています。
令和7年10月の制度スタートに向けて、事業主の皆様は制度内容を十分に理解し、従業員の能力開発を支援する体制を整える環境が必要です。
この新制度が、企業と働き手の双方にとって、より良い未来を築く一歩となることを期待しています。
■参考資料
厚生労働省:

こんにちは!
北野税理士事務所の北野です。
令和7年度の地域別最低賃金額改定の目安が、第71回中央最低賃金審議会で取りまとめられました。都道府県の経済実態に応じて全都道府県をABCの3ランクに分類し、Aランクが63円、Bランクが63円、Cランクが64円の引き上げとなる見込みです。そのため、全国の加重平均額が1,118円となり、1978年の目安制度開始以来最大となる引き上げとなりました。
労働者の生活向上と企業の支払い能力のバランスを図りながら、働く人々の賃金の底上げを目指す最低賃金制度、今回の大幅な引き上げとなったそれぞれの見解を解説します。
1.最低賃金とは
最低賃金制度は、労働者の賃金の最低額を法律で保障する制度です。国が定めた最低賃金額以上の賃金を、使用者は労働者に支払わなければなりません。たとえ労使で合意したとしても、最低賃金を下回る賃金での契約は違法であり、使用者には罰金が課せられます。
最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2つあり、「地域別最低賃金」は都道府県ごとに定められ、その地域で働くすべての労働者に適用されます。「特定最低賃金」は、電気機械器具製造業や自動車小売業といった特定の産業で働く労働者にのみ適用されます。

2.最低賃金の決定プロセス
最低賃金は、労働者の生活と企業の実態を総合的に判断して決められています。最低賃金の決定プロセスには、中央最低賃金審議会と地方最低賃金審議会という2つの審議会が重要な役割を果たしており、中央最低賃金審議会は厚生労働省に、地方最低賃金審議会は各都道府県労働局に設置されています。
最低賃金の決定や改定にあたっては、以下の3つの要素を考慮します。
①「労働者の生計費」
②「労働者の賃金」
③「通常の事業の賃金支払能力」
特に労働者の生計費を検討する際は、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を送れるよう、生活保護制度との整合性にも配慮がなされます。
審議会では、賃金の実態調査結果をはじめとする各種統計資料を元に分析・検討します。そして、各地方最低賃金審議会での審議を経て、最終的に都道府県労働局長が地域別最低賃金を決定または改定する仕組みとなっています。
3.それぞれの見解:労働者側
中央最低賃金審議会における労働者側の主張は、大きく6つのポイントに集約されます。
第一に、今年の春季生活闘争では昨年の5%台をさらに上回る賃上げが実現したことを指摘。この成果を、労働組合のない職場で働く労働者にも波及させるため、最低賃金の大幅引き上げが必要だと訴えました。
第二に、全都道府県での時給1,000円超えの実現を求めました。さらに中期的な目標として「一般労働者の賃金中央値の6割」を掲げ、継続的な引き上げの必要性を主張しています。
第三に、現状の最低賃金では最低生計費を賄えていないと指摘。特に消費者物価指数が4%強の高水準で推移する中、最低賃金近傍で働く労働者の生活は一層厳しさを増していると強調しました。
第四に、地域間の最低賃金格差の問題に言及。特にB・Cランクの地域で目安を大幅に超える引き上げが相次いだことを挙げ、より建設的な議論を促すため、昨年の実績を踏まえた目安の提示を求めました。
第五に、最低賃金引き上げの雇用への影響は限定的との見方を示しました。むしろ最低賃金の引き上げに伴い労働力人口は増加傾向にあると指摘しています。
第六に、企業の経常利益は堅調に推移しており、賃金支払能力に問題はないとの認識を示しました。その上で、中小・零細事業所での賃上げ実現に向けた政府支援策の拡充を求めています。
以上の主張を踏まえ、労働者側は「誰もが時給1,000円」の実現と地域間格差の是正につながる目安の提示を要求しましたが、最終的な公益委員見解には不満を表明する結果となりました。
4.それぞれの見解:使用者側
中央最低賃金審議会における使用者側の主張は、最低賃金引き上げの必要性を認識しつつも、慎重な姿勢を示しました。
第一に、中小企業の経営環境に関する懸念を表明しました。原材料費や労務費の上昇分を価格に転嫁できていない企業が多く、特に地方の小規模事業者の経営状況は厳しいと指摘。価格転嫁が十分でない状況での過度な最低賃金引き上げは、企業経営を圧迫する恐れがあると主張しました。
第二に、最低賃金決定の三要素(生計費・賃金・通常の事業の賃金支払能力)のうち、「賃金支払能力」を重視する立場を明確にしました。特に賃金改定状況調査の賃金上昇率を重要視し、データに基づいた納得性の高い目安額を求めました。 第三に、最低賃金の地域間競争に対する懸念を示しました。近年、地方最低賃金審議会で目安額以上の引き上げを行う地域が増加しており、隣接地域との競争や最下位回避を意識した判断が見られることを問題視。本来の目的である「セーフティーネット」の役割から外れていると指摘しました。
第四に、最低賃金の発効日について柔軟な対応を求めました。近年の大幅な引き上げにより、企業側の準備期間確保が必要となっています。また、「年収の壁」による就業調整で人手不足が深刻化する懸念もあり、地域の実情に応じた発効日の設定を要望しました。
結果として、使用者側は最終的な公益委員見解に対して不満を表明する形となりました。
5.それぞれの見解:公益委員会
中央最低賃金審議会の公益委員見解は、最低賃金の引き上げと中小企業支援の両立を目指す立場を示しています。審議にあたっては、令和5年全員協議会での合意事項である「最低賃金法の3要素に基づく丁寧な議論」を重視。「新しい資本主義のグランドデザイン」や「経済財政運営と改革の基本方針2025」も踏まえながら、各種指標を総合的に検討しました。
公益委員は特に、中小企業・小規模事業者への支援を重要視しています。具体的には、生産性向上支援や価格転嫁対策の強化を求めています。業務改善助成金の拡充や、キャリアアップ助成金等での賃上げ支援の充実を要望。また、官公需対策や取引適正化の徹底、事業承継支援なども含めた総合的な経営基盤強化策を提言しています。 価格転嫁については、下請法改正法の確実な執行を求めています。公正取引委員会の体制強化や、省庁間連携の構築を要望。特に価格転嫁率の低い業種への重点的な対応や、下請Gメン等による監視体制の拡充を提案しています。
さらに、「年収の壁」への対応として支援パッケージの活用促進や、行政の業務委託における最低賃金への配慮なども求めています。このように公益委員見解は、最低賃金引き上げの実効性を確保しつつ、中小企業の経営基盤強化を通じた持続可能な賃上げの実現を目指す内容となっています。
6.政府の目標は全国平均1,500円
政府は、2020年代における全国平均1,500円という意欲的な目標を掲げています。この実現に向けて、賃金引き上げを成長戦略の核と位置づけ、持続的な物価上昇のもとで実質賃金を年1%程度上昇させることを目指しています。
しかし、この目標達成には課題も存在します。特に中小企業・小規模事業者の経営基盤強化が不可欠です。そのため政府は、適切な価格転嫁の促進や生産性向上支援、事業承継・M&Aの後押しなど、総合的な支援策を展開。さらに、GX・DXやスタートアップ支援を通じた「投資立国」の実現や、国民の資産形成を促進する「資産運用立国」への転換も進めています。
今回の過去最大となる最低賃金引き上げは、1,500円という目標に向けた第一歩と言えます。賃金上昇を通じた経済の好循環を生み出し、すべての働く人が将来に希望を持てる社会の実現が期待されています。
■参考資料
内閣府: 「経済財政運営と改革の基本方針2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~(令和7年6月13日閣議決定) (PDF形式:1.2MB) 」
厚生労働省: 「令和7年度地域別最低賃金額改定の目安について」

こんにちは!
北野税理士事務所の北野です。
近年、日本の働き方は大きな転換期を迎えています。働き方改革関連法の施行により、残業時間の上限規制や有給休暇の取得義務化など、労働環境の改善が進められてきました。そうした流れの中で、東京都が今年の4月から導入をしたフレックスタイム制を活用した週休3日制は、新しい働き方のモデルケースとして注目を集めています。週休3日制については、業務効率への影響を懸念する声がある一方で、働く人の健康維持やワークライフバランスの向上につながり、結果として生産性の向上やモチベーションアップにつながるという期待の声も高まっています。
1.週休3日制とは
週休3日制は、働き方改革の新たな取り組みとして注目を集める制度です。従来の週休2日制とは異なり、社員が自身のライフスタイルや働き方に合わせて、週に3日の休日を柔軟に設定できる仕組みです。この制度は、育児や介護との両立、自己啓発、余暇の充実など、多様な働き方のニーズに応える施策として期待されています。
■週休3日制の形態
1:労働時間・給与維持型
週の総労働時間と給与水準を維持したまま、1日あたりの労働時間を延長することで週3日の休日を実現します。
例えば、1日の労働時間を9~10時間に設定し、4日間で通常の週の労働時間を達成する形式です。この形態を導入する場合、変形労働時間制やフレックスタイム制などの併用が必要となります。
2:労働時間・給与削減型
週の労働日数を減らすことで、それに応じて労働時間と給与を削減する形態です。1日あたりの労働時間は従来通りに維持しながら、週の総労働時間を減らすことで、より柔軟な時間活用を可能にします。給与は労働時間の削減に応じて調整されます。
3:労働時間削減・給与維持型
週の労働時間を削減しながらも給与水準を維持する先進的な形態です。1日あたりの労働時間は変更せず、週の総労働時間を削減します。企業側は高い生産性向上が求められ、短時間で成果を上げる策が必要とされます。
週休3日制の導入にあたっては、一斉休業とするか交代制にするか、業務の繁閑期への対応、取引先との調整など、様々な要素を考慮する必要があります。各企業は自社の事業特性や従業員のニーズを踏まえ、最適な形態を選択することが重要です。
■選択的週休3日制
選択的週休3日制は、従業員が希望に応じて週3日の休日を取得できる柔軟な勤務制度です。週休3日制とは異なり、全従業員一律ではなく、個人の事情や希望に合わせて制度を利用できる点が特徴です。選択的週休3日制は、2021年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針)に盛り込まれ、注目を集めています。
2.週休3日制の効果
週休3日制には、働く人と企業の双方にとって大きなメリットがあります。そのため、働く人の生活の質を高めながら、企業の持続的な成長を支援する制度として期待されています。
■働く側のメリット
多様な働き方を望む人の働き方の選択肢を増やし、ワーク・ライフ・バランスの実現などにつながりやすい。
■企業のメリット
社員のワーク・ライフ・バランスの実現や人材確保、離職防止、満足度向上、スキルアップなどにつながりやすい。
3.週休3日制 検討・導入のステップ
週休3日制の導入を検討する際は、5つのステップに沿って進める必要があります。これらのステップを着実に進めることで、後々のトラブルを防ぎ、企業と従業員双方にとって効果的な週休3日制の導入が可能になります。なお、導入後も定期的に制度の効果検証と必要な改善を行うことが、制度の定着と成功につながります。
【1:導入目的の整理】
企業が週休3日制で実現したい事、従業員の働き方ニーズを明確にします。この制度が効果を発揮するには、残業前提の働き方を見直し、休暇を取得しやすい職場風土を醸成することが重要です。自社の現状と課題を整理し、導入目的を明確にします。
【2:制度内容の検討】
制度形態の選定から始め、具体的な制度設計を行います。
・制度形態(「労働時間・給与維持型」、「労働時間・給与削減型」、「労働時間削減・給与維持型」)
・対象となる従業員の範囲
・制度利用の条件(事由制限の有無)
・休日設定と労働時間
・処遇条件(特に給与削減型の場合)
・制度の適用期間
・申請・承認の手続き
・その他の関連制度との調整
【3:運用体制の整備】
制度を円滑に運用するための体制づくりを行います。特に週休三日制が選択性で週休2日制の従業員と混在している場合、業務に支障が出ない仕組みの構築が重要です。業務分担の見直しや、チーム全体でのバックアップ体制の確立が必要とされます。
【4:法的対応の実施】
就業規則の変更や必要な労使協定の締結を行います。特に、変形労働時間制やフレックスタイム制を併用する場合は、それぞれの制度に応じた手続きが必要です。
■フレックスタイム制
あらかじめ定められた総労働時間の範囲内で、従業員が自身の裁量で日々の始業・終業時刻を決めることができる柔軟な勤務制度です。
フレックスタイム制の導入には、就業規則等で始業・終業時刻を従業員の決定に委ねることを明記し、さらに労使協定で以下の6つの事項を定める必要があります。
1:制度の対象となる従業員の範囲
2:労働時間を精算する期間(清算期間)
3:清算期間における総労働時間
4:1日の標準労働時間
5:必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)※任意設定
6:出退勤の選択が可能な時間帯(フレキシブルタイム)※任意設定
■1か月単位の変形労働時間制
1か月以内の期間で労働時間を柔軟に配分できる制度です。この制度は、特定の日に8時間を超える勤務や、特定の週に40時間を超える勤務が可能になります。ただし、1か月の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間以内(特例措置対象事業場は44時間以内)となるように設定する必要があります。この制度を導入する際、4点注意が必要です。
1:制度の対象となる従業員の範囲
2:対象期間と起算日を具体的に定めること(例:毎月1日起算で1か月間)
3:労働日と1日ごとの労働時間をシフト表や会社カレンダーであらかじめ明示すること(任意の変更は不可)
4:労使協定の有効期間は対象期間より長く設定し、適切な運用のために3年以内程度とすること
※特例措置対象事業場とは、常時使用する労働者が10人未満の商業、映画・演劇業(映画製作を除く)、保健衛生業、接客娯楽業の事業場を指します。
【5:制度の周知と運用開始】
従業員に対して、制度導入の目的や具体的な利用方法、注意点などを丁寧に説明します。
4.今後の週休3日制の動向
日本における週休3日制は、2021年の「経済財政運営と改革の基本方針」で普及促進が示されましたが、2025年7月現在、義務化の予定はありません。政府は企業や個人の自主的な選択を重視する方針を取っており、各企業の状況に応じた柔軟な導入を推進しています。 週休3日制への関心が高まることで、今後は導入企業の成功事例や課題が蓄積され、より実践的な制度設計や運用モデルが確立されていくと予想されます。特に、デジタル化やリモートワークの普及により、柔軟な働き方への需要は一層高まることが見込まれます。
■参考資料
都庁総合ホームページ: 「令和6年第四回都議会定例会 知事所信表明」
内閣府: 「経済財政運営と改革の基本方針2021」
厚生労働省: 「選択的週休3日制の紹介」

こんにちは!
北野税理士事務所の北野です。
近年、企業規模を問わず、多くの企業で人手不足が深刻化しています。企業の欠員率(常用労働者数に対する未充足求人数の割合)は、2010年以降一貫して上昇しており、特に中小規模企業ではその傾向が顕著です。
例えば、従業員数5~29人の企業では、欠員率が約1%から5%程度へと大幅に上昇しており、人材の確保が容易とされていた大企業でさえ、欠員率は1%から2%程度に高まっています。 こうした人手不足を補うためには、新たな人材の採用が不可欠ですが、ハローワークにおける求人充足率(求人が実際に紹介された割合)は、2010年以降、フルタイム・パートタイムともに低下傾向が続いています。フルタイム求人の充足率は10%前後、パートタイムでも15%前後と、求人数の多さに対して応募が少ない状況が続いています。
1.求職者にとって判断材料の一つである「賃金」
こうした人手不足の中で、求職者の応募状況を左右する要因としているのが「求人条件」です。
ハローワークにおけるデータ分析によると、求人賃金を最低賃金よりも5%以上高く設定した場合、3か月以内の被紹介件数(応募に至った回数)は約10%増加する傾向があります。さらに、「完全週休2日」や「ボーナス支給」などの条件も、応募を促進する効果があるとされています。
環境面では、時間外労働が多い職場では応募件数が減少する傾向があり、求職者がワーク・ライフ・バランスを重視していることがうかがえます。また、求職者が実際に入職先を選んだ理由を見ても、「仕事の内容への興味」や「能力・個性・資格の活用」に次いで、「収入の多さ」と「労働条件の良さ」が判断要素となっています。
そのため人材確保のためには、適切な賃金水準の設定に加えて、休暇制度や労働時間など、総合的な労働条件の整備が求められます。
2.賃上げによる離職確率の低下について
賃上げは単に人材を採用する手段にとどまらず、従業員の定着を促進する重要な施策でもあります。前職を離れた理由として多く挙げられるのは、「収入が少ない」、「労働条件が悪い」といった要因です。特にフルタイム労働者では、男女ともに約1割が「収入の少なさ」を離職の主因としています。このことから、十分な給与水準を確保することは、従業員の離職防止に直結するといえます。
さらに、(独)労働政策研究・研修機構が実施した企業調査によれば、ベースアップを実施した企業のうち約2割が「社員の離職率が低下した」と回答しており、加えて約4割の企業が「既存社員のやる気が高まった」と述べています。
こうしたデータは、賃上げが従業員のモチベーション向上とともに、離職の抑制につながる有効な手段であることを、企業自らが実感していることがうかがえます。
そのため、賃上げは従業員の働く意欲を引き出し、組織への定着を後押しする効果が期待できることから、持続的な雇用環境の構築において不可欠な取り組みといえます。

3.賃上げは労働者のモチベーションや自己啓発にプラスの効果をもたらす
厚生労働省の調査によれば、年収が増加した労働者は、仕事への満足度が高まり、「生き生きと働いている」と感じる割合が増加する傾向にあります。特に、年収が25万円以上増加した場合には、その効果がより顕著であり、単なる金銭的な満足だけでなく、働き方の主体性や積極性といった精神面にも良い影響を及ぼしていることがうかがえます。
さらに、年収の増加は「自己啓発活動」にも好影響をもたらしています。年収が横ばいまたは減少した層の約19~20%に比べ、年収が25万円以上増えた層では約23%が新たに自己啓発に取り組んでおり、一定の収入の伸びが自身の成長意欲を後押ししている可能性が示唆されます。 加えて、年収の上昇は「個人の幸福度」の向上にもつながっており、年収が増えた層ほど幸福感の高まりが見られる結果となっています。
これらのことから、賃上げは単なる報酬の増加にとどまらず、労働者のモチベーションやエンゲージメント、さらには自己成長や幸福感の向上といった多面的な効果をもたらし、企業の生産性向上にも寄与する重要な施策であるといえます。

4.賃金引き上げ支援制度の活用
厚生労働省・中小企業庁では、企業の賃金引き上げを支援するため、複数の助成金・補助金制度を用意しています。これらの制度は、条件を満たせば組み合わせての利用も可能です。ただし、同一の設備投資などに対する重複利用はできません。
■業務改善助成金
[対象]
・中小企業・小規模事業者であること (大企業と密接な関係を有する企業(みなし大企業)でないこと)
・事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
・解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がないこと
[支援内容]
・事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げること
・生産性向上のための設備投資や業務改善の取り組みを行うこと
■キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)
[対象(全コース共通)]
有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった非正規雇用(有期雇用労働者等)の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組に取り組む事業主。
1:雇用保険適用事業所として登録している
2:各事業所に「キャリアアップ管理者」を配置している
3:「キャリアアップ計画」を作成し、労働局長の認定を受けている
※計画内容を変更する場合は、実施日の前日までに変更届の提出が必要
4:対象労働者の労働条件、勤務状況、賃金支払い状況を証明できる書類を整備している
※賃金の算出方法が明確であること
5:キャリアアップ計画期間内に実際の取り組みを行っている
[支援内容]
・非正規雇用労働者の基本給を3%以上引き上げる場合に助成
・最低賃金の改定に伴う賃金規定の改定も対象
・就業規則等の作成・変更に係る費用も助成対象
■IT導入補助金・ものづくり補助金
[対象]中小企業・小規模事業者
各業種に従業員数の対象規模範囲があり、業種によっては資本金の対象範囲があります。
[支援内容]
・通常の補助率よりも優遇された2/3の補助率を適用
・生産性向上に資するIT機器の導入、最低賃金引上げへの促進(IT導入補助金)
・製造過程の改善に必要な設備投資等を支援(ものづくり補助金)
これらの支援制度は、企業の規模や業態、実施する取り組みによって、適用される要件や助成額が異なります。申請に際しては、労働局や産業支援センター等に相談、確認をすることをお勧めします。
5.賃上げは人件費増ではなく「投資」である
企業にとって賃上げは一時的なコスト増に見えるかもしれません。しかし、離職率の低下、エンゲージメントの向上、スキルアップの促進といった企業成長のエンジンとなります。
人手不足時代における競争優位の鍵は、「魅力的な報酬体系」と「安心して働ける環境づくり」です。離職防止の観点からも、戦略的な賃上げの実行が、今後ますます重要になっていくでしょう。
■参考資料
【厚生労働省】

こんにちは!
北野税理士事務所の北野です。
今回は国税庁査察の実態についてです。
国税庁が発表した「令和6年度 査察の概要」では、悪質な脱税への厳正な対応を通じた課税の適正化と申告納税制度の維持に向けた取組が報告されました。本年度は98件の告発と82億円にのぼる脱税総額が明らかとなり、消費税不正受還付や無申告、国際事案、社会的波及効果の高いケースに対して、重点的な調査が実施されました。デジタル化・国際化が進む中、巧妙化する手口への対応と、有罪率100%という高い司法成果も注目されるポイントです。
1.脱税告発98件、脱税総額82億円に、実刑判決も多数
令和6年度において、国税庁は98件の脱税事案を検察庁へ告発しました。告発された案件の脱税総額は82億円、1件あたり約8,400万円にのぼります。告発率は65.3%と前年よりやや低下しましたが、一審判決99件全てで有罪が言い渡され、13人に実刑判決が下されました。
そのうち最も重いものは懲役9年で、詐欺などの併合罪によるものです。脱税資金は高級品や暗号資産への投資、海外カジノなどにも使われており、その実態の悪質性が浮き彫りになりました。

2.仕入税額控除や輸出免税の悪用が横行
消費税に関する不正が依然として多数を占め、令和6年度は29件の消費税事案が告発されました。そのうち17件は不正受還付に関わるもので、不正受還付額の総額だけで30億円を超えました。具体的には、以下などです。
【事案の概要】
●高級腕時計を海外へ輸出販売したように偽装するため、インターネット等で購入した安価な腕時計を用意し高価な腕時計を購入したとする領収証や輸出関係書類を作成して、架空の課税仕入れ及び架空の輸出免税売上げを計上することで、不正に消費税の還付を受け、又は受けようとした。
●不動産賃貸業を営むグループ法人7社において、居住用賃貸建物の取得に係る仕入税額控除を過大に計上するため、架空の金地金取引により課税売上割合を偽装することで、不正に消費税の還付を受け、又は受けようとした。
●不正加担者に実際の工事代金を水増しした内容虚偽の工事請負契約書及び請求書を作成させ、課税仕入れを過大に計上することで、不正に消費税の還付を受けようとした。
●ネットオークションやフリマサイトで行ったトレーディングカードの売上げを計上しない方法により課税売上げに係る消費税額を過少に計上することで、消費税の中間納付に係る還付を受けるとともに、納めるべき消費税を免れていた。
また、無申告事案も13件告発され、農作業収入や動画配信の使用料、コロナ支援金の仲介手数料などに係る申告逃れが摘発対象となりました。無申告は納税制度の根幹を揺るがす行為として厳しく対処されています。

3.海外口座、暗号資産活用の脱税が目立つ
グローバル化やデジタル化の進展により、国際事案も20件が告発されました。医薬品通販やアフィリエイト報酬などの収入を海外口座に留保したり、暗号資産に換えたりすることで、所得税を免れる手口が散見されます。
また、光学部品の国外売上げ除外や架空外注費の計上による、法人税及び所得税逃れなど、より複雑・巧妙な脱税スキームへの対応も進んでいます。租税条約に基づく情報交換制度も活用され、国境を越えた不正に対する連携体制が整備されています。
4.芸能事務所や医療法人も摘発対象に
査察は、社会的影響力の大きい事案にも注力しています。有名タレントが所属する芸能事務所の架空外注費計上や、医療法人が理事長の高級時計購入費を診療材料費に仮装計上する以下などの事例が告発されました。
【事案の概要】
●脱税指南者が、複数の給与所得者を勧誘した上で、架空の事業所得の損失を計上して給与所得と損益通算することにより、給与所得に係る源泉所得税の還付を受ける不正手段を指南し、これらの者の所得税を免れさせていた。
●税理士である脱税請負人が、自ら架空外注費の計上先となる不正加担先を用意した上、自身の顧客に脱税を指南し、多額の法人税及び消費税を免れさせていた。
●弁護士業を営む法人が、不正加担者を利用し取引事実のない架空の業務委託費を計上する方法により、法人税を免れていた。
●人気タレントが所属する芸能事務所が、複数の不正加担先に架空の請求書や業務委託契約書を作成させた上、架空の広告宣伝費や外注費を計上する方法により、法人税及び消費税を免れていた。
●ダイエット目的で人気の漢方内科診療を行う医療法人が、理事長の私的な高級腕時計の購入代金を診療材料仕入高に仮装計上する方法により、法人税を免れていた。
さらに、税理士や脱税指南者が関与した組織的脱税や、相続財産の申告漏れなども摘発対象です。
令和6年度に告発された業種としては、建設業(21件)、不動産業(11件)、人材派遣業(5件)が上位を占めています。


こんにちは!
北野税理士事務所の北野です。
今回は先日改正された「年金制度」に関するお話です。
令和7年5月に国会へ提出され、6月13日に成立した「年金制度改正法」は、少子高齢化、就労形態の多様化、ジェンダー平等といった社会経済の変化に対応する重要な制度改革です。
本改正は、働き方や家族構成の多様性に中立な仕組みを実現しつつ、所得再分配機能の強化、私的年金制度の拡充を通じて、高齢期における生活の安定を目指しています。
本レポートでは、法改正の全体像を4つの柱に分けて整理・解説します。
1.すべての働き手に年金保障を~被用者保険の適用拡大
本改正の柱の一つが、パートタイムや短時間労働者に対する被用者保険(厚生年金・健康保険)の適用拡大です。
これまで企業規模や賃金で限定されていた加入条件が見直され、段階的に全労働者に広がっていきます。特に2035年には従業員10人以下の企業にも適用される予定で、就業形態の多様化に対応した年金保障が実現されます。
企業への支援策や労働者の保険料軽減措置も用意されており、移行を円滑に進める設計です。
◆短時間労働者の加入条件の見直し


2.高齢期の就労と年金の両立を促進~在職老齢年金制度の見直し
65歳以上の年金受給者が就労する際の年金支給停止基準額が、50万円から62万円に引き上げられます(2026年施行予定)。
この変更により、収入を得ながら年金を受け取る高齢者が増え、就労意欲の維持や人手不足対策に寄与します。
これまで「働き損」とされていた構造を是正し、高齢者が持つ力を十分に活かせる環境整備が進みます。
◆65歳以上の老齢厚生年金の支給停止の状況

3.男女格差の是正と子育て支援~遺族年金の構造改革
遺族年金制度も大幅に見直され、これまで女性に偏っていた受給構造が是正されます。
男性配偶者も対象に含まれ、若年層には原則5年間の給付が設けられました。さらに、子どもに係る遺族基礎年金の受給制限も緩和され、子どもの生活保障が重視されます。
また、子を扶養する年金受給者には加算措置が強化されるなど、家庭の形に応じた柔軟な制度が導入されました。

4.基礎年金の水準確保へ~マクロ経済スライド調整の同時終了措置
本改正では、将来的な基礎年金の給付水準低下に備えた重要な方針が盛り込まれました。
次期財政検証において、基礎年金と厚生年金の「調整期間」の見通しに大きな差が生じた場合、政府は両制度に適用されるマクロ経済スライドの調整を同時に終了する法制上の措置を講じるとしています。これは、所得再分配機能の低下によって基礎年金のみが削減され続ける不公平を避け、制度全体の持続可能性と公平性を両立させる狙いです。
また、その結果として将来の年金総額が現行よりも下回る恐れがある場合には、影響を緩和する追加措置も講じられる予定です。これにより、基礎年金受給者の生活の底支えを図りつつ、制度の信頼性と安定性が高められます。
5.長く働き、より備える~私的年金制度と高所得層の改革
老後資産の形成支援として、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入年齢上限が「60歳未満」から「70歳未満」へと拡大されました。
これにより、国民年金の任意加入者や企業年金未加入者を含め、60代でも継続的な資産形成が可能になります。
また、企業年金の運用情報が厚生労働省により開示され、加入者や企業が他社との比較・評価を通じて制度運営を改善しやすくなる「見える化」が図られます。
さらに、厚生年金における標準報酬月額の上限は、現在の65万円から段階的に75万円まで引き上げられる予定です(2027年〜2029年にかけて実施)。
これにより、高所得者の保険料負担が実収入に見合った水準となり、その分将来の年金給付額も増加します。
この改正は、制度内の公平性を高めるとともに、年金財政の安定にも寄与する重要な施策です。

6.制度の実効性と公平性を高める~周辺制度の見直しと運用の継続措置
今回の改正では、主な年金給付に加えて、社会環境の変化に即した制度の整備も行われています。
まず、子のいる年金受給者の生活支援強化として、子に係る加算額の引上げが実施され、加えて老齢厚生年金における配偶者加給年金額についても見直しが行われます。これにより、子育てや家族扶養にかかる支出に対する給付の充実が図られます。
また、外国人労働者の年金制度との関わりについても整備されました。再入国許可を得て一時出国した外国人が、その許可期間内に脱退一時金を請求できないよう見直され、将来的な年金受給への接続性が保たれることになります。
さらに、令和2年改正時から継続されているマクロ経済スライドによる給付調整(報酬比例部分)については、社会経済情勢を見極める必要があるとして、次期財政検証の翌年度(令和12年度)までの継続が決定。制度の持続可能性を担保しながら、柔軟な見直しが可能となるよう配慮がなされています。

「SX銘柄2025」は、日本企業の持続可能な成長を促す価値創造経営の実践事例として注目される企業群を選定し、その取組や戦略を通じて企業価値の向上を目指しています。本レポートでは選定企業の分析結果を紹介します。
1.SX銘柄2025の背景と目的
SX銘柄2025は、日本企業における持続可能な成長の実現を目指すプロジェクトであり、企業価値を向上させるための戦略的な取り組みを評価しています。特に注目されるのは、企業の社会的課題への対応、投資家との建設的な対話、そして長期的な価値創造のプロセスです。
これらの企業は、サステナビリティと社会貢献を意識した経営を通じて、社会的責任を果たしつつ競争優位性を高めています。
この選定基準には、企業理念に基づく長期的な戦略、実行可能な戦略計画、KPIとガバナンス体制の整備、そして投資家とのエンゲージメントが含まれています。SX銘柄2025は、これらの要素をしっかりと実行に移し、持続的な成長を目指す企業を評価するものです。

2.企業の価値観と長期戦略の取り組み
SX銘柄2025に選定された企業は、長期的な視点での戦略策定に注力しており、特にバックキャスティング(将来のビジョンを逆算して現在の戦略を構築する手法)を活用しています。これにより、社会的責任と企業成長を調和させる戦略が実現されています。
例えば、味の素株式会社は「「アミノサイエンス🄬」を中心に、ヘルスケアやウェルビーイングを促進する事業領域を展開しており、環境負荷削減と社会貢献を長期的な目標として掲げています。
また、TDK株式会社は、コアコンピタンスである技術を活用し、社会価値を創出するための戦略を明確にしています。これらの企業は、短期的な利益追求にとどまらず、長期的な企業価値向上に向けた戦略を展開しています。

3.実行戦略と企業価値創造の実績
SX銘柄2025の選定企業は、実行戦略の確立とその進捗をKPIとして明確に示しています。これにより、企業は持続的な成長を実現し、投資家との信頼を構築しています。
例えば、ソフトバンク株式会社は「BeyondCarrier」を成長戦略として掲げ、通信事業の枠を超えた多様な事業領域への進出を目指しています。
また、第一三共株式会社はがん領域(オンコロジー)を成長戦略の柱に据え、グローバル化や専門人材の育成を進め、革新的な医薬品創出を軸に社会的課題解決に貢献しています。
これらの企業は、業界の変化に柔軟に対応し、進化する市場において価値創造を進めています。また、知的財産や人的資本への投資も強化しており、革新的な技術開発を支える基盤を作り上げています。

4.実質的な対話と投資家とのエンゲージメント
SX銘柄2025に選定された企業は、投資家との実質的な対話を通じて、戦略の進捗やKPIの達成状況を明確に伝え、信頼関係を構築しています。これにより、企業はより透明で効率的なガバナンスを実現し、投資家からの評価を高めています。 特に、KDDI株式会社は、パートナリングが価値創出・持続的成長のキーポイントとして双方向の対話を強化し、対話内容を経営戦略に反映させる仕組みを整備しています。
また、ダイキン工業株式会社は「気候変動対応」に関連する指標を非財務KPIとして設定し、サステナビリティ経営においても積極的に対話を進めています。
これらの企業は、企業価値創造を促進するために、投資家との建設的な対話を不可欠な要素として位置付けています。

こんにちは、北野純一税理士事務所の北野です。
今回は、先日公表された「中小企業白書」についてです。
2025年版『中小企業白書』および『小規模企業白書』は、2025年4月25日に閣議決定され、経済産業省中小企業庁より公表されました。これらの白書は、2024年度(令和6年度)の中小企業・小規模事業者の動向と、2025年度(令和7年度)に講じられる施策を取りまとめたものです。
特に、経営者の「経営力」に焦点を当て、変化する経済環境における中小企業の持続的成長と発展のための戦略が示されています 。
1.経済環境の変化が中小企業を直撃
2024年度の経済動向では、エネルギー・資材価格の高騰や円安継続により、中小企業は原価上昇・利益圧迫に直面しました。
また、長期化する人手不足と物流費増も経営を圧迫し、資金繰りの厳しさが顕著になっています。
白書は、こうした状況下における持続可能な経営のために、資源配分の見直しや価格転嫁、資金調達力強化を提案しています。柔軟かつ戦略的な経営判断がこれまで以上に求められています。
■現状分析~倒産件数は増加傾向。人件費や物価をはじめとしたコスト高騰が原因の倒産が増加
①2010年代以降、倒産件数は減少傾向にあったが、コロナ禍以降再び増加に転じ、2024年の倒産件数は10,006件。なお、倒産件数は2022年に増加に転じた一方で、完全失業率は足下でも横ばい傾向が続いている。
②要因別に見ると、人手不足によるものや、人件費・物価の高騰を要因とした倒産の件数も増加している。

2.経営者の「経営力」が企業成長の鍵
2025年版白書では「経営力」の向上を中小企業の持続的発展の原動力としています。
■重要な取組~変化の中で成長・発展を実現するには、これまで以上に経営者の「経営力」が問われる
①こうした状況を踏まえれば、従来のやり方では現状維持も困難であり、経営者はこれまで以上に「経営力」が問われる。自社内外の状況を正確に見極め、適切な行動を起こしていくことが重要。
中小企業が足下で最も重要と考える経営課題は「人材確保」だが、特に中規模企業では「省力化・生産性向上」、小規模事業者では「受注・販売の拡大」、「事業承継」が比較的高い傾向にあり、これらの課題にしっかりと取り組んでいくことが重要。
②外部環境が激変する中、足下の課題への対応に加え、長期的な視野で投資や人材確保に向けた戦略を検討し、不断に見直していくことは重要。実際、長期を見据えた経営計画を策定・実行している企業ほど、付加価値額が大きく増加している傾向。

具体的には、以下の3軸が示されています。これらを実践している企業は、利益率や付加価値の向上が見られるという調査結果もあり、今後の差別化戦略として不可欠な要素とされています。
【経営力の3つの要素】
①個人特性面(経営者自身の成長)
経営者が他業種の経営者と交流し、知見を広げることで新しい発想や知識が得られます。さらに、学び直し(リスキリング)に積極的な姿勢は、業績向上への意欲として評価され、企業全体の前向きな変革につながります。
②戦略策定面(経営の方向づけ)
経営計画の策定と実行を通じ、適切な価格設定や差別化戦略を講じることが重要です。市場環境を的確に捉えた経営は、利益の安定確保や賃上げ、さらには将来の投資促進にもつながるとされています。
③組織人材面(従業員と共に成長)
経営理念や業績の情報を社員と共有する「オープン経営」は、従業員のやる気や信頼を高めます。また、社内コミュニケーションの活性化、働き方改革、職場環境の改善に取り組む人材経営は、人材の定着率向上にも効果を発揮します。
3.中小企業の重点戦略:5大分野の実行力が重要
白書が提案する重点戦略は、以下の5分野に分類され、それぞれに明確な実行意義があります。
【中小企業の重点戦略:5つの実行課題】
①デジタル化の推進
業務の効率化や売上拡大、新規顧客開拓の手段としてDX(デジタルトランスフォーメーション)は不可欠です。業務システム導入や電子商取引の展開は、多くの中小企業にとって生産性向上と新市場開拓の鍵となります。
②適正な価格設定と価格転嫁
原材料費や人件費の上昇を適正に価格へ反映できる体制づくりは、持続的な利益確保の基本です。価格交渉力の強化や市場に応じた価格戦略の見直しが不可欠です。
③設備投資による生産性向上
老朽化設備の更新や省人化・省力化設備の導入は、限られた人材資源でも安定した生産体制を維持するために重要です。特に製造業や建設業での効果が顕著です。
④人材の確保と育成
採用競争の激化を受けて、働きやすい環境整備やキャリア形成支援が求められています。リスキリングを含む教育訓練制度の導入も喫緊の課題です。
⑤脱炭素・ESG・人権対応
企業の社会的責任を果たし、取引先や消費者の信頼を得るには、環境・人権・ガバナンスの観点での対応が求められます。中長期的には競争優位の要因となり得ます。
4.白書の実践的活用法:計画・助成金・人材戦略に
中小企業白書は単なる報告書ではなく、現場での経営戦略立案・実行のための「ヒント集」として活用できます。たとえば、経営計画策定時の環境分析、補助金申請書の根拠資料、幹部育成方針の整理などに応用が可能です。
特に補助金の要件である「経営課題の認識と対応策の明示」において、白書に基づく記述は説得力を増します。自社の取り組みを白書に照らして客観的に見直すことで、経営の質的転換にもつながります。

皆様、こんにちは。
北野純一税理士事務所の北野です。
副業とは、本業の仕事以外に収入を得る活動全般を指します。近年、働き方改革の進展により注目されている働き方の一つです。それに伴い、会計事務所としても副業に関連する税務管理のサポートが求められる場面が増えています。
では、副業や兼業をしている場合、税務管理をどのように行えばよいのでしょうか?
本コラムでは、副業を行っている場合の税務管理のポイントを解説し、会計事務所が顧問先に対して提供できるアドバイスについて紹介します。
1.所得の種類
副業や兼業をしている場合、主に確定申告を通じて、得た所得を申告する必要があります。会社員であっても、副業による収入があれば、その収入を合算して税務申告を行わなければなりません。
副業が年間20万円を超える場合、確定申告をする義務があります。
副業の所得は、それぞれに税務上の取り扱いが異なるため、自身の副業がどの区分に該当するか正しく把握することが重要です。会計事務所としては、これらの所得を正確に分類し、適切な税務処理を提供することが求められます。
●給与所得
アルバイトやパートタイムなど、企業に雇用される形で得られる所得です。雇用契約に基づいて労務を提供し、その対価として給与を受け取る形態を指します。
●事業所得
個人事業主として事業活動を行い得られる所得です。例えば、フリーランスとしてのコンサルティング業務や、ネットショップの運営などが該当します。継続的に事業として行われ、帳簿をつけて営利性が認められる活動から得られる収入が該当します。
●不動産所得
アパートやマンションなどの不動産を賃貸して得られる所得です。副業として不動産投資を行い、家賃収入を得る場合がこれに該当します。
●雑所得
上記を含む他の9種類の所得区分に該当しない所得です。例えば、個人で行う講演料や原稿料、インターネットを通じた副業での収入などが該当します。また、事業的な規模に至らない小規模な副業からの収入も、雑所得として扱われることが一般的です。
2.副業の住民税と所得税の申告
副業で収入を得た場合、その所得に対して確定申告が必要になります。これは、所得税が自己申告を原則としているためです。
副業収入があリ、本業の給与所得で年末調整を受けている方は多いでしょう。しかし、年末調整は給与所得のみを対象とした制度であり、給与所得以外の副業による収入は対象外となります。
所得が20万円以下の場合、所得税の確定申告は不要ですが、住民税の申告は必要です。所得税の確定申告をしている場合は住民税も自動計算されますが、確定申告をしない場合は別途住民税の申告が必要になるため、注意が必要です。また、住民税の申告を忘れると延滞税(年14.6%)が課せられる可能性があるため、必ず期限内に申告を行うことが大切です。
確定申告時には、各種控除(基礎控除、配偶者控除など)の活用や経費の管理が重要です。所得税は収入から経費を差し引いた所得に対して課税されるため、経費を適切に計上することで節税につながります。ただし、経費として認められるのは業務に直接必要な支出のみです。領収書は必ず保管し、帳簿をつけて経費を管理することをお勧めします。
このような経費管理は、確定申告時の証拠書類としても重要です。
3.社会保険の取り扱い
副業をしている場合、社会保険に関しても注意が必要です。
例えば、正社員として健康保険や年金に加入している場合、副業の収入が一定額を超えると、国民健康保険や国民年金に加入する必要が生じることがあります。副業の収入が増えることで、社会保険の適用範囲や保険料の支払い義務が変わることもあります。
●社会保険料が増えるケース
【アルバイト・パートでの副業】
・週20時間以上勤務する場合、新たに社会保険料の負担が発生します
【法人設立での副業】
・1人法人でも代表者として報酬を受け取る場合は加入が必須となります
・本業の給与と役員報酬の合計で保険料が計算されます
・従業員を雇用する場合は事業主負担も必要になります
●社会保険料が増えないケース
【アルバイト・パートでの副業】
・週20時間未満の勤務
【個人投資での副業】
・FXや株式投資などは雇用関係がないため、新たな保険料は不要となります
【個人事業主としての副業】
・従業員を雇用しない場合、原則として本人の保険料負担は不要です
●留意点
・複数の事業所で働く場合、主たる事業所の選択と届出が必要です
・加入要件を満たす場合の未加入は、後日高額な追納が必要になる可能性があります
・保険料は各事業所の報酬に応じて按分計算されます
副業形態によって社会保険料の取り扱いは大きく異なります。副業を選択する際は、これらのコストを考慮した判断が重要になるため、会計事務所としては、社会保険の適用状況や保険料の算定についてもアドバイスを行い、顧客が対応できるようサポートすることが望まれます。
4.会計事務所としてのサポート
●副業で会計事務所に相談にくる顧客とは?
[確定申告の負担を軽減したい]
副業を行う会社員にとって、確定申告にかかる作業は大きな負担となります。日々の収支記録、領収書の管理、申告書類の作成など、年間を通じて継続的な事務作業が必要です。
特に会社員として働きながら副業をされている方は、確定申告の作業に充てる時間を確保することが難しい場合があります。そのため、確定申告を依頼することで専門家のサポートを受けながら、自身の時間を効率的に活用したいと考えられます。
[節税対策を行いたい]
副業での節税対策は、正しい知識と適切な方法で行うことが重要です。安易な節税対策は、税務調査のリスクを高め、結果的に追徴課税や加算税の支払いが必要になる可能性があります。
専門家のサポートを受けることで、経費計上の指導、所得区分の判断、確定申告書類の作成支援、税務調査対策のアドバイスなど、税務上のリスクを最小限に抑えることができます。
副業や兼業が普及する現代において、税務管理はますます重要になる事でしょう。
会計事務所は、副収入を得ている顧問先に対して、適切な税務アドバイスを行い、確定申告や納税のサポートを通じて、顧客が法的に問題なく副業を続けられるようサポートすることが求められます。
■参考資料
【厚生労働省】
こんにちは、北野純一税理士事務所です。
令和7年4月27日、ネクスト飯田様にて開催した「失敗しない生前贈与セミナー」も無事に終了いたしました。
参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました!
【内容】
自分の財産を家族に引き継ぐ方法には、大きく分けて「相続」と「生前贈与」があります。
生きているうちに財産を引き継ぐ生前贈与は、仕方によって贈与税や相続税の課税対策になるなど注意点もあります。
そこで今回は、
・贈与税の計算方法
・メリット、デメリット
・令和6年度から変更になった贈与税制度
について事例を交えながらご説明いたしました。
ご参加いただいた方からは
・とても興味深く、回数を重ねて欲しいです。
・質疑応答で内容が深まってよかったです。
・絵が多く資料がわかりやすかったです。
などたくさんのご感想をいただきました。
限られた時間でお伝えするので、もっと詳しく知りたい、個別で話をしたいというお声もいただきました。
北野税理士事務所では毎月無料の相談会を開催しております。
相続税に詳しい税理士の他、司法書士の先生にもご相談いただけます。
相談は予約制です。
ぜひこちらよりご予約ください!


皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
令和7年4月20日、ネクスト林様にて「失敗しない!生前贈与の方法セミナー」を開催いたしました。
ネクスト舟岡様、ネクスト仏生山様に続いて3回目の開催です。
【内容】
自分の財産を家族に引き継ぐ方法には、大きく分けて「相続」と「生前贈与」があります。
生きているうちに財産を引き継ぐ生前贈与は、仕方によって贈与税や相続税の課税対策になるなど注意点もあります。
そこで今回は、
・贈与税の計算方法
・メリット、デメリット
・令和6年度から変更になった贈与税制度
について事例を交えながらご説明いたしました。
ご参加いただいた方からは
・具体的事例について相談したくなりました。
・もっと詳しくしっかり聞いてみたいです。
・これからも、このようなセミナーを続けて欲しいです!
などたくさんのご感想をいただきました。
お越しくださった皆様、ありがとうございました!
次は
令和7年4月27日(日) 10:00~11:00
ネクスト飯田様にて開催いたします。
ご予約優先です。ご予約は 0120-04-5909(家族葬のネクスト様) までお願いいたします。
限られた時間でお伝えするので、もっと詳しく知りたい、個別で話をしたいというお声もいただきました。
北野税理士事務所では毎月無料の相談会を開催しております。
相続税に詳しい税理士の他、司法書士の先生にもご相談いただけます。
相談は予約制です。
ぜひこちらよりご予約ください!


皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
令和7年4月15日、ネクスト仏生山様にて「失敗しない!生前贈与の方法セミナー」を開催いたしました。
4月9日にネクスト舟岡様にて開催したセミナーと同じ内容のセミナーです。
【内容】
自分の財産を家族に引き継ぐ方法には、大きく分けて「相続」と「生前贈与」があります。
生きているうちに財産を引き継ぐ生前贈与は、仕方によって贈与税や相続税の課税対策になるなど注意点もあります。
そこで今回は、
・贈与税の計算方法
・メリット、デメリット
・令和6年度から変更になった贈与税制度
について事例を交えながらご説明いたしました。
ご参加いただいた方からは
・知らない情報が得られてよかった。
・知っておきたい内容だったので聞くことができてよかった。
・参考になり参加してよかった。
・法律が変わるので、定期的に開催してほしい!
などたくさんのご感想をいただきました。
お越しくださった皆様、ありがとうございました!
限られた時間でお伝えするので、もっと詳しく知りたい、個別で話をしたいというお声もいただきました。
北野税理士事務所では毎月無料の相談会を開催しております。
相続税に詳しい税理士の他、司法書士の先生にもご相談いただけます。
相談は予約制です。
ぜひこちらよりご予約ください!



皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
令和7年4月9日、ネクスト舟岡様にて「失敗しない!生前贈与の方法セミナー」を開催いたしました。
自分の財産を家族に引き継ぐ方法には、大きく分けて「相続」と「生前贈与」があります。
生きているうちに財産を引き継ぐ生前贈与は、仕方によって贈与税や相続税の課税対策になるなど注意点もあります。
そこで今回は、
・贈与税の計算方法
・メリット、デメリット
・令和6年度から変更になった贈与税制度
について事例を交えながらご説明いたしました。
参加者の方からは
・とても楽しく分かりやすかったです。資料も分かりやすく親切でした。
・とてもためになるお話だった。法律が変更する度に開催してほしい。
・大変勉強になりました。
などたくさんのご感想をいただきました。
ネクスト様では、昨年もセミナーを開催しており、前回に引き続きご参加いただいたリピーターの方もいらっしゃいました。
今回初参加の方からも、次回も参加したいとのお声をいただきとても嬉しく思います。
お越しくださった皆様、ありがとうございました!




皆様こんにちは。
北野税理士事務所の北野です。
2025年4月1日より、東京都や群馬県、北海道などでカスタマーハラスメント(カスハラ)防止条例が施行され話題になっています。
今回は、カスタマーハラスメントの実態と対策についての話題です。
近年、悪質なクレームなど顧客や取引先による迷惑行為(カスタマーハラスメント)が社会的問題になっています。
厚生労働省の調査では、この相談件数が増加傾向にあり、他のハラスメントより高い割合で報告されています。
これを受け、業界団体が実態に基づいた対応方針を策定する支援事業が進められています。
1.カスタマーハラスメントとは
カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先からのクレームや言動が社会通念上不適切であり、労働者の就業環境に悪影響を及ぼす行為を指します。
厚生労働省が令和4年2月に公表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています。
ここでの「顧客等」には、実際の利用者だけでなく、潜在的な顧客も含まれます。また、要求の妥当性が欠けている場合、その手段や態様がどのようなものであっても社会通念上不適切とみなされる可能性が高くなります。そして、たとえ要求が妥当であっても、その実現手段が悪質である場合には、同様に不適切とされます。
2.カスタマーハラスメントの判断基準とは
カスタマーハラスメントの判断基準は、企業ごとに異なる実情や顧客対応の姿勢によって変わるため、統一的な基準を設けることが重要です。まずは、顧客の主張や要求に正当な理由があるかを確認します。商品に瑕疵がある場合に謝罪や返金に応じることは妥当ですが、過失がないにもかかわらず不合理な要求があればハラスメントと見なされる可能性があります。
さらに、社会通念に照らした際に、言動の表現や回数、態様が相当な範囲を超えているかを判断することも重要です。例えば、長時間のクレームや暴力的・侮辱的な言動はカスタマーハラスメントに該当し得ます。また、対応後も繰り返し要求を続ける行為や、悪質な手段が伴う場合にも、ハラスメントと判断される場合があります。
企業は、従業員の就業環境を守るため、基準を明確にし、現場での共有を徹底することが求められます。また、被害が生じた際には従業員の相談に応じ、必要に応じて配置転換などの対応を行うことも大切です。
3.カスタマーハラスメント行為の実態と対応方法
スーパーマーケット業界の調査結果によると、「継続的で執拗な言動」が最も多く報告されており、その割合は84.9%にのぼります。次いで、「威圧的な言動」(75.3%)や「精神的な攻撃」(65.8%)といった行為の報告が多いのが特徴です。
■カスタマーハラスメントに該当すると判断した事業の内容(複数回答)

これらの行為への対応については、業界団体や労働組合が協力し、具体的な対策を検討してきました。以下に対応例を抜粋します。
●継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動
・店舗や電話において繰り返される問合せ、不合理な要求に対しては・・・
↓
連絡先を確実に確認し、不合理な問合せが2回きたら注意し、3回目には対応できない旨を伝えます。それでも繰り返される場合、社内で共有して会話の内容等を記録し、対応窓口を一本化して管理職が対応を引き継ぎ、顧客等に迷惑であること、今後の連絡をやめてもらうことを伝えます。その後、繰り返された場合には、威力業務妨害罪を視野に入れ、警察へ通報することも検討します。
●威圧的な言動
・怒鳴る、大声で責めるなどの行為に対しては・・・
↓
威圧的な言動をする顧客等は、気持ちが高ぶっている可能性があります。「それは、私に対して言っていますか。」といった問いかけや、「そのように怒鳴られると怖いです。」など、自身の気持ちを率直に伝えることで、従業員も一人の人間であることを認識してもらう、そして冷静になってもらうことが考えられます。
●正当な理由のない過度な要求
・顧客等からの製品の交換や金銭の要求に対しては・・・
↓
その理由を十分確認した上で対応を判断します。もし理由が正当でなければ、毅然と対応しましょう。仮に製品やサービス提供者の不備が原因であった場合でも、非が認められる範囲に限定して謝罪するにとどめ、それ以上の対応はしないようにします。一度でも過度な要求に対応してしまうと、「あの時は○○をしてくれた。」と言われ、その後も当該顧客等の要求を断りにくくなってしまう可能性があります。
4.具体的なカスタマーハラスメント対策
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」に沿って、企業の取組事例を紹介します。
①事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
カスタマーハラスメント対策の第一歩として、企業のトップが基本方針を掲げ、企業としての基本姿勢を明確にし、従業員や顧客等へ周知します。
[企業事例]
・「会社はカスタマーハラスメントから従業員を守ります!」というトップメッセージを「お客様対応マニュアル」等の社内マニュアルに掲載。
・自社のカスタマーハラスメントへの対応方針を社外向けに公開。
②従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
従業員が顧客等とトラブルに発展した際の相談先(相談対応者)や報告方法について、あらかじめ決めておきます。また、カスタマーハラスメントに関して自社のどの部門がどのような役割を担当するかの整備も必要です。
[企業事例]
・カスタマーハラスメントの被害を受けた際の相談フローを整備。
・顧客等とのトラブルについての報告方法を決める。
・レジ周りに通知ボタンを設置し、これを押すことで、管理者へ通知できるシステムの導入を検討。
③対応方法、手順の策定
普段からカスタマーハラスメントの行為者への対応の方法や手順を定め、社内の基準を周知しておくことで、トラブル発生時にも慌てずに対応できます。
[企業事例]
・既存のお客様対応マニュアルにカスタマーハラスメントの要素を追加して活用。
・過去のトラブル事例は収集、整理しておき、類似する事例が発生した際は参考にして対応する。
④社内対応ルールの従業員等への教育・研修
カスタマーハラスメントについて社内で決めたルール等については従業員等(派遣社員やアルバイト含む)へ教育・研修を行いましょう。
[企業事例]
・社外向けの基本方針については、社内マニュアルに掲載して社内周知し、その内容についてeラーニングを行って従業員の理解促進を行い、対象者全員の実施完了を待ってから公表。
・社内マニュアルは社内のイントラネットに保存し、いつでも確認できるようにしている。
⑤事実関係の正確な確認と事案への対応
顧客等からのクレームが正当なものか、悪質なものかを即座に判断することは難しいことが多々あります。その場合は、顧客等の主張・意見を傾聴し、事実確認をした上で判断することが重要です。
[企業事例]
・正当なクレームをカスタマーハラスメントと誤って判断しないように、その最終判断は店長(不在の際は副店長)が実施するようにしている。
・当該顧客等とのやり取りを録音し、事実確認に使用するようにしている。
⑥従業員への配慮の措置
顧客等とのトラブルが発生した際は、カスタマーハラスメントに該当する/しないにかかわらず、従業員への配慮の措置を行うことが重要です。具体的には、トラブル発生直後に当該顧客等と従業員を引き離すといった「従業員の安全を確保」し、被害を受けた従業員に対する「精神面の配慮」をすることが望まれます。
[企業事例]
・従業員が明らかなカスタマーハラスメント行為(暴行、身体接触、暴言等)を受けていることが確認された場合は、安全確保のため、速やかに当該従業員を顧客等から引き離し、管理職が対応を代わる。
・被害を受けた従業員については、社内の健康サポートセンターと連携し、適切なアフターケアを実施できるように体制を整えている。
⑦再発防止のための取組
過去に発生した事案と同様のカスタマーハラスメントの発生を防止するため、発生した事例については対策・防止策を検討・実施し、記録を残して今後の対策に役立てることが望まれます。
[企業事例]
・現場から本社への社内報告の中で警察顧問(警察OB)にもクレーム対応例を共有しながら、どう対応した方がよいか、どういったことを調べた方がよいかなどのアドバイスを受けている。
■参考資料
【厚生労働省】

皆様こんにちは。
北野純一税理士事務所の北野です。
経済産業省では、2014年度から上場企業を対象に 「健康経営銘柄」 を選定、また、2016 年度からは「健康経営」を推進する「健康経営優良法人認定制度」を実施しています。この制度は、地域の健康課題や日本健康会議の取り組みに基づき、優れた健康経営を実践する法人を「見える化」し、社会的な評価を得やすくする仕組みです。
今年3月には「健康経営優良法人2025」として、大規模法人部門で3,400法人、中小規模法人部門で19,796法人が認定されました。健康経営は健康長寿社会の実現に向けた重要な取り組みとして評価されています。
1.健康経営とは何か
健康経営とは、従業員の健康管理を経営戦略の一環として捉え、健康の保持・増進に向けた取り組みを推進する活動のことです。経済産業省は、この健康経営を健康長寿社会の実現に向けた重要な施策と位置づけています。企業が健康経営に積極的に取り組むことで、従業員の生産性向上や医療費の削減が期待され、最終的には企業価値の向上につながります。
また、健康経営は企業だけでなく、地域社会全体の活性化や国民の健康寿命の延伸にも寄与する取り組みとして注目されています。さらに、健康経営を実践する法人には認定制度や補助金制度を通じた支援が行われており、取り組みの普及と質の向上が図られています。健康への投資は組織の活性化や業績向上をもたらす有益な戦略であり、企業の長期的な成長に寄与すると考えられています。
■「健康経営・健康投資」とは

2.健康経営優良法人認定制度とは
健康経営優良法人認定制度は、特に優れた健康経営を実践している法人を認定する仕組みで、企業の取り組みを「見える化」することで、従業員や求職者、取引先、金融機関などからの評価を得やすくすることを目的としています。
認定は、日本健康会議が策定した評価基準に基づき実施されます。また、認定法人には「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」があり、それぞれ上位法人には「ホワイト500」「ブライト500」などの称号が付加されます。
■健康経営に係る顕彰制度について(全体像)


3.日本健康会議が目指す社会
日本健康会議は、国民一人ひとりの健康寿命の延伸や医療費の適正化を目指し、民間と行政が連携して取り組む活動体です。同会議は、職場や地域を主体とした健康づくりを推進し、高齢者が活き活きと活躍し、若者と支え合いながら生活できる社会の実現を目標としています。
「日本健康会議2025」では、2025年を目標年度とし、「健康づくりに取り組む5つの実行宣言2025」を掲げています。これには、地域づくりやデジタル技術の活用、企業の健康経営への参画促進などが含まれており、これらの取り組みを通じて、感染症や生活習慣病に強い社会基盤を構築することを目指しています。

4.健康経営と補助金活用のメリット
健康経営に取り組むことで、企業は認定制度を通じた社会的評価を得るだけでなく、国や地方自治体からの具体的な支援を受けられるメリットがあります。例えば、健康経営優良法人に認定されることで、補助金申請時の加点や融資時の優遇利率が適用されます。
また、新たな設備投資やITツールの導入、事業継承などの場面で、財政的支援を受けやすくなり、代表的な補助金には以下の「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」などがあります。健康経営は、企業と社会の双方に利益をもたらす重要な取り組みと位置付けられています。

皆様こんにちは。
北野純一税理士事務所の北野です。
今日はサイバーセキュリティ調査と産業振興戦略の最新動向についてお伝えしようと思います。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、「2024年度中小企業における情報セキュリティ対策の実態調査報告書」速報版を公開しました。調査では、サイバーセキュリティ対策の実施状況が依然として不十分であることや、特にサプライチェーンにおけるリスクが深刻である点が浮き彫りになりました。
また、経済産業省は、「サイバーセキュリティ産業振興戦略」を発表し、国内セキュリティ産業の基盤強化を目指しています。本戦略では、スタートアップ企業の製品活用を推進し、研究開発支援や人材育成プログラムの拡充が計画されています。
1.中小企業のサイバーセキュリティ対策の現状
近年、サプライチェーン上の弱点を狙うサイバー攻撃が顕在化・高度化しています。特に中小企業での情報セキュリティ対策が不十分な場合、自社だけでなく取引先にも甚大な影響を及ぼすケースが目立ちます。IPAの調査によると、サイバー攻撃の被害により取引先に影響を与えた企業は約7割にのぼり、サービスの停止や個人情報の流出といった深刻な事態が発生しています。
また、過去3期内の被害額平均は73万円で、復旧までに要した期間は平均5.8日と報告され、費用面と時間面での負担も大きい状況です。このようなリスクを放置することは、サプライチェーン全体の事業継続性を脅かしかねません。
2.セキュリティ体制未整備の中小企業が大多数
中小企業の約7割が組織的なセキュリティ体制を整備しておらず、専任の部署や専門人材が不足している状況です。さらに、過去3期において情報セキュリティ対策に投資を行っていない企業も約6割に達しており、コストや必要性の認識不足が主な原因とされています。
一方で、経済産業省は中小企業のセキュリティ対策強化や国内産業基盤の拡大を目指しています。例えば、経済産業省とIPAが提供する「サイバーセキュリティお助け隊サービス」は、中小企業向けに不可欠な機能を備え、利用しやすい価格で提供されるサイバーセキュリティ対策支援です。基準を満たしたサービスがリスト化され、IT導入補助金の対象にもなっています。中小企業の多様なニーズに応じたサービスの拡充が進められており、導入を通じて日本全体のセキュリティ向上が期待されています。
■サイバーセキュリティお助け隊サービス
3.サイバーセキュリティ産業振興戦略の概要
経済産業省は、日本のサイバーセキュリティ産業基盤を強化する「サイバーセキュリティ産業振興戦略」を今年3月に取りまとめました。この戦略では、国内で活用されるセキュリティ製品の多くが海外製である現状を踏まえ、国内企業が安心して選べる製品・サービスの充実を目指します。また、スタートアップ企業の製品活用を推進し、活用実績を積み上げることで販路拡大を図る仕組みを整えています。
さらに、約300億円規模の研究開発プロジェクトや、高度専門人材の育成プログラム拡充などを通じて供給力を強化します。これにより、10年以内に国内企業の売上高を約0.9兆円から3兆円以上に拡大させることを目指しています。
■「サイバーセキュリティ産業振興戦略」の概要
4.国内企業への期待と今後の展望
本戦略の取り組みに対し、セキュリティ業界からも高い期待が寄せられています。例えば、スタートアップ製品の導入促進や研究開発支援を通じて、国内セキュリティ産業を活性化させることが期待されています。また、サイバー攻撃の特異性に対応した製品開発や情報蓄積の重要性も指摘されています。
経済産業省は今後も業界の関係者と連携し、具体的な施策を通じて国内企業の競争力強化を後押ししていく方針です。これにより、日本全体の安全保障やデジタル赤字解消にもつながると考えられています。
■活用可能な経済産業省等の支援策
【スタートアップ関連施策全般】
●潜在力のある企業への集中投資(例:J-Startup)
●事業を支える資金供給拡大(例:ディープテック・スタートアップ支援事業等)
●海外市場への事業展開・ネットワーク構築(例: J-Startup、J-StarX)
【公共調達等を通じた事業拡大】
●「デジタルマーケットプレイス」の活用
●「防衛産業へのスタートアップ活用に向けた合同推進会」の活用※推進会開催にあたり、随時業界団体とも連携
●「大企業等のスタートアップ連携・調達加速化事業」の活用 ※今後、随時公募を実施
【国際標準に向けた対応】
●標準化活用支援制度(新市場創造型標準化制度)の活用
●国際ルール形成・市場創造型標準化推進事業費補助金の活用 ※今後、公募を実施
■今後のロードマップ
皆様こんにちは。
北野純一税理士事務所の北野です。
2021年に一部改正された高年齢者雇用安定法における経過措置の期限が、2025年3月31日に迫っています。この経過措置により、継続雇用制度の対象者を限定できていましたが、期限以降は「定年制の廃止」「65歳までの定年引き上げ」「希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入」のいずれかを講じる必要があります。就業規則にこれらが定められていない場合は変更が必要になります。
1.高年齢者雇用安定法改正の概要について
高年齢者の雇用措置を定める「高年齢者雇用安定法」は、1986年に当時の「中高年齢者等雇用促進法」を改正する形で制定されました。この法律は、高年齢者が継続して働く機会を確保することを目的としており、2021年4月1日からは70歳までの就業機会を確保する努力義務が企業に課せられています。
そして、2025年4月1日以降は、従業員が希望すれば65歳までの雇用を確保することが企業に求められます。これを実現するために、企業は「定年延長」「雇用延長」「再雇用」のいずれかを選択して実施する必要があります。
各企業は、自社の業務内容や人員構成、経営状況を踏まえ、最適な手法を選択することが求められます。また、これらの変更を反映した就業規則の見直しも必要となる場合があります。法改正に適切に対応するためには、早めの準備と労働局やハローワークへの相談が重要です。
※経過措置の終了によって、2025年4月1日以降、65歳までの定年の引き上げが義務になるわけではありません。
■高年齢者雇用安定法:2021年4月~既に施行されている70歳までの就業機会の確保(努力義務)の内容
高年齢者就業確保措置として、以下のいずれかの措置を講ずる努力義務を新設。
①70歳までの定年引き上げ
②定年制の廃止
③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入(※)
⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入(※)
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
※④、⑤は雇用以外の措置。創業支援等措置の実施に関する計画を作成し、過半数組合・過半数代表者の同意を得て導入できる。
■高年齢者雇用安定法:2025年4月~65歳までの雇用義務の内容
●60歳未満の定年禁止
・事業主が定年を定める場合は、その定年年齢は60歳以上としなければならない。
●65歳までの雇用確保措置
・定年を65歳未満に定めている事業主は、以下のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならない。
①65歳までの定年引き上げ
②定年制の廃止
③65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)を導入
※継続雇用制度の適用者は原則として「希望者全員」となります。
2.高年齢雇用継続給付金の支給率の引き下げ
高年齢雇用継続給付は、60歳以降も働く意欲のある高年齢者の雇用継続を援助するための雇用保険制度です。被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の従業員が対象で、60歳時点の賃金額の75%未満になった場合、その差額の一部を補助する仕組みです。
現在は最大15%の支給率で給付されていますが、2025年4月1日以降、この支給率が最大10%に引き下げられます。この変更により、給付金を前提に賃金を設定している企業は、労働者の生活水準を維持するために賃金の引き上げや新たな補助制度の導入などを検討する必要があります。高年齢者の雇用を促進し、企業が円滑に対応するためには、早めの準備と調整が重要です。
■2025年4月1日以降の支給率
3.高年齢者雇用安定法改正後にとるべき方策
2025年4月1日以降、企業は継続雇用制度に関する見直しや新たな対応が求められます。必要な対策を、以下に再度まとめました。
●雇用契約や就業規則の見直し
経過措置の終了に伴い、企業は継続雇用制度の対象者を希望者全員に拡大する形で、就業規則や雇用契約の改定を行う必要があります。改定が完了した場合、所轄の労働基準監督署への届け出を忘れずに行いましょう。
●賃金制度の見直し
2025年4月から高年齢雇用継続給付が最大15%から10%に縮小されるため、従業員の収入減少に備えた賃金制度の見直しが必要です。不公平のない制度を構築するとともに、将来的な70歳までの雇用確保に向けた準備も重要です。
●再就職援助措置の実施
65歳以上70歳未満の離職者に対する再就職援助措置が努力義務となります。企業は職業訓練や資格試験の受験支援、経済的支援を通じて離職者の再就職を後押しすることが求められます。
●高年齢者向けの研修や教育
高年齢者が新たな業務に就く場合は、その業務に関する研修や教育を実施する必要があります。安全衛生教育を含め、従業員が安心して業務に取り組める環境を整えることが大切です。
4.事業主のための雇用関係助成金
高年齢者の雇用安定を推進するためには、助成金制度を活用することも有効な手段です。特に、国が提供する助成金には複数の種類があり、企業の状況や目的に応じて申請が可能です。主な助成金としては、以下の3つが挙げられます。 これらの助成金を活用することで、企業は法改正に伴う対応をスムーズに進め、高年齢者の雇用安定を図ることができるでしょう。申請を検討する際は、労働局やハローワークで相談することをおすすめします。
●65歳超雇用推進助成金
従業員の65歳以上の雇用を促進するために設けられた助成金です。具体的には、定年年齢の引き上げや定年制の廃止、継続雇用制度の導入といった施策を実施した企業が対象となります。高年齢者の就業機会を増やす取り組みを進める企業にとって、有益な支援と言えるでしょう。
●高年齢労働者処遇改善促進助成金
高年齢労働者の賃金や労働環境を改善し、働きやすい職場を整えることを目的としています。例えば、賃金制度の見直しや、職場環境の改善、スキルアップのための研修実施などが該当します。高年齢者が安心して働ける環境づくりを支援する制度です。
●特定求職者雇用開発助成金
60歳以上の高年齢者や障害者など、再就職が難しい求職者の雇用を促進するためのものです。高年齢者を新規に雇用した企業に対して、一定の助成金が支給されます。採用時の負担軽減を図ることができる制度です。
■参考資料
皆様こんにちは。
北野純一税理士事務所の北野です。
前回に引き続き育児介護休業法の改正についてお伝えしていきます。
今回は、10月からの改正ポイントについてです。
2025年10月から施行予定の育児介護休業法等の主なポイントは、企業におけるさらなる支援体制の拡充です。
具体的には、育児や介護に関する休業取得をより柔軟にするための制度が導入されるほか、従業員が育児・介護と仕事を両立しやすい環境づくりが義務付けられ、職場内での理解促進や、両立支援に関する情報提供の強化も求められます。
1.柔軟な働き方を支える選択的措置について
2025年10月より、事業主が従業員の育児支援を目的として、柔軟な働き方を実現するための措置を講じることが義務付けられます。
具体的には、子供が3歳から小学校入学前までの間、事業主は「始業時刻の変更」や「テレワークの導入(月10日以上)」といった以下の5つの選択肢から2つ以上の措置を実施する必要があります。
これにより、育児をしながらも働きやすい環境が整備され、労働者自身が利用したい措置を選べる仕組みが強化されます。
■選択して講ずべき措置と詳細
① 始業時刻等の変更: 次のいずれかの措置(一日の所定労働時間を変更しない)
・フレックスタイム制
・始業または終業の時刻を繰り上げまたは繰り下げる制度(時差出勤の制度)
② テレワーク等:一日の所定労働時間を変更せず、月に10日以上利用できるもの
③ 保育施設の設置運営等: 保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与をするもの(ベビーシッターの手配および費用負担など)
④ 就業しつつ子供を養育することを容易にするための休暇(養育両立支援休暇の付与):一日の所定労働時間を変更せず、年に10日以上取得できるもの
⑤ 短時間勤務制度:一日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含むもの
注:②と④は、原則時間単位で取得可とする必要があります。
2.事業主による個別周知と意向確認
労働者の子供が3歳になるまでの期間に、上記で選択した措置について、従業員に周知し、利用意向の確認を個別に行わなければなりません。
事業主は面談や書面交付、電子供メールなどで制度の利用方法や申請窓口について周知します。
また、家庭や仕事の状況が変化する可能性があることを考慮し、労働者が選択した制度が適切かどうかを確認するための取り組みも必要です。
そのため、育児休業後の職場復帰時や短時間勤務期間中、または対象となる措置の利用期間中以外にも、定期的に面談を実施することが求められています。
このような面談を通じて、労働者が現在の状況に適した制度を利用できるよう配慮することが重要です。
3.さらに進化する職場環境の整備
改正法では、従業員のニーズに応じた柔軟な働き方を支えるだけでなく、事業主が個別に聴取した意向に基づき、勤務時間や業務量などを調整する配慮も求めています。
例えば、子供の障害やひとり親家庭の状況に応じた支援策の延長や休暇日数の調整など、個別の事情に対応した柔軟な取り組みが推進されます。
このような配慮により、職場全体の理解が深まり、離職防止にも寄与することが期待されます。
■改正後の仕事と育児の両立イメージ
4.両立支援を応援する事業主への両立支援等助成金
職業生活と家庭生活が両立できる「職場環境づくり」のために、仕事と育児・介護の両立支援に取り組む事業主に対して、以下の両立支援等助成金を支給しています。
ぜひ、この助成金を、優秀な⼈材を確保・定着させるために活用してください。(令和7年度は改正育児・介護休業法にあわせて助成内容が変更になる予定です)
皆様こんにちは。
北野税理士事務所の北野です。
4月から育児介護休業法等の改正が行われます。
改正の内容について確認していきたいと思います。
2024年5月に、育児介護休業法等の改正法が可決・成立しました。
この改正法は、仕事と育児・介護の両立支援を強化するもので、育児介護休業法と次世代育成支援対策推進法の改正が含まれています。
施行は主に2025年4月1日と10月1日の2段階で実施される予定です。
以下では、4月からの改正内容について解説します。
1.育児・介護休業制度の改正~対象範囲と取得要件の拡大
2025年4月からの改正により、仕事と育児・介護の両立支援が大きく強化されます。
特に注目すべき変更点として、子の看護休暇(改正後:子の看護等休暇)の対象となる子の範囲が、小学校就学前から小学校3年生修了までに拡大されたことです。
また、取得事由にも新たに「感染症に伴う学級閉鎖等」「入園(入学)式、卒園式」が追加され、より柔軟な制度利用が可能になります。
加えて従来は継続雇用期間が6か月未満の労働者を除外できましたが、この規定も撤廃されます。これにより、週の所定労働日数が2日以下の労働者以外は、原則として全ての労働者が制度を利用できるようになります。
2.テレワーク導入と短時間勤務制度の拡充
育児・介護との両立支援策として、テレワークの導入が重要な位置づけとなります。3歳未満の子を養育する労働者に対して、テレワークを選択できる環境整備が事業主の努力義務となりました。
同様に、要介護状態の対象家族を介護する労働者に対してもテレワーク選択の機会を提供することが求められます。
所定外労働の制限(残業免除)については、対象となる労働者の範囲が3歳未満から小学校就学前までに拡大。また、短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置として、従来の「育児休業に関する制度に準ずる措置」「始業時刻の変更等」に加え、新たに「テレワーク」が追加されました。
3.男性の育児休業取得率の公表義務の拡大
2025年4月から、男性の育児休業取得率の公表義務が、従業員300人超の企業にまで拡大されます。公表内容は「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」のいずれかを選択可能です。
公表は年1回、前事業年度終了後おおむね3か月以内に、インターネットなど一般の方が閲覧できる方法で行う必要があります。
この施策は、男性の育児参加を促進し、職場における両立支援の見える化を図ることを目的としています。
■育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化
4.介護に関する制度の周知強化と情報提供の義務化
介護に関する支援制度の実効性を高めるため、周知・情報提供が強化されます。介護に直面した労働者に対しては、介護休業制度等の内容、申出先、介護休業給付金に関する情報を個別に周知し、制度利用の意向確認を行うことが義務付けられます。
また、40歳到達時には、介護に直面する前の早い段階での情報提供も必要です。周知方法は面談(オンライン可)、書面交付、FAX、電子メール等から選択できます。さらに、介護保険制度についても併せて周知することが求められ、労働者の介護離職防止を総合的に支援する体制づくりが進められます。
■介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等
皆様こんにちは。
北野税理士事務所の北野です。
今回は2025年はどういう変化が訪れるのかについてお伝えしようと思います。
2025年は国内最大級のイベントとして期待される大阪・関西万博の開催を筆頭に、超高齢化社会への対策、マイナンバーカードの多様化、DXの更なる推進など、私たちの暮らしに影響を与える変化が訪れるでしょう。
1.大阪・関西万博で日本の技術力を世界へ発信
4月13日から10月13日まで開催される大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、会場となる夢洲(ゆめしま)で、最先端技術の展示や文化交流が行われます。特に注目されるのは、空飛ぶクルマや自動運転システムなどの未来型モビリティの実証実験です。
また、会場内では、AIやロボット技術を活用したサービス、再生可能エネルギーの実用化、次世代医療システムなど、日本が誇る先進技術が世界に向けて発信されます。
パビリオンでは、160を超える国・地域・国際機関が、それぞれの文化や最新技術を紹介。さらに、会場全体がスマートシティとして機能し、来場者は最新のデジタル技術を体験できます。この万博を通じて、日本は環境・健康・テクノロジーの分野における世界的なリーダーシップを示すことが期待されています。
2.2025年問題にみる超高齢化社会への対策
2025年問題は、団塊世代が全て75歳以上となり、5人に1人が後期高齢者という超高齢社会を迎えることを指します。深刻な課題として、医療・介護サービスの需要急増、認知症高齢者の増加、医療機関の不足、人材確保、そして社会保障費の増大による現役世代の負担増が挙げられます。
■現役世代が負担する社会保険料負担
(出所)日本年金機構ホームページ「厚生年金保険料額表」、全国健康保険協会ホームページ「健康保険料率等の推移」
これらの課題に対し、政府は主に4つの対策を進めています。第一に、地域包括ケアシステムの構築です。医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供し、高齢者が住み慣れた地域で暮らせる環境を整備します。
第二に、医療費負担の見直しです。2022年10月から一定以上の所得がある75歳以上の高齢者の医療費負担割合を1割から2割に引き上げ、世代間の公平性を確保しています。
第三に、予防医療の強化です。フレイル予防や生活習慣病対策を推進し、健康寿命の延伸を目指します。また、ICTやAIを活用したスマート医療の導入により、サービスの効率化と質の向上を図ります。
第四に、高齢者の就労支援です。企業への助成金支給や専門家による相談支援、シルバー人材センターの活用、ハローワークでの支援など、多様な施策を展開しています。これらの対策により、持続可能な社会保障制度の構築を目指しています。
3.マイナンバーカードと健康保険証の一体化
2024年12月2日以降、これまでの健康保険証は新たに発行されなくなり、マイナンバーカードと健康保険証の完全一体化が本格的にスタートしています。この制度変更により、医療サービスの質が大きく向上することが期待されています。
具体的なメリットとして、まず患者側では、過去の薬剤服用歴や特定健診情報が医療機関と正確に共有できるようになります。これにより、重複投薬や併用禁忌を防ぎ、より適切な医療サービスを受けることができます。また、高額療養費制度の限度額認定証が不要になるなど、手続きの簡素化も実現します。
医療機関側では、顔認証による確実な本人確認が可能になり、なりすまし受診のリスクが軽減されます。さらに、レセプトの返戻や未収金の減少、事務作業の効率化といったメリットも見込まれます。
保険者にとっても、保険証や限度額認定証の発行事務が減少し、資格喪失後の保険証使用による過誤請求の処理負担が軽減されるなど、業務の効率化が進むことになります。
4.2025年の崖を乗り越え、DX時代の新たなステージへ
2025年は、日本のIT業界にとって重要な転換点を迎えます。経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」とは、古い基幹システムの限界と人材不足による深刻なリスクを指しています。
多くの企業では、1990年代以降に構築した基幹システムが老朽化し、維持管理コストの増大や改修の困難さに直面しています。また、システムを支えてきた技術者の高齢化や人材不足も深刻な問題となっています。
■2025年の崖
しかし、この危機を契機に、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)への本格的な移行を進めています。クラウドやマイクロサービスなど、最新のIT技術を活用したシステムの刷新が加速しており、AIやIoTを活用した業務の効率化や、新たなビジネスモデルの創出も進んでいます。
政府も「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を策定し、企業のDX推進を支援しています。具体的には、DX投資への税制優遇や、人材育成プログラムの提供などが実施されています。
2025年は、この「崖」を乗り越え、日本のデジタル化が本格的に花開く年となることが期待されています。企業は、この変革を通じて国際競争力を高め、新たな価値創造へとつながる基盤を整備することになります。
■DX実現シナリオ
皆様こんにちは。
北野税理士事務所の北野です。
今回は、2025年度税制改正へ向けた各省庁の要望についての内容です。
例年だと12月中旬に2025年度税制改正大綱が公表されていますが、今年は「103万円の壁の見直し」が議論されるなど協議が続いているようです。
そこで各省庁からの要望を見てみると、今回の税制改正では家計支援策と企業の成長促進などが大きな柱となっています。
一方で、政府の財政健全化目標との整合性も問われており、減税と増税のバランスが焦点のようです。
以下では、企業や個人に大きな影響を与える可能性のある主要な要望内容を紹介します。
1.物価高騰対策と家計支援
総務省と厚生労働省を中心に、物価高騰に直面する家計を支援するための税制措置が要望されています。
また、住宅取得支援策として、住宅ローン減税等に係る所要の措置、ガソリン減税など、適用要件の緩和が提案されています。
これらの措置により、実質的な可処分所得の増加を図る狙いがあります。
■住宅ローン減税等に係る所要の措置
2.企業の成長を後押しする税制措置
経済産業省が中心となり、企業の成長を後押しする税制措置の拡充を求めています。
賃上げ促進税制については、現行の税額控除率のさらなる引き上げや、適用要件の見直しが検討されています。特に、中小企業向けの支援措置を手厚くする方向性が示されており、地域経済の活性化にも配慮した内容となっています。
■令和7 年度税制改正に関する経済産業省要望のポイント
3.金融・資産関連の税制改正要望
金融庁では資産所得倍増プランの実現に向けて、NISAの利便性向上、企業年金・個人年金制度の見直しを要望しています。
また、国際金融センター実現に向け、クロスボーダー投資の活性化に向けた税制改正や、生命保険料控除制度の拡充などが提案されています。
■NISA の利便性向上等
(資料)令和7(2025)年度税制改正要望について(金融庁)
■金融庁の令和7(2025)年度税制改正要望における主な要望項目■
1.「資産所得倍増プラン」及び「資産運用立国」の実現
・NISAの利便性向上等
・企業年金・個人年金制度の見直しに伴う税制上の所要の措置〔厚生労働省主担〕
・上場株式等の相続税に係る物納要件等の見直し
・金融所得課税の一体化〔農林水産省・経済産業省が共同要望〕
2.「世界・アジアの国際金融ハブ」としての国際金融センターの実現
・クロスボーダー投資の活性化に向けた租税条約等の手続の見直し
3.安心な国民生活の実現
・生命保険料控除制度の拡充〔農林水産省・厚生労働省・経済産業省・こども家庭庁が共同要望〕
・火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実
■参考資料
※本稿は2024年8月時点での各省庁からの要望内容をまとめたものです。実際の税制改正大綱では、内容が変更される可能性がありますので、ご了承ください。
皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
今回は、「日本企業の給与動向」に関する話題です。
厚生労働省が毎年実施している賃金引上げ等の実態調査は、重要な労働統計調査の一つです。今年は7月20日~8月10日に実施、常用労働者100人以上を雇用する会社組織の民営企業で、無作為に3,622社を抽出し、1,783社より有効回答を得ています。
1.91.2%の企業が賃上げ実施、平均改定率4.1%で過去最高水準に
①賃金引上げ実施企業の割合
令和6年における賃金改定の実施状況を見ると、9月から12月の予定を含め、「1人平均賃金を引き上げた・引き上げる」と回答した企業の割合は91.2%となっており、前年の89.1%から2.1ポイント増加しています。
一方、「1人平均賃金を引き下げた・引き下げる」企業は0.1%(前年0.2%)とわずかで、「賃金改定を実施しない」企業は2.3%(前年5.4%)と大幅に減少しています。
企業規模による違いを見ても、すべての規模で賃金引上げを実施する企業の割合が9割を超えており、各規模とも前年の水準を上回っています。この結果から、企業規模を問わず、積極的な賃金引上げの動きが広がっていることがわかります。
②賃金の改定額及び改定率
賃金改定状況(9月~12月予定を含む)を見ると、1人当たりの平均賃金改定額は11,961円(前年比9,437円)、1人平均賃金改定率は4.1%(前年比3.2%)となっています。企業規模別では、1人当たりの平均賃金改定額と平均賃金改定率が全ての企業規模で前年を上回っています。
労働組合の有無については、労働組合がある場合の1人当たりの平均賃金改定額は13,668円(前年比10,650円)、1人平均賃金改定率は4.5%(前年比3.4%)、労働組合がない場合は10,170円(前年比8,302円)、3.6%(前年比3.1%)になっています。
また下の表で示す通り、年次推移は「1人平均賃金の改定額」と「1人平均賃金の改定率」は、平成23年の調査以降、増加傾向にあり、令和2年と3年の調査で減少したものの、令和4年、5年、6年の調査では再び上昇しています。
■1人平均賃金の改定額及び改定率の推移
(注)賃金の改定を実施した又は予定していて額も決定している企業及び賃金の改定を実施しない企業についての数値である。
2.定期昇給・ベア実施率が上昇、一般職で最大83.4%
2024年の賃金引上げにおける定期昇給とベースアップの実施状況について、特徴的な傾向が見られます。定期昇給については、一般職での実施率が83.4%(前年79.5%)と高く、管理職でも76.8%(前年71.8%)と前年を上回っています。実施しないとする企業は、一般職で2.6%、管理職で4.3%と低水準にとどまっています。
■定期昇給を行った・行う企業割合の推移
(注)賃金の改定を実施した又は予定している企業及び改定を実施しない企業に占める割合である。
一方、ベースアップについては、一般職で52.1%(前年49.5%)、管理職で47.0%(前年43.4%)の企業が実施しており、いずれも前年より増加しています。実施しない企業は、一般職で14.9%(前年18.2%)、管理職で18.1%(前年21.0%)となっています。
全体的な傾向として、定期昇給・ベースアップともに実施率が上昇しており、特に一般職における実施率が管理職を上回っている点が特徴です。これは、人材確保や物価上昇への対応として、企業が積極的な賃金改定に取り組んでいることを示しています。
3.2024年の賃金改定要因:企業業績と人材確保が主要因に
2024年の賃金改定において、企業が最も重視した要素は「企業の業績」で35.2%(前年36.0%)を占めています。次いで「労働力の確保・定着」が14.3%(前年16.1%)、「雇用の維持」が12.8%(前年11.6%)となっています。
賃金の改定の決定に当たり「企業の業績」を重視したと回答した企業(複数回答)の業績評価では、「良い」と回答した企業が45.6%と半数近くを占め、「悪い」は15.2%、「どちらともいえない」が37.9%となっています。
業績が「良い」と評価した企業の主な理由は「販売数の増加・減少」(35.0%)が最も多く、「悪い」と評価した企業でも「販売数の増加・減少」(9.1%)が主な理由となっています。
これらの結果から、企業の業績状況が賃金改定の重要な判断材料となっている一方で、人材の確保・定着も重要な要素として認識されていることがわかります。
■企業規模、賃金の改定の決定に当たり最も重視した要素別企業割合
(注1) 〔 〕内は、全企業に占める賃金の改定を実施した又は予定していて額も決定している企業の割合である。
(注2) 「複数回答計」は、その要素を重視した企業(最も重視したものを1つ、そのほかに重視したものを2つまでの最大3つの複数回答による)の割合である。
4.2024年以降の賃金動向:継続的な賃上げ傾向
2024年以降の賃金動向については、引き続き上昇傾向が継続すると予測されています。この背景には、3つの重要な要因があります。
第一に、企業の91.2%が賃上げを実施・予定していることから、賃上げの流れが定着していると考えられます。特に、物価上昇への対応や人材確保の必要性から、企業は積極的な賃金改定を継続する見通しです。
第二に、政府が掲げる「構造的な賃上げ」の実現に向けた支援策の強化があります。中小企業向けの賃上げ支援や税制優遇措置により、企業規模を問わない賃上げの広がりが期待されています。
第三に、人手不足の深刻化です。特に中小企業では、人材確保・定着のため、賃上げを重要な経営戦略として位置づける企業が増加しています。これらの要因から、2024年以降も賃金の上昇基調は維持されると予測されます。
■参考資料
皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
今回は、今月から施行された「フリーランス保護法」に関する話題です。
2024年11月1日から「フリーランス保護法」(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されました。
この法律は、個人で働くフリーランスの権利を守るための新しい制度です。
発注事業者には、取引条件を書面で明示することや、業務完了から60日以内の報酬支払い、ハラスメント防止のための体制整備などが義務付けられています。
1.フリーランス保護法の概要
フリーランス保護法で保護される対象者は、主に2つのカテゴリーに分類されます。
1つ目は従業員を使用しない個人事業主、2つ目は代表者以外に従業員がいない法人です。
ここでいう従業員には、アルバイトなどの一時的な雇用者は含まれません。具体的には、フリーランスとして物品の製造、情報成果物の作成、役務の提供などの業務委託を受ける事業者が対象となります。法律上では「特定受託事業者」と呼ばれ、個人の場合はその本人が、法人の場合は代表者が「特定受託業務従事者」として保護されます。
一方、業務を委託する側は「特定業務委託事業者」と定義され、従業員を使用している事業者がこれに該当します。この法律は、働き方の多様化に対応し、フリーランスが安定的に業務に従事できる環境を整備することを目的としています。これにより、取引の適正化や就業環境の整備が図られ、国民経済の健全な発展に寄与することが期待されています。
2.フリーランスに与えられる新しい権利
フリーランス保護法により、フリーランスには3つの重要な権利が与えられます。
1つ目は、契約内容を書面や電子データで明示してもらう権利です。発注者は業務内容や報酬額などを明確に示す必要があります。
2つ目は、適切な期間内での報酬支払いを受ける権利です。業務完了後60日以内の支払いが原則となり、再委託の場合は発注元からの支払い後30日以内とされます。
3つ目は、不当な取引から保護される権利です。発注者による理由のない受領拒否や報酬減額、不当な返品、著しく低い報酬の設定などが禁止されます。また、商品購入の強制や不当な経済的利益の要求、正当な理由のない業務内容の変更なども禁止されます。
■義務内容
①書面等による取引条件の明示
フリーランスに対して業務委託をした場合、直ちに書面または電磁的方法(メール、SNSのメッセージ等)で取引条件を明示する義務があります。明示方法は、口頭での明示はNGで、書面または電磁的方法かを発注事業者が選ぶことができます。取引条件として明示する事項は9つです。
1.給付の内容、2.報酬の額、3.支払期日、4.業務委託事業者・フリーランスの名称、5.業務委託をした日、6.給付を受領する日/役務の提供を受ける日、7.給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所、8.(検査をする場合)検査完了日、9.(現金以外の方法で報酬を支払う場合)報酬の支払方法に関して必要な事項
②報酬支払期日の設定・期日内の支払い
報酬の支払期日は発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り短い期間内で定め、一度決めた期日までに支払う必要があります。ただし、元委託者から受けた業務を発注事業者がフリーランスに再委託をした場合、条件を満たせば、元委託業務の支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めることができる【再委託の例外】もあります。
③7つの禁止行為
フリーランスに対して1か月以上の業務を委託した場合には、7つの行為が禁止されています。
1.受領拒否(注文した物品または情報成果物の受領を拒むこと)
2.報酬の減額(あらかじめ定めた報酬を減額すること)
3.返品(受け取った物品を返品すること)
4.買いたたき(類似品等の価格または市価に比べて、著しく低い報酬を不当に定めること)
5.購入・利用強制(指定する物・役務を強制的に購入・利用させること)
6.不当な経済上の利益の提供要請(金銭、労務の提供等をさせること)
7.不当な給付内容の変更・やり直し
(費用を負担せずに注文内容を変更し、または受領後にやり直しをさせること)
④募集情報の的確表示
広告などによりフリーランスの募集情報を提供する際には、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず、また、募集情報を正確かつ最新の内容に保たなければなりません。
⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮
フリーランスに対して6か月以上の業務を委託している場合、フリーランスからの申出に応じて、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければなりません。また、6か月未満の業務を委託している場合も配慮するよう努めなければなりません。配慮の例としては、以下の対応があげられます。
●妊婦健診がある日について、打ち合わせの時間を調整したり、就業時間を短縮したりする
●育児や介護などのため、オンラインで業務を行うことができるようにする
⑥ハラスメント対策に係る体制整備
ハラスメントによりフリーランスの就業環境が害されることがないよう、相談対応のための体制整備などの必要な措置を講じなければなりません。体制整備などの必要な措置の例としては、以下などの対応があげられます。
●従業員に対してハラスメント防止のための研修を行う
●ハラスメントに関する相談の担当者や相談対応制度を設けたり、外部の機関に相談への対応を委託する
●ハラスメントが発生した場合には、迅速かつ正確に事実関係を把握する
⑦中途解除等の事前予告・理由開示
フリーランスに対して6か月以上の業務を委託している場合で、その業務委託に関する契約を解除する場合や更新しない場合、少なくとも30日前までに、1.書面、2.ファクシミリ、3.電子メール等による方法でその旨を予告しなければなりません。また、予告がされた日から契約が満了するまでの間に、フリーランスが解除の理由を請求した場合、同様の方法により遅滞なく開示しなければなりません。
3.違反した場合等の対応
フリーランス保護法に関するトラブルを予防するためには、以下の3つのポイントが重要です。
まず、契約内容を書面で明確にし、お互いの認識に齟齬がないようにします。次に、法律で定められた支払期限(60日以内)を遵守し、適切な報酬額を設定します。最後に、トラブルが発生した際の対応手順を事前に確認しておきます。
問題が起きた場合は、公正取引委員会や中小企業庁、厚生労働省に相談することができ、これらの機関が調査や指導を行います。なお、違反を申し出たフリーランスへの不利益な取り扱いは禁止されており、違反した発注者には50万円以下の罰金が科される可能性があります。
参考資料:公正取引委員会フリーランス法特設サイト
皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
今回は、事業承継に関するお話です。
中小企業経営者の高齢化が進むなか、政府は事業承継支援を重要課題の一つと位置付け、ガイドラインの策定やM&A支援制度の整備など様々な施策に取り組んでいます。
しかし10月に中小企業基盤整備機構から提出された報告では、相談件数と成約件数は過去最高を記録しましたが、一部では目標未達が目立ち、地域間でのばらつきが見られました。
1.事業承継を巡る状況
中小企業白書(2024年版)によると、中小企業経営者の平均年齢は上昇を続け、全国平均で63.8歳と過去最高を更新、とりわけ地方圏における高齢化が顕著になっています。
また、2023年の休廃業・解散件数は49,788件とコロナ禍の影響が大きかった2020年を上回る高水準で、経営者の高齢化と後継者不在が大きな要因となっています。特に70歳以上の経営者による休廃業・解散の割合は年々増加し、黒字廃業の割合も高い状況が続いています。
後継者の有無については後継者不在率は改善傾向にあるものの、2023年は54.5%と依然として高い水準です。経営者の年代が上がるほど、親族内外を問わず事業承継を検討する割合は高まっていますが、70歳代以上でも3割弱が「未定・分からない」と回答しています。
事業承継を円滑に進められなかったことを起因とする後継者難倒産も増加、2023年度は586件(前年度20.3%増)と過去最多を大幅に更新し、業種別では建設業が約20%を占め、小売業、卸売業の順となっています。
2.政府の取り組みについて
政府は平成27年度に「事業引継ぎガイドライン」を策定、M&Aの活用促進に取り組み、 令和2年3月に「中小M&Aガイドライン」を公表、後継者不在の中小企業向けにM&Aのプロセスを示しました。
同年7月に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」には、第三者承継支援と親族内承継支援のワンストップ体制の構築などが明記され、更に令和3年6月の「成長戦略実行計画」では、中小企業の円滑な事業承継の後押しと、M&Aを適切に活用できる環境整備が提示されました。
同年4月に「中小M&A推進計画」を取りまとめ、今後5年間の官民の取り組みロードマップを示し、8月に中小M&Aの安心感醸成のため「M&A支援機関登録制度」を創設。民間でもM&A仲介業者による自主規制団体が設立されています。
令和4年3月には円滑な事業承継をより一層推進するため、「事業承継ガイドライン」を改訂、令和5年9月に「中小M&Aガイドライン」も改訂し、M&A専門業者との契約条項や手数料、支援の質の確保などが追記されました。
3.令和5年度の具体策とは
事業承継・引継ぎ支援センター(以下センター)では、令和5年度に以下の事業に取り組んでいます。
(1)情報収集・情報発信強化に向けた取り組み
前年度に比べて案件の紹介件数が大幅に増加、連携が強化されました。また、中小企業・小規模事業者への周知・啓発活動として、積極的に情報を発信、ダイレクトメール、PR誌発行、ホームページ運営、動画作成、新聞広告などを実施し、事業承継フォーラムもオンラインで開催しています。
(2)掘り起し支援の強化
地域の事業承継ネットワークを構築し、プッシュ型の事業承継診断などで掘り起こしを実施。令和5年度の事業承継診断件数が前年比107%の230,907件、エリアコーディネーターが対応した相談件数が前年比110%の10,507件と前年度を上回る実績でした。
また弁護士会との連携により14地域で覚書等を締結し、弁護士が支援した71件中35件が成約。中小企業診断協会とも連携し、M&A後の統合作業を中心に9地域で協力体制を築きました。
(3)事業承継・引継ぎ支援の充実
①民間M&Aプラットフォーマーとの連携強化のため、二次対応の取扱を開始し、センター専門家向けに職能別研修やオンライン研修を実施。
②親族内承継支援体制を構築するため、コーディネーターやマネージャーを適切に配置し体制を強化した結果、親族内承継の相談件数と成約件数が過去最高に。
③事業承継・引継ぎ支援事業のためのデータベースに、セキュリティ向上のため多要素認証を導入、情報量の充実に向けて入力項目の拡充等を実施。
④登録民間支援機関やマッチングコーディネーターの増加に取り組み、前年度比で1,503機関に増加、優秀な人材も一般公募など。
⑤後継者人材バンクを積極的に活用、前年度から大幅に成約件数が増加。
4.令和5年度の実績と評価
令和5年度の事業引継ぎ成約件数は過去最高の2,023件(前年比 120%)となり、累計では10,174件に達しました。譲渡側の企業規模を見ると、売上高1億円以下の中小企業が6割超を占めており、従業員10名以下の小規模事業者も7割強に上ります。業種別では製造業、卸売・小売業、建設工事業が上位を占めています。
一方で譲受側は譲渡側より大規模な企業が多く、売上高1億円超が約6割、従業員21名以上が約4割で、全体の構成比は前年度から大きな変化がありませんでした。
各センターの事業評価は14センターがA評価でしたが、一部では目標未達が目立つなど地域間で取り組みにばらつきがあり、今後さらなる努力が求められています。
参考資料:令和5年度に認定支援機関等が実施した事業承継・引継ぎ支援事業に関する事業評価報告書(独立行政法人中小企業基盤整備機構)
皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
令和6年10月26日にネクスト飯田様にて「相続税まるわかりセミナー」を開催いたしました!
「どのような時に相続税がかかってくるのか」など最近の税務調査状況を含めて、基本をしっかりと分かりやすくお伝えしました。
また、気になる土地や家屋の評価額の相場についても、周辺の資料を参考にお伝えしました。
当日は、相続税のエキスパートである税理士・坂田先生や、相続関連のことにも精通していらっしゃる司法書士の橋本先生にも同席していただき、受講者の方の様々な質問に専門家の視点から答えていただきました。
◆参加者の方からの感想◆
・理解しやすくとても良かったです。
・とても親しみやすく、丁寧に説明してくださって分かりやすかったです。
・大変参考になりました。
・個別対応もしてくださり、とてもありがたかったです。
・参加者も多く、質疑もあり、参考になる点が色々ありました。
・今後どうすべきか、早くすべきことは何か、と考えさせられる内容でした。
・資料が分かりやすく、とても良かったです。皆さんの質問も大変参考になりました。
・質疑応答の時間で皆さんの質問への回答が具体的に想像しやすく参考になりました。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!
【当日の様子】
皆様こんにちは。
北野税理士事務所の北野です。
今回は、日本の税制の現在の財政状況や今後の課題などを説明していきたいと思います。
日本の税制は、課税対象や課税主体、実質負担者などの観点から多様な種類に分類されます。
平成以降、税負担の公平性確保や社会保障財源確保を目的に、所得税の軽減と消費税率の引上げなどの改革が進められてきました。
しかし近年、社会保障関係費の増大などから財政赤字が拡大し、現行の税制では将来の歳出を賄えない状況となっています。そこで、今一度、税制の現状と課題について考えてみましょう。
1.税の種類と分類について
税には様々な種類があり、分類の仕方も複数あります。
まず、課税対象から見ると、所得に対する税、消費に対する税、資産等に対する税の3つに大別できます。次に、課税主体から見ると、国が課す国税と、都道府県や市町村が課す地方税の2つに分けられます。国税と地方税を合わせると40種類以上の税目があります。
さらに、実質的な負担者と納税義務者の関係から見ると、両者が一致する直接税と、異なる間接税の2つに分類され、所得税は直接税、消費税は間接税に当たります。
このように、税には様々な分類の仕方があり、それぞれの性質を理解する必要があります。
2.税制の変遷を振り返る
税収は、景気動向や税制改革等の影響を受けて変動してきました。
バブル景気の平成2(1990)年度には60兆円台に達しましたが、その後の低迷やリーマンショックの影響で平成21(2009)年度には38.7兆円にまで落ち込みました。
しかし、景気回復に加え、社会保障財源確保のため平成26(2014)年に消費税率が5%から8%に、令和元(2019)年には8%から10%に引き上げられたこと等で増加に転じ、令和4(2022)年度には71.1兆円と高水準となりました。
このように税収は経済情勢や税制によって大きく変動してきたことがわかります。
3.財政状況と課題
近年の一般会計歳出では、社会保障関係費や国債費の割合が増加し、その他の政策経費の割合は縮小傾向にあります。
近年の予算では、社会保障関係費と国債費と地方交付税交付金等で歳出全体の約4 分の3 を占めています。
また、令和6(2024)年度予算では、歳出全体の約3分の2しか税収等で賄えておらず、残りは公債金すなわち借金に依存している状況です。
4.財政赤字と国債発行による将来世代への負担先送り
財政状況は前述の通り、一般会計歳出と一般会計税収との差が大きく、その差額のほとんどが国債の発行で賄われています。このため、借金である国債の返済負担を将来世代に先送りしてしまっています。
また、新型コロナウイルス対策や物価高騰対策として、過去に例を見ない規模の補正予算を組んだため、歳出が大幅に増加しました。一方、現行の税制では財源を十分に確保できていません。
5.給付と負担のバランスについて
諸外国と比較すると、税収水準は対GDP比で国際的に低い一方、社会保障支出は中程度の水準にあります。高齢化の進展に伴い、今後社会保障給付は更に増加することが見込まれますが、現行の税制では十分な財源を確保できない可能性があります。
このため、社会保障の給付と国民の負担のバランスについて、国民的な議論を重ねていく必要があるでしょう。
■給付と負担のバランス
(出所)OECD “National Accounts”、“Revenue Statistics”、内閣府「国民経済計算」等
(注)オーストラリア、エストニア、ドイツについては推計による暫定値。それ以外の国は実績値。
皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
令和6年10月14日にネクスト仏生山様にて、令和6年10月20日にネクスト林様にて「相続税まるわかりセミナー」を開催いたしました!
「どのような時に相続税がかかってくるのか」など最近の税務調査状況を含めて、基本をしっかりと分かりやすくお伝えしました。
また、気になる土地や家屋の評価額の相場についても、周辺の資料を参考にお伝えしました。
当日は、相続税のエキスパートである税理士・坂田先生や、相続関連のことにも精通していらっしゃる司法書士の橋本先生にも同席していただき、受講者の方の様々な質問に専門家の視点から答えていただきました。
◆参加者の方からの感想◆
・相談できる人を決めることが大事だということを知りました。
・とても分かりやすかったです。
・今まで自分には関係ないことのように感じていましたが、身近に感じることができました。
・大変満足しました。
・専門の先生方のお話を聞くことができてよかったです。
・とても勉強になりました。
・土地や家屋の評価額についてよく分かりました!
・相続に関して勉強しているつもりでしたが、更に知識を深めることができました。
・友人が前回参加して勧めてくれて参加しました。来てよかったです。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!
次回は
◆令和6年10月26日(土) 10:00~11:00 ネクスト飯田(高松市飯田町)
にて開催いたします。
ご予約等詳細はこちらをご覧ください。
【当日の様子】
皆様こんにちは。
北野税理士事務所の北野です。
今回は、今月から引き上げられた最低賃金に関する話題です。
1.2024年最低賃金の動向
2024年10月から全国の都道府県で最低賃金が順次、引き上げられています。
全国平均で過去最高の51円引き上げられ、時給の平均は1055円となります。引き上げ額は都道府県により異なり、最大は徳島県の84円、最小は20都道府県の50円です。最も高い東京都は1163円、最も低い秋田県は951円のように、都道府県間で大きな開きがあり、地域による最低賃金の格差が一層拡大することになります。
なお、都道府県別の最低賃金改定額は以下の通りとなっています。
2.最低賃金引き上げの影響
最低賃金の引き上げにより、企業には以下のように様々な影響が生じるでしょう。
①人件費の増加
最低賃金が引き上げられると、最低賃金に満たない給与の従業員の賃金を引き上げる必要があります。これにより、企業の人件費が増加することになります。人件費の増加分は企業の収益を圧迫する要因となるため、対策が必要不可欠です。
②採用活動への影響
最低賃金の引き上げにより、賃金総額が高くなるため、企業の採用コストが増加します。採用予算に余裕がない場合、計画していた募集人数を減らさざるを得なくなる可能性があります。
③従業員のモチベーション低下リスク
最低賃金の引き上げにより、最低賃金労働者と熟練労働者の賃金格差が縮小します。その結果、熟練労働者の賃金が相対的に低くなると受け止められ、モチベーション低下のリスクが高まります。
このように、最低賃金の引き上げは企業経営に大きな影響を与えます。人件費の増加分を製品価格に転嫁するか、生産性向上に取り組むなどの対策が求められます。
3.最低賃金の計算方法
最低賃金額を遵守しているかどうかは、雇用形態や給与体系によって計算方法が異なります。時給制の場合は時給が最低賃金額以上であれば適法となりますが、日給制や月給制では所定労働時間数を加味した計算が必要です。
詳細は都道府県労働局や労働基準監督署にご確認ください。なお、日額と時間額の両方が定められている特定(産業別)最低賃金については、適用される額が異なりますのでご留意ください。
最低賃金の対象となるのは毎月支払われる基本的な賃金なので、最低賃金を計算する場合には、実際に支払われる賃金から以下の賃金を除外したものが対象となります。
【最低賃金の対象とならない賃金】
(1)臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2)1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3)所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4)所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5)午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6)精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
①時間給の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)
②日給の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、 日給≧最低賃金額(日額)
③ 月給の場合
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
④出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除した金額≧最低賃金(時間額)
⑤上記1〜4の組み合わせの場合
例えば基本給が日給制で各手当(職務手当等)が月給制などの場合は、それぞれ上の②、 ③の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)と比較します。
4.賃金引上げを支援する業務改善助成金の活用
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者が生産性向上のための設備投資等を行い、併せて事業場内最低賃金を引き上げた場合に、その費用の一部を助成する制度です。
助成金の支給には、最低賃金引上げと設備投資の計画を立て、実施後に結果を報告する必要があります。助成額は設備投資費用に助成率を乗じた金額と助成上限額のいずれか低い方となります。
ただし、最低賃金引上げや設備投資は今後実施するものに限られ、従業員がいない事業者は対象外となります。
対象事業者は中小企業・小規模事業者で、地域別最低賃金との差額が50円以内、解雇や賃金引下げがないことが条件です。全従業員の賃金を新たな事業場内最低賃金以上に引き上げ、引上げ人数に応じて助成上限額が変動します。
皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
令和6年10月8日、ネクスト舟岡様において「相続税まるわかりセミナー」を開催いたしました。
「どのような時に相続税がかかってくるのか」など最近の税務調査状況を含めて、基本をしっかりと分かりやすくお伝えしました。
また、気になる土地や家屋の評価額の相場についても、周辺の資料を参考にお伝えしました。
当日は、相続税のエキスパートである税理士・坂田先生や、相続関連のことにも精通していらっしゃる司法書士の橋本先生にも同席していただき、受講者の方の様々な質問に専門家の視点から答えていただきました。
参加者の方からは、
・とても参考になりました。
・資料がすごくわかりやすかったです。
・具体的なお話を聞けてよかったです。もっと聞きたかったです。
・これから何をしていけばいいのかが明確になりました。
・相続が発生した時には専門家に依頼したいと思いました。
等たくさんのご感想をいただき、今後もこのようなセミナーを開催してほしいとのご要望も数多く寄せられました。
お越しくださった皆様、ありがとうございました!
皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
2024年10月から一部パート・アルバイトの方の社会保険加入が義務化され、より多くの非正規雇用の方々が社会保険の適用を受けられるようになります。
対象企業は制度改正の詳細を確認し、適切な準備を行う必要があります。
社会保険料の負担増加が見込まれるため、事業主向けの相談窓口や助成金制度などの支援策についても確認しましょう。
1.対象企業及び対象となる従業員の要件
2024年10月から、従業員数が51人から100人の企業において、パート・アルバイト従業員が新たに社会保険の適用対象となります。一般に「従業員数」といえば、その企業で雇用される労働者数となりますが、社会保険の適用の要件を判断する「従業員数」をカウントする場合には、その企業の「厚生年金保険の適用対象者数(被保険者数)」で判断します。
具体的には、フルタイムの従業員数と、週所定労働時間及び月所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の従業員数を合計した数で判定を行います。(週労働時間がフルタイムの4分の3以上であれば、雇用形態を問わずカウントします)
この制度改正により、より多くの非正規雇用の従業員が社会保険に加入できるようになりますが、企業側としては対象となる従業員を適切に把握し、説明を行う必要があります。従業員の把握方法としては、既存の給与計算システムや表計算ツールを活用するなどして、各従業員の状況を一覧で管理することが有効でしょう。
また、企業年金(企業型確定拠出年金、確定給付企業年金)を実施している場合は、厚生年金保険の適用拡大に伴い、加入要件の整理が必要となる可能性がありますので、顧問の社会保険労務士や金融機関などに相談しましょう。
2.社会保険適用拡大への対応準備と留意点
企業は社会保険適用拡大に向け、漏れのない準備が重要です。主な準備ステップとして、①加入対象者の把握、②社内周知、③従業員とのコミュニケーション、④届出書類の作成があります。
①では、新たに社会保険の加入対象となるパート・アルバイト従業員を適切に把握しましょう。社会保険料の増加額をシミュレーションし、事業主としての対応方針を決める必要があります。
②では、加入対象者への法改正内容の周知が不可欠です。社内インフラやメールなどを活用し、内容を確実に伝えましょう。
③では、説明会や個人面談を実施し、加入のメリットや配偶者扶養から外れることなどについて、従業員に丁寧に説明します。
最後に④で、加入対象者の「被保険者資格取得届」を日本年金機構へ提出します。電子申請による提出が便利です。
企業は、この一連の準備を着実に進め、万全の体制で臨むことが求められます。従業員への影響にも十分配慮し、スムーズな制度移行を心がけてください。
3.助成金や専門家活用支援などを活用
社会保険の適用拡大に伴い、企業には新たな準備や対応が求められますが、国や自治体には様々な支援策が用意されています。まずは「キャリアアップ助成金」の活用が有効でしょう。「社会保険適用時処遇改善コース」では、パート・アルバイトの社会保険加入に合わせて、手取り収入を減らさない取組を実施すれば、対象従業員1人当たり最大50万円の助成を受けられます。
また、無料で専門家に相談できる窓口も複数あります。「専門家活用支援事業」では、社会保険労務士が対応方針の検討や従業員への説明をサポートします。
「よろず支援拠点」では、社会保険適用拡大に留まらず、経営全般についてワンストップで相談できます。さらに「働き改革推進支援センター」では、労務管理の専門家が助成金の活用法なども含めてアドバイスいたします。
このように、社会保険適用拡大に伴う企業の負担を軽減するための支援策がありますので、ぜひ有効活用しスムーズな対応を心がけてください。
■参考資料
社会保険の適用が拡大!従業員数51人以上の企業は要チェック(政府広報オンライン)
皆様こんにちは。
北野税理士事務所の北野です。
今回は、今話題の「2024年問題」に関連して、36協定に関する話です。
2018年に「働き方改革」の一環として労働基準法を改正、時間外労働の上限規制が法律で規制され、大企業(2019年4月~)、中小企業(2020年4月~)で導入されました。
また、今年4月にドライバーや医師などに猶予されていた5年間が終了、いわゆる「2024年問題」として話題になっています。
そこで、時間外労働・休日労働を定める際に必要な36(サブロク)協定をおさらいしてみましょう。
1. 36(サブロク)協定とは
36(サブロク)協定とは、労働者に時間外労働及び休日労働をさせる場合に、労働者と結ぶ労使協定のことです。労働基準法第36条に基づいていることから、通称「36協定」と呼ばれています。
法定の労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて超えて労働させたり、休日に労働させる場合には、36協定の締結と所轄労働基準監督署長への届出が必要です。
法律上、時間外労働の上限は原則月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情がない場合は、これ超えることができません。
2. 36協定締結で留意すべき事項について
①時間外労働、休日労働は必要最小限にとどめる
法律上、時間外労働の上限は原則月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情がない場合は、これ超えることができません。
②労働者に対する安全配慮義務
36協定の範囲内であっても、労働契約法第5条の安全配慮義務を負います。40時間を超える週労働時間が月45時間を超えると、業務と脳・心臓疾患の発症リスクが徐々に高まるとされています。
③時間外労働・休日労働を行う業務の区分と範囲を明確化
業務の区分を細分化し、時間外労働、休日労働を行う業務を明確化します。
④時間外労働は、限度時間にできる限り近づける
時間外労働はできる限り具体的に定め、「業務の都合上必要な場合」「業務上やむを得ない場合」などの恒常的な表現は認められません。また、限度時間を超える場合は25%を超える割増賃金率とするように努めなければなりません。
⑤短期労働者の時間外労働は、目安時間を守る
1か月未満の期間で労働する労働者の時間外労働は、1週間:15時間、2週間:27時間、4週間:43時間の目安時間を超えないように努める必要があります。
⑥休日労働の日数、時間数をできる限り少なく
業務の区分を細分化し、時間外労働、休日労働を行う業務を明確化しま休日労働の日数および労働時間を、できる限り少なくするように努めなければなりません。
⑦労働者の健康・福祉を確保
時間外労働が長いほど過労死の関連性が高まることに留意し、以下の協定を確保しなければなりません。
(1)医師による面接指導、(2)深夜業(22時~5時)の回数制限、(3)終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)、(4)代償休日・特別な休暇の付与、(5)健康診断、(6)連続休暇の取得、(7)心とからだの相談窓口の設置、(8)配置転換、(9)産業医等による助言・指導や保健指導
⑧限度時間が適用除外・猶予されている事業・業務について
36協定の限度時間が適用除外または猶予されている業務においても、労働者の健康と福祉を確保するため、限度時間を勘案し、時間外労働を行う場合は健康確保措置を協定するよう努めなければなりません。
3. 労働基準監督署に届け出をする際のポイント
労働基準監督署に36協定の締結を届け出るための書類は「協定届」です。法定労働時間外に働かせるためには、36協定を締結し労働基準監督署に届け出る必要があります。
●36協定協定届の作成に必要な情報
■時間外労働や休日労働をする従業員の対象範囲
人数と業務の種類を具体的に記載。業務の区分を細分化し、時間外労働、休日労働を行う業務を明確化します。
■時間外労働や休日労働をする期間
時間外労働や休日労働を認める期間を規定する必要があります。この期間は最長1年間までとなっており、超えることはできません。
■時間外労働や休日労働をする具体的な理由
時間外労働や休日労働を行う場合、36協定に具体的な理由を記載する必要があります。
■時間外労働や休日労働をすることができる時間、日数
臨時的な事由で上限を超える労働が必要な場合は、「特別条項付き36協定」を締結する必要があります。違反した場合には、罰則(6か月以下の懲役または 30 万円以下の罰金)が科されるおそれがあります。
●特別条項付き36協定の上限
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
・時間外労働と休日労働の合計が2~6か月の平均で月80時間以内
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度
※特別条項の有無に関わらず、1年を通して常に、時間外労働と休日労働の合計は、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内にしなければなりません。
※例えば時間外労働が45時間以内に収まって特別条項にはならない場合であっても、時間外労働=44時間、休日労働=56時間、のように合計が月100時間以上になると法律違反となります。
※ドライバー・医師の時間外労働の上限規制は上記と異なります。
■時間外労働や休日労働を適正なものとするため厚生労働省令で定める必要事項
36協定には、労働基準法施行規則第17条で定められた以下の7つの必要事項を記載しなければなりません。
1.36協定の有効期間
2.対象期間の起算日(対象期間の始期)
3.特別条項付き36協定(限度時間を超える場合)の上限規制を満たしていること
4.36協定の上限規制を超えて労働を課すことができる場合
5.限度時間を超えて労働させる労働者の健康福祉を確保するための措置
6.限度時間を超えた労働に係る割増賃金率
7.限度時間を超えて労働させる場合の手続き
■参考資料
8月8日に発生した日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震を受け、気象庁は大規模地震が発生する可能性が高まっているとして「南海トラフ地震臨時情報」を発表しました。その1週間後、期間は終了しましたが、今後も巨大地震の発生に備える必要があります。
1.南海トラフ地震とは
南海トラフ地震は、駿河湾から日向灘沖にかけてのフィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界で発生するプレート境界型地震です。南海トラフ地震は、概ね100~150年間隔で繰り返し発生しており、前回は1944年と1946年におこりました。
地震調査研究推進本部の長期評価によると、マグニチュード8~9クラスの地震が今後30年以内に発生する確率は70~80%(令和4年1月1日現在)とされています。
国の被害想定では、最悪の場合、津波による死者が22万4千人に上る恐れがあります。しかし、住民の早期避難や情報伝達の改善により、被害は8割軽減できる可能性があります。
2.地震に備えた事前の対策
大規模地震発生時に被害を最小限に抑えるには、事前の備えが重要です。日頃から、地域の自治体で作成されているハザードマップの確認、避難場所・避難経路、家族との連絡手段などを決めておきましょう。また地震に備えて、以下の3点を心がけましょう。
①家具の固定
揺れによる家具の転倒や落下は、大きな危険要因になります。特に高さのある家具は注意が必要です。
②非常用持ち出し袋の準備
避難時に最低限必要となる物資を、バッグに常備しておきます。
【非常用持ち出し袋の例】
・飲料水、食料(缶詰、レトルト等)
・携帯ラジオ、懐中電灯、予備電池
・救急セット、常備薬 ・衣類、タオル、ビニール袋 など
③避難経路・場所の確認
自宅から最寄りの避難場所までの経路を、地図などで確認しておきましょう。また、避難場所の場所や設備についても、あらかじめ把握しておくと良いでしょう。
3.地震発生時の行動
地震発生時は、まず身を守ることが最優先です。揺れを感じたら頭を保護し、落下物に注意しましょう。津波が予想される場合は、すぐに指定の避難場所へ迅速に避難する必要があります。
避難の際は、車は使わず、事前に確認した経路を徒歩で移動しましょう。避難所では、持ち出し袋を活用し、節水・節電に協力しながら秩序ある生活を心がけましょう。
①揺れを感じたらまず身を守る
地震の際は、強い揺れに見舞われます。 揺れを感じたら、まず身の安全を守ることが最優先です。揺れがおさまったら、すぐに外に飛び出さず、落ち着いて行動しましょう。
・テーブルの下に隠れるなど、頭を保護する
・窓ガラスから離れ、落下物に注意する
・火の始末をし、ガスの元栓を締める
②津波から避難する方法
南海トラフ地震では、関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸で、10mを超える大津波の襲来が想定されています。津波から命を守るため、迅速に避難することが不可欠です。
・津波が来る前に、指定の避難場所へ避難する
・避難場所への経路は、事前に確認しておく
・避難の際は、エレベーターは使わず階段を使う
・車での避難は渋滞に巻き込まれる危険があるため避ける
③避難所での過ごし方
避難所では、トイレや水、食料の確保などが課題になります。避難所での生活は過酷なものですが、落ち着いて行動し、助け合うことが大切です。
・非常用持ち出し袋を事前に用意しておく
・節水・節電に留意する
・避難所運営に協力し、秩序ある生活を心がける
4.地震後の対応
地震発生直後は、まず家族の安否確認を最優先に行います。避難所に分散した場合は、あらかじめ決めておいた連絡方法で安否を確かめ合います。 次に、ライフラインの復旧状況を確認しましょう。
【主なライフライン】
・電気 :停電の場合、非常用電源の準備が必要
・ガス :マイコンメーターが遮断
・水道 :断水の場合、貯水を備蓄
・通信 :不通の場合は災害伝言ダイヤル活用
これらのライフラインが復旧するまでは、最低限の生活が余儀なくされます。避難所での集団生活にも備える必要があります。生活再建に向けては、被災者生活再建支援金の請求を行います。また、り災証明を取得し、生活の建て直しを図りましょう。
いざという時に落ち着いて対処できるよう、日頃から社員や家族で話し合い、地震対策を怠らないことが何より大切です。備えあれば憂いなしです。
令和6年度税制改正で、所得税と個人住民税の合計で1人当たり4万円の定額減税が実施されています。所得税については、給与所得者は6月給与から源泉徴収税額が減税され、事業所得者等は確定申告時や予定納税額から減税されます。
1.定額減税の対象者と定額減税の金額
この減税は、国民の所得を支え、官民連携で「賃金上昇と所得増加」を確実に実現し、社会に「賃金が上がることは当たり前」の意識を定着させることを目的としています。
定額減税の適用を受けられるのは、、令和6年分所得税の納税者である居住者で、所得税の合計所得金額が1,805万円以下(給与収入のみの場合、給与収入が2,000万円以下。一部例外あり)の人が対象となります。減税額は以下の通りです。ただし、減税額が所得税額や住民税額を上回る場合は、それぞれの税額が上限となります。所得税額や住民税額から減税額を控除しきれない場合、残額は市区町村から給付されます。
| <定額減税額> | <所得税> | <個人住民税> |
|---|---|---|
| 本人分 | 3万円 | 1万円 |
| 同一生計配偶者又は扶養親族 | 1人につき3万円 | 1人につき1万円 |
※ 本人、同一生計配偶者及び扶養親族はいずれも、居住者である方に限る。
2.給与所得者の定額減税の仕組みと実施方法
給与所得者の定額減税は、令和6年6月1日以後に支払われる給与等から源泉徴収される所得税額から減税されています。なお、定額減税額は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」等に基づき決定、減税しきれない額があれば以後の給与から順次減税されます。
また、個人住民税は6月分は徴収せず、7月以降の11カ月で均等に特別徴収、定額減税の適用状況は給与明細で確認できます
■給与所得者の場合の定額減税の流れ
3.事業所得者等の定額減税の仕組みと実施方法
事業所得者等の定額減税は、原則として令和6年分の確定申告時に所得税額から減税されます。ただし予定納税対象者は、6月以降に通知される第1期分予定納税額から本人分が減税され、7月31日が減額申請期限、9月30日が納付期限です。同一生計配偶者や扶養親族分は、簡易な減額申請で減税可能です。第1期分で減税しきれない額は第2期分から控除されます。
| <減額申請の期限> | <納期限(振替日)> | |
|---|---|---|
| 第1期分予定納税 | 令和6年7月31日(水) | 令和6年9月30日(月) |
| 第2期分予定納税 | 令和6年11月15日(金) | 令和6年12月2日(月) |
4.公的年金等受給者の定額減税の仕組みと実施方法
公的年金等受給者の定額減税は、令和6年6月1日以後に支払われる公的年金等から源泉徴収される所得税額から減税されます。企業年金は源泉徴収時は対象外ですが、確定申告で減税可能です。減税しきれない額は以後の公的年金から順次減税されます。なお、公的年金等の収入金額が400万円以下で、公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下の場合、計算の結果、納税額があっても所得税の確定申告は不要です。ただし住民税の申告が必要な場合があり、市区町村に確認が必要です。
2024年7月3日に、日本の一万円札、五千円札、千円札が20年ぶりに改刷されました。新札は、150年以上の歴史の中で培われた偽造防止技術を結集した最新のもので、偽造対策の強化だけでなく、視覚的にも識別しやすいデザインが施されています。
新札の「肖像」は3つの観点から選定
お札の肖像の選び方に法令上の制約はありませんが、主に3つの観点から選定されています。1つ目は偽造防止のため精密な写真が入手できること、2つ目は品格のある肖像であること、3つ目は国民に広く知られた人物であることです。こうした観点から、現在のお札の肖像は明治以降の人物から選ばれており、人の顔や表情のわずかな違いに気づきやすい人間の目の特性を活かしています。
●新一万円札の肖像:渋沢 栄一(1840~1931)埼玉県深谷市出身
江戸時代末期に農民出身で武士となり、徳川家に仕えた。明治維新後は静岡に商法会所を設立。その後、明治政府に招かれ、造幣・戸籍・出納など政策立案に携わった。退官後は実業界で活躍し、500社以上の企業や団体を設立・経営。また、600以上の教育機関や公共事業、研究機関の設立・支援に尽力した。肖像画は60歳代前半の姿にリメイクされている。
●新五千円札の肖像:津田梅子(1864~1929)東京出身
6歳で日本初の女子留学生としてアメリカに渡り、11年間の留学後に帰国。華族女学校教授を経て、女性の地位向上のため再渡米。この際、英国の学術雑誌に論文が掲載され、日本人女性として初の快挙を成し遂げた。1892年帰国後、女子高等教育に尽力し、1900年に女子英学塾(現・津田塾大学)を創設。生涯を通じて女性の地位向上と女子高等教育振興に力を注ぎ、日本の女性教育発展に大きく貢献した。肖像画は、女子英学塾創設時の30歳代の姿をとらえたもの。
●新千円札の肖像:北里 柴三郎(1853~1931)熊本県小国町出身
細菌学の権威として知られる医学者。18歳で古城医学所兼病院(現・熊本大学医学部)に入学し医学の道を歩み始めた。その後、東京医学校(現・東京大学医学部)へ、卒業後は内務省衛生局に勤務、1885年にドイツ留学を命じられ、破傷風菌の培養や抗毒素の発見など画期的な業績を残した。帰国後は伝染病研究所を創立し、ペスト菌の発見にも貢献。その後も慶應義塾大学医学部創設や、日本医師会などの医学団体や病院の設立など医学の発展に尽力した。肖像画は50歳代で学者として確立した姿を描いている。
新札は偽造防止技術の結晶
新札には、偽造を困難にするための新しい様々な技術が採用されています。また、年齢、国籍、障害の有無にかかわらず、誰もが使いやすいようなユニバーサルデザインが施されています。
●高精細すき入れで偽造がより困難に
すき入れ(すかし)は、お札を光にかざすと浮かび上がる透かし入れの技術です。新札では、肖像の背景に小さな菱形の模様「高精細すき入れ」を入れているため、偽造をより困難なものにしています。
●お札に「3Dホログラム」が導入されたのは世界初
ホログラムは、光の当たり具合で模様が変わる金属光沢の技術です。新札では一万円札、五千円札、千円札の3種類全てに、お札を傾けると肖像が左右に回転するデザインの「3Dホログラム」を採用しています。
●額面のアラビア数字を拡大
新札では、額面の数字が大きく拡大されています。表面では2倍から3倍、裏面では5倍ほど大きくなり、見やすさが向上しています。また、色使いの工夫により五千円札と千円札の識別性も高くなっています。千円札の中央部分に橙色を配置し、グラデーションをつけることで五千円札の紫色とは異なる見え方になっています。
●識別マーク
識別マークは、お札の種類を指で触って識別できるように設けられた凹凸のマークです。新札では、すべての銘柄で11本の斜線という同一の形状に統一されました。その上で配置を銘柄ごとに変え、識別のしやすさが向上しています。
旧札はもちろん使えます
お札には法律で定められた無制限の強制通用力があり、古くても21種類のお札は現在も使えます。
またお札を破損した場合でも、日本銀行の定める基準を満たせば交換してもらえます。全体の3分の2以上残っていれば全額、5分の2以上3分の2未満なら半額の交換が可能ですが、5分の2未満では交換できません。ただし、故意の汚損・損傷の場合は交換に応じられない可能性があります。
ちなみに日本銀行によると、寿命は一万円札で4~5年、五千円札・千円札で1~2年程度とされています。市中で流通したお札は、金融機関を経由して日本銀行に戻り、再流通に適さないものは裁断されます。裁断くずは住宅用の建材や固形燃料などにリサイクルされたり、焼却処分されています。
平成28年の税制改正で、相続または遺贈により取得した空き家や解体後の土地を令和9年12月31日までに譲渡した場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例が設けられました。この特例は空き家の発生を抑制することを目的としています。
1.被相続人居住用家屋(空き家)の要件
被相続人居住用家屋とは、相続の開始直前に被相続人が居住していた家屋のうち、以下の3つの要件をすべて満たすものをいいます。
①昭和56年5月31日以前に建築されたこと
②区分所有建物登記がされている建物でないこと
③相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
なお、被相続人が要介護認定等で老人ホーム等に入所していた場合は、入所前に居住していた家屋(従前居住用家屋)も被相続人居住用家屋に該当します。
2.被相続人居住用家屋の敷地の要件
被相続人居住用家屋の敷地等とは、相続開始直前に被相続人居住用家屋の敷地として使われていた土地や、その土地上の権利をいいます。複数の建物がある場合は、被相続人居住用家屋(主屋)の床面積の割合に応じた土地の部分が対象となります。
被相続人居住用家屋の敷地が対象となるためには、相続時から譲渡時まで事業用、貸付用、居住用に供されていないことが必要です。
3.譲渡要件と特別控除額
この特例を受けるには、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に以下などの譲渡をする必要があります。一定の要件を満たした際には、譲渡所得から最高3,000万円(一定の場合は2,000万円(注) )を控除できます。
(注)令和6年1月1日以後に行う譲渡で被相続人居住用家屋および被相続人居住用家屋の敷地等を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合は2,000万円まで。
①被相続人居住用家屋を売る、または被相続人居住用家屋と敷地を売る
②被相続人居住用家屋を取り壊した後に敷地を売る
③一定の耐震基準を満たす、または取り壊す予定である被相続人居住用家屋と敷地を売る
上記のほか、この特例を受けるには、相続開始から3年以内に譲渡すること、売却代金が1億円以下であること、他の特例と重複適用しないこと、同一被相続人からの財産についてこの特例を重複適用しないこと、特別の関係者に対する譲渡でないことなどの要件を満たす必要があります。
4.特例の適用を受けるための手続き
この特例の適用を受けるには、確定申告時に一定の書類を添付する必要があります。主な添付書類は、「譲渡所得内訳書」(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]、「登記事項証明書等」、売った資産の所在地を管轄する市区町村長から交付を受けた「被相続人居住用家屋等確認書」、「耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書の写し」、売却代金が1億円以下であることを明らかにする「売買契約書の写し」などです。提出先は所轄税務署となります。
以上のように、被相続人の居住用財産(空き家)を売却する際の特例については、対象となる家屋や敷地、譲渡方法、手続きなど、様々な要件がありますので、それらを確認の上、適切に手続きを行う必要があります。
スマートフォンの普及が進む中、国民生活や経済活動に不可欠な特定ソフトウェア(モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンの総称)の利用に関して、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに関する競争の促進についての法律案」が、6月12日に参議院本会議で可決され、成立しました。
スマホソフトウエア競争促進法の目的
スマートフォンの利用に必須の特定ソフトウェアの提供事業者は、特定の有力事業者による寡占状態にあります。これらの事業者による競争制限的な行為によって公正な競争が阻害されており、市場機能による自発的是正や独占禁止法による対応では解決が困難です。
そこでこの法律は、セキュリティやプライバシー等を確保しつつ、競争によってイノベーションの活性化し、消費者の選択肢を拡大を図り、競争環境を整備することを目的として導入されました。
法律の骨子と公正取引委員会の役割
この法律の骨子は、①規制対象事業者の指定、②禁止事項及び遵守事項の整備、③違反に対する措置等(指定事業者を含むステークホルダーとの継続的なコミュニケーションを通じた競争環境の整備)です。
公正取引委員会が特定ソフトウェアの提供事業者のうち一定規模以上の者を指定し、禁止事項や遵守事項を課すとともに、遵守状況の報告徴収や是正命令、課徴金納付命令などの権限を設けることで、規制の実効性を確保する枠組みとなっています。
アプリストア間の競争、課金システムの利用等を制限
法律では、アプリストア間の競争制限、指定事業者以外の課金システムの利用制限、アプリ内でのユーザーへの情報提供制限、アプリ事業者への不公正な取扱い、指定事業者以外のブラウザエンジンの利用禁止、指定事業者のサービスのデフォルト設定、検索における自社サービスの優先表示、指定事業者による不当なデータの使用、OSで制御される機能への他社アクセス制限などの行為を規制しています。また、データ管理体制の開示やポータビリティツールの提供、OS・ブラウザ仕様変更の開示なども義務付けられます。
コミュニケーションを継続的に行い競争環境を整備
従来の独占禁止法執行とは異なり、この法律では指定事業者やアプリ事業者等のステークホルダーと継続的な対話を行いながら、ビジネスモデルの改善を求めていく新たな規制の枠組みとなっています。
公正取引委員会は、関係事業者からの情報提供や関係省庁との連携、外国競争当局との連携を通じて、規制遵守状況を監視します。違反行為があれば排除措置命令や課徴金納付命令(算定率20%)を発動できるほか、問題となる行為が改善されない場合も同様の対応を取ることができます。
6月26日(土)国分寺会館にて相続税の申告についてのセミナーを開催しました。
今年1月、相続税の税制改正が行われたことによって相続税に関して関心をお持ちの方が多くいらっしゃいます。
そこで今回のセミナーでは、相続税申告の流れや納付期限、相続人や相続財産に関することまで具体的な事例を挙げながらイラスト入りのわかりやすい資料を使って説明いたしました。
当日は、ボランティアの手話通訳の方にもお越しいただき、多くの方にセミナー内容をお伝えすることができました。
参加者の皆様からは「全く知らないことでも事例を交えてわかりやすく説明してもらえたため大変わかりやすかった。」「相続について今まで考えていなかったが今回のセミナーをきっかけに準備していきたい。」とご好評をいただきました。
セミナーの内容
・相続税の申告期限はいつまで?
・相続税がかかるかどうかを調べよう!
(遺産の種類、基礎控除額の計算、法定相続人)
・相続税申告の手続きの流れ
・相続人の確定、相続財産の確定について
(遺言書、財産の評価、遺産分割協議)
・相続税の計算について
◆日時 6月29日(土) 10時半から12時
◆会場 高松市国分寺会館2F大会議室
◆参加費 無料
◆講師 北野純一
◆主催 国分寺町ボランティア協会
令和5年の相続税改正で、相続時精算課税制度に大きな変更がありました。年間110万円までの贈与に対する基礎控除が新設され、それを超える部分は相続時に加算課税されます。一方、暦年贈与は相続財産に加算される期間が長くなる点が異なります。制度選択は、贈与財産の額面や時期によって有利・不利が分かれます。不可逆な制度変更なので、専門家に相談し、手続きの複雑さも踏まえた上で慎重に判断する必要があります。
1.相続時精算課税制度の概要
相続時精算課税制度とは、贈与税の負担を大幅に軽減して財産の早期移転を促進するために設けられた制度です。この制度の特徴は以下の通りです。
・贈与者が60歳以上の直系尊属に限られる
・受贈者は18歳以上の推定相続人および孫に限られる
・年間110万円の基礎控除額がある
・贈与者ごとに2,500万円の特別控除がある
・非課税限度額を超えた場合も一律20%の軽減税率が適用される
つまり、相続時精算課税制度は、一定の範囲内の親族間で節税を図りながら生前贈与による財産移転を促進することを目的とした制度なのです。
2.相続時精算課税制度の改正ポイント
改正ポイントは、年間110万円までの贈与に対する新たな基礎控除の創設と、それを超える部分への累進課税が導入されたことです。これにより、一定額までの贈与は非課税となり、親から子への資産移転がより円滑になる一方、高額な贈与には重い課税がかかります。
①年間110万円までの贈与に対する基礎控除の新設
年間110万円までの贈与について、新たに「基礎控除」が設けられました。 この基礎控除の範囲内の贈与であれば、贈与税・相続税の申告は不要で、非課税となります。
②基礎控除を超える部分への課税ルール
基礎控除(110万円)を超える贈与については、従来通り特別控除(2,500万円)の対象となります。 特別控除を超えた部分に対しては、20%の贈与税が課されます。
3.暦年贈与との違いについて
暦年贈与と相続時精算課税では、以下の3点で違いがあります。
①贈与財産の相続財産加算期間
暦年贈与の場合、相続開始前7年以内の贈与財産は相続財産に加算されます。一方、相続時精算課税の場合は、贈与者の死亡時に全額相続財産に加算されます。
②贈与税の計算方法
暦年贈与は累進課税で最高55%となりますが、相続時精算課税は一律20%です。
③申告手続き
暦年贈与は110万円を超えると毎年申告が必要ですが、相続時精算課税は初年度のみ選択届出書の提出が必要です。
4.制度選択のポイント
制度選択のポイントは、資産の多寡や贈与財産の種類、相続人の状況などを総合的に勘案する必要があります。相続時精算課税制度は累積課税が軽減されるメリットがある一方で、一度選択すると変更できません。
生前贈与の制度は複雑で、さまざまな選択肢があります。 暦年贈与と相続時精算課税のどちらを選ぶべきか、一概に言えません。ご自身の資産状況や今後の生活設計などを総合的に勘案し、 最適な生前贈与の方法を選択する必要があります。税理士などの専門家に相談し、アドバイスを受けることが賢明です。
参考資料:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし(国税庁)
皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
今回は振込手数料のお話です。
企業間の決済方法
アメリカン・エキスプレスの『企業間決済白書2022』には、日本企業の企業間決済の実態が報告されています。
「顧客企業に請求し支払いを受ける際の決済方法」のトップが銀行振込です。実に89.4%に上ります。複数回答のため合計は100%を越えますが、第2位の手形・小切手が30.3%、第3位の現金が23.6%なので、銀行振込が断トツであることが分かります。
「取引先へ支払いをする際の決済方法」も同様で、銀行振込は94.1%に上ります。
振込手数料はどちらが負担?
さて、銀行振込の際の手数料。代金を支払う側が負担するものなのか、それとも代金を受け取る側が負担するものなのか。
前者の場合は、支払う側の負担は「代金+手数料」であり、受け取る側は代金がそっくりもらえます。後者の場合は、支払う側の負担は代金分だけであり、受け取る側は手数料分が少ない金額をもらうことになります。
どちらが本来の支払い方でしょうか。実は、当事者間で合意がある場合とない場合とで扱いが違います。
取り決めがある場合
私人間の決め事については、「契約自由の原則」によって、公序良俗に反する内容でない限り自由に決めることができます。
ただし、当事者どうしが対等平等な関係のなかで契約が結ばれることが前提です。
民法第521条
何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。
企業間で「振込手数料は代金を支払う側の負担とする」、または「振込手数料は代金を受け取る側の負担とする」などと決めていれば、その合意によってどちらが振込手数料を負担するかが決まります。つまり、契約次第ということです。
取り決めがない場合
一方、当事者間で振込手数料をどちらが負担するかの取り決めがない場合はどうでしょうか。この場合、法律では「代金を支払う側が負担する」と決めています。
民法第484条
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。(後略)
民法第485条
弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。(後略)
これらの条文では、別段の意思表示がない場合、債務者(代金を支払う側)が債権者(代金を受け取る側)の住所(口座)に金銭等を持参する(振り込む)、そのための費用(振込手数料)については債務者が負担すると決めています。
「振込手数料を差し引く」という商慣行
とはいえ、「代金を受け取る側が負担する」という商慣行が続いてきたのも事実です。
下請け業者からは「取り決めはしていないけど、元請け業者が勝手に引いてくる」という声も聴かれます。これは本来のあり方からすれば、おかしなことです。
パッとしない景気のなか、今後は、振込手数料をどちらが負担するかについて、あらためて取引先と相談をおこなう事業者が増えるのではないでしょうか。
振込手数料と下請法
なお、振込手数料を差し引いて支払う場合、下請法(下請代金支払遅延等防止法)との関係で注意が必要です。下請法は、第4条1項3号において「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに,下請代金の額を減ずること」を禁止しています。
この「減ずること」には、「下請代金を下請事業者の金融機関口座へ振り込む際の手数料を下請事業者に負担させることを書面で合意している場合に、下請代金の額から金融機関に支払う実費を超えた額を差し引くこと」が含まれます。
書面で合意がない場合に、振込手数料を下請代金の額から差し引くことは、もちろん「下請代金の減額」に該当します。
振込手数料を下請事業者が負担する旨の書面での合意がある場合であっても、親事業者が負担した「実費」の範囲を超えた額を当該手数料として差し引いて下請代金を支払うことは、下請代金の減額にあたり、禁止されています。
実費よりも多く差し引くのはアウト
ここでいう「実費」とは、振込手数料として実際に銀行等に支払っている額のことです。
たとえば、親事業者がインターネットバンキング等を利用することによって、実際に負担する振込手数料が窓口振込のときより少なくなっているにもかかわらず、従来の窓口振込手数料相当額を差し引くことは、下請法が禁止する「下請代金の減額」にあたります。
上記のような「下請代金の減額」を行ったとして、公正取引委員会が令和2年6月に下請法違反で東京都の事業者に勧告を行い、その社名を公表したケースがあります。振込手数料を差し引く場合は、下請法にご注意を。
皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
今年初めになかなか衝撃的なニュースがありました。
「令和7年1月から申告書等の控えに収受日付印を押さない」という国税庁の発表です。
これまで税務署は書面で提出された申告書等(申告書、申請書、届出書などのすべての文書)について、受け取った証しとして控えの文書に収受日付印を押していました。
令和7年1月からはその印は押されません。
◆収受日付印の役割
納税者にとって、申告書等の収受日付印には大きな役割がありました。
まずは、申告書等を税務署に提出したことの証しです。申請書や届出書などは「あれ、出してあったかな?」となることがたまにあります。そんなとき、収受日付印のある文書が保存してあれば、出したことは容易に確認できます。
これは税務署に対しても有効です。ベテラン税理士が言うには、「文書を出した」「いや、もらっていない」という納税者⇔税務署間のトラブルがたまに起こるそうです。そこでも収受日付印のある文書があれば、出したことは一目瞭然です。
次に、収受日付印のある申告書等の提出を求められる機会があることです。自営業者の場合、現状では、金融機関で融資を受けるとき、行政機関に助成金や補助金の申請をするとき、保育園の入園手続きをするときなどに、収受日付印の押してある確定申告書の提出が求められます。収受日付印が「ある」と「ない」では、文書としての役割に大きな違いがあるのです。
令和5年から水面下で
ところで、いつの間にこんな話が進んでいたのでしょうか。これは伝聞情報ですが、令和5年春ごろ、国税局(税務署)から各税理士会に「令和6年1月から書面で出された申告書等に収受日付印を押さない」という方針が示されたそうです。
納税者の申告実務を担っている税理士会は「賛成できない」という立場を取ったため、当局との間で相当もめたようです。しかし、結果として「実施を一年遅らせ、その間に納税者に周知を行う」ということで、押し切られてしまったとのことでした。
どうやら、この話は国税庁のさらに上、政府(デジタル庁)に端を発しているようです。
書面提出は200万人超(令和4年)
e-Taxが普及したとはいえ、まだそれなりに書面での申告がされています。
国税庁によれば、「令和4年度のe-Tax利用率は、所得税申告で65.7%」であり、同年の「申告納税者数は653万人」ということなので、約224万人(653万人×34.3%)が所得税申告を書面で行っています。
令和6年分の確定申告(押印廃止後)では、書面提出はさらに減ると思われますが、それでも100万人を下回らないのではないでしょうか。
「国税庁Q&A」の説明では
国税庁「申告書等の控えへの収受日付印の押なつの見直しに関するQ&A」(令和6年2月1日)には、「納税者等が申告書等を提出した事実を確認したい場合はどのようにすればよいか」「金融機関や行政機関等から収受日付印の押なつされた控えを求められる場合がある」などの問いについての回答が書かれています。
前者への回答にはいくつかの方法が書かれていますが、どれも納税者には手間や費用がかかるものです。
後者への回答には、「収受日付印の押なつされた申告書等の控えを求めないよう、事前説明やお願いをした」と書かれています。金融機関や行政機関側がどうするかはこれからの話ですが、前者の回答にあるような方法が代替措置になる可能性があります。
誰にとっての利便性?
この「Q&A」で一番突っ込みたくなるのは、「今般の見直しの趣旨を教えてほしい」という問いへの回答中の「納税者の利便性の向上等の観点から…」という文言です。前節で述べたように、書面で申告書等を提出する納税者は不便になるとしか考えられないからです。高齢などを理由に書面で提出せざるを得ない人への配慮が欠けているように感じます。
ちなみに、税務署が受け取った申告書等の正本には、これまでどおりに収受日付印が押されます。それは、いつ受け取ったかの証しが必要だからです。同じ理由が出した側にもあるのですが、そちらには押さないというのは、なかなか理解ができません。
「むりやりにでも電子申告を普及させるために、わざわざ書面提出の方を不便にしたのではないか」と思われても仕方ないのではないかと思います。
参考:国税庁「申告書等の控えへの収受日付印の押なつの見直しに関するQ&A」
皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
今回は、青色専従者のダブルワークについてお伝えしていきたいと思います。
AとBは夫婦です。個人事業を営んでいるA(個人事業主)の青色専従者として給与をもらいながら、Bが外に働きに行くことはできるのでしょうか。もしくは、もともと外でパートをしながらAの事業を手伝っていたBは、税務署に届け出をすれば専従者給与をもらうことができるのでしょうか。
夫婦合わせての収入を増やしつつ節税のことも考えれば、上記のように考えるのは十分あり得る話です。実態として二か所で仕事をしていれば、それぞれから仕事に見合った給与を受け取るのは、社会的には当たり前のことです。
◆青色事業専従者給与は特例措置
しかし、ここで問題になるのが所得税法に残されている家族単位課税の考え方です(参照:コラム『事業主が同一生計の親族に支払う対価について(所得税法第56条)』2023年11月14日)。
事業主が同一生計の親族に支払う対価については原則経費として認めず、青色事業専従者給与等については特例で必要経費として認めるというものです。
特例なのでいろいろと制限がついており、青色事業専従者のダブルワークはそれに引っかかってしまうのです。
◆ダブルワークは条件付きで可能
今回のテーマの結論を先に述べましょう。
青色事業専従者として給与をもらいながら、パートやアルバイトなどで他から給与をもらうことは条件付きで可能です。
青色専従者給与は「事業に専従する」親族に対する給与です。
「事業に専従する」の判定に直接関係するのは、所得税法施行令165条1項と2項です。少し長いですが、抜粋します。
(親族が事業に専ら従事するかどうかの判定)
第百六十五条 法第五十七条第一項又は第三項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が専らその居住者の営むこれらの規定に規定する事業に従事するかどうかの判定は、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて六月をこえるかどうかによる。ただし、同条第一項の場合にあつては、次の各号のいずれかに該当するときは、当該事業に従事することができると認められる期間を通じてその二分の一に相当する期間をこえる期間当該事業に専ら従事すれば足りるものとする
一 当該事業が年の中途における開業 、廃業、休業又はその居住者の死亡、当該事業が季節営業であることその他の理由によりその年中を通じて営まれなかつたこと。
二 当該事業に従事する者の死亡、長期にわたる病気、婚姻その他相当の理由によりその年中を通じてその居住者と生計を一にする親族として当該事業に従事することができなかつたこと。
2 前項の場合において、同項に規定する親族につき次の各号の一に該当する者である期間があるときは、当該期間は、同項に規定する事業に専ら従事する期間に含まれないものとする。
一 学校教育法第一条(学校の範囲)、第百二十四条(専修学校)又は第百三十四条第一項(各種学校)の学校の学生又は生徒である者(夜間において授業を受ける者で昼間を主とする当該事業に従事するもの、昼間において授業を受ける者で夜間を主とする当該事業に従事するもの、同法第百二十四条又は同項の学校の生徒で常時修学しないものその他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)
二 他に職業を有する者(その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)
三 老衰その他心身の障害により事業に従事する能力が著しく阻害されている者
上記の条文をごく簡単にまとめれば、以下の通りです。
①1年であれば6か月以上「専ら従事する」(または、従事可能期間の半分以上を「専ら従事する」)ならOK。
②学生や生徒だったり、他に仕事をしていたりすれば「専ら従事する」とはいえない。ただし、昼は学校に行って夜は事業に従事する、他の仕事の時間が短いなどの理由で「専ら従事することが妨げられないと認められる者」は、例外的にOK。
◆簡単には考えるのはNG
A、Bの夫婦の場合、実際にBがAの事業に専ら従事しており、他の仕事がその妨げになっていないなら、青色事業専従者のダブルワークは可能であるといえます。
しかし、簡単に考えてはいけません。
他に仕事を持つ妻に支払った青色専従者給与の可否について争われた裁判では、上記まとめ②の「専ら従事することが妨げられないと認められる者」という例外に当たるかどうかが問題になりました。
そして、この例外に該当するかどうかは他の職業に従事する期間が短く、その事業に専ら従事することが妨げられないことが一見して明らかであるかどうか、実質的にその事業に専ら従事することが妨げられないと認められるかどうかによって判断するのが相当という考えが示されました。
この裁判では、妻の本業の就業時間を裏付ける資料はなく、供述だけでした。
また、本業の給与よりも他の業務の報酬の方が高額でした。
裁判所は、本業とそれ以外の仕事について、業務の性質、内容、従事の態様その他の事情を検討し、「専ら従事することが妨げられないと認められる者には該当しない」としたため、妻への青色専従者給与は認められませんでした。
◆「本業を妨げてはいない」という客観的証拠
以上のようなことを考慮すれば、青色事業専従者がダブルワークをする場合、他の仕事が「本業に専ら従事することを妨げてはいない」という客観的証拠を残しておくべきでしょう。
具体的にはタイムカードや業務日報などで業務時間や業務内容を明確にしておくことです。
さらには、本業と他の仕事の業務時間や報酬のバランスなども不自然にならないように気を付ける必要があります。
こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
今回は、パワハラ防止措置についてお伝えしたいと思います。
◆ハラスメント防止と法律
「ハラスメントは良くないよね」という意識は、今の日本社会におおむね根付いているように思います。
振り返ってみれば、従業員を雇用する企業にハラスメント防止措置を義務づける法律は以下のように拡充されてきました。
・1999年4月 男女雇用均等法で女性労働者に対するセクハラ防止のための配慮義務
・2007年4月 「男女労働者に対するセクハラ防止の措置義務」に改正される
・2017年1月 「マタニティハラスメント(マタハラ)防止の措置義務」が追加される
・2020年6月 労働施策総合推進法で大企業にパワハラ防止のための措置義務
・2022年4月 中小企業にパワハラ防止のための措置義務
◆ドラマ「不適切にもほどがある!」にも
つい最近話題になったTVドラマ「不適切にもほどがある!」には、ハラスメント問題も登場していました。
このドラマの起点である1980年代には、そもそも「パワハラ」という概念はありませんでした。
そんな時代から現代にタイムスリップした主人公たちの引き起こすドタバタ社会派コメディーに多くの人が引き付けられました。「ハラスメント=良くないこと」という大まかな合意がベースにありつつも、ハラスメントをめぐる問題を具体的にどうとらえるべきか、人々の意識レベルではまだすっきりとはしていないことを、このドラマは描き出したように思います。
さて、前述のように、個人・法人を問わず従業員を雇用するすべての企業に、具体的なパワハラ防止措置が義務付けられて、この4月で2年が経過しました。
あらためて、職場のハラスメント防止措置が掛け声だけでなく実効性のあるものになっているかどうか、点検する必要があります。
◆ハラスメントは人権侵害
2020年に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、「過去3年間でパワーハラスメントを受けたことがある」と回答した人は、実に全体の31.4%に上りました。これは、「ハラスメントが起きない企業はない」と考えるべき数字であるような気がします。
ハラスメントは人権侵害であり、本来許されることではありません。
被害者は、精神的、肉体的に理不尽な苦痛を被ることで、心身に不調をきたすことさえあります。
さらには、ハラスメントを見聞きした周囲の人々にも悪影響を与えます。労働意欲やモラルが低下するなど、職場環境を悪化させます。
パーソル総合研究所の「職場のハラスメントについての定量調査」(2022年)によれば、2021年には全国で86.5万人がハラスメントを理由として離職しています。
人手不足のおり、「ハラスメントが原因で離職」というのは、企業にとっても大きな損失です。
◆ハラスメント防止措置
事業主に義務付けられているハラスメント防止措置は、以下のとおりです。
① 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
② 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
④ 併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)
※妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、その原因や背景となる要因を解消するための措置も含まれる
事業主は、これらの措置を必ず講じなければなりません。リンク先を参照して、その詳細をご確認ください。
これらの措置は、決めて周知してそれで終わりというものではありません。
「ハラスメント防止宣言」を出しても、実際にハラスメントが見過ごされていれば、その宣言は効力を発揮していません。
相談窓口を作っても、その人選に問題があったり必要な教育が行われていなかったりすれば、窓口としてふさわしい役割を担うことはできません。
これらの防止措置に実効性を持たせるには、点検・啓発・教育などを継続しておこなう必要があります。
【リンク】
厚生労働省 パンフレット「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です︕」p.19-30
「5棟10室基準」は、不動産所得の確定申告でよく耳にする言葉です。賃貸物件が建物の場合、その不動産事業が「事業的規模であるかどうか」を形式的に判定する基準として使われています。
一戸建てなら5棟、またはアパート・マンションなら10室。この基準以上の貸付であるなら、その不動産賃貸業は「事業的規模」であるいうわけです。なお、一戸建てとアパートの両方ある場合、一戸建て1棟をアパート2室として、合計10室あれば事業的規模と考えます。事業に至らない場合は「事業以外の業務」といいます。
事業的規模になると、資産損失、貸倒損失、専従者給与の必要経費算入、青色申告控除などが認められるので、事業的規模か業務的規模かの判定は重要です。
所得税基本通達26-9
さて、この「5棟10室基準」の根拠は、所得税基本通達26-9です。
(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)
26-9 建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。
(1)貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2)独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること
「原則はその貸付けが社会通念上事業といえる程度の規模かどうか(実質基準)で判定すべきだが、事実として5棟または10室以上(形式基準)の貸付けであれば事業的規模として扱う」という内容であり、形式基準が先ではないことが分かります。
この文章の作りからは、「形式基準を満たしていれば、事業的規模である」といえますが、「形式基準を満たしていないから、事業的規模にはならない」とまではいえません。
実質基準である「社会通念上事業と称するに至る程度の規模」の内容が分かりにくいことに加え、形式基準にも「おおむね」が付いています。納税者と税務当局との見解が違うことになっても、そう不思議ではないように思います。
国税不服審判所の裁決事例
実際、納税者と税務当局との間で事業的規模かどうかの争いになり、国税不服審判所で裁決が出た事例をみてみましょう。実質的にどのように判断されたかを確認することができます。
このケースの賃貸物件は、形式基準未満(3階建て1棟)であり、年間賃貸料収入は約950万円でした。
平19.12.4裁決(裁決事例集No.74 37頁)
〇事業とは、自己の計算と危険において営利を目的として対価を得て継続的に行う経済活動のことである。
〇不動産貸付けが不動産所得を生ずべき事業に該当するか否かは、①営利性・有償性の有無、②継続性・反復性の有無、③自己の危険と計算における事業遂行性の有無、④取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、⑤人的・物的設備の有無、⑥取引の目的、⑦事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断するのが相当と解される。
審判所では上記の諸点について検討を行い、①②⑤については事業性を認めたものの、③④については希薄であるとし、①~⑦を総合的に勘案した結果、「社会通念上事業と称するに至る程度のものとは認められない」と判断しました。下記のリンク先を参照すると詳しくみることができます。
形式基準の今後
裁決文のなかには「事業であるか否かの基準は必ずしも明確ではなく、その事業概念は、最終的には社会通念に従ってこれを判断するほかはないというべきである」と書かれています。納税者が判断するのが難しいのも当然であり、ある程度は形式基準に頼らざるを得ないのが実態でしょう。
なお、税務大学校の研究活動では、所得税基本通達26-9について、昭和45年7月の制定時から見直しが行われていないこと、その基準の根拠も明確ではないこと、現時点においては課税上問題と考えられるケースがあることなどから、この通達を再考する必要性に言及する論考が紹介されています。
LINK
再調査の請求・審査請求・訴訟
税務調査で追徴と言われたけど、どうしても納得できない。そんなときは、その処分の取消しや変更を求める「不服申立て」を行うことができます。不服申立ては行政上の救済制度であり、税務署長に対して行う「再調査の請求」と、国税不服審判所長に対する「審査請求」があります。
また、司法上の救済制度として、裁判所に対して訴訟を提起し処分の是正を求めることもできます。ただし、税務行政では「不服申立前置主義」が取られているため、国税不服審判所長に対する審査請求の裁決を経たあとで、訴訟を起こすことになります。
1.再調査の請求
税務署長が行った更正などの課税処分や差押えなどの滞納処分に不服があるときは、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、税務署長に対して再調査の請求を行うことができます。
税務署長は、その処分が正しかったかどうか、改めて見直しを行い、その結果を「再調査決定書」により納税者に通知します。この再調査の請求に係る決定により、納税者に不利益となるような変更がされることはありません。
なお、納税者の選択により、直接国税不服審判所長に対して審査請求を行うこともできます。
◆令和4年度の再調査の請求
再調査の請求の発生件数は1,533件で、前年度より37.0%増加しました。また、処理件数は1,371件でした。そのうち、何らかの形で納税者の主張が受け入れられた件数(認容件数)は63件(4.6%)でした。なお、再調査の請求については標準審理期間を3か月と定めており、3か月以内に処理された件数の割合は99.5%でした。
2.審査請求
税務署長が行った更正などの課税処分や差押えなどの滞納処分に不服があるときは、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、国税不服審判所長に対して審査請求を行うことができます。また、再調査の請求を行った場合であっても、再調査の請求についての決定を経た後の処分になお不服があるときは、再調査決定の通知を受けた日の翌日から1か月以内に審査請求を行うことができます。
国税不服審判所長は、税務署長の処分が正しかったかどうかを調査・審理し、その結果を「裁決書」により納税者と税務署長に通知します。裁決は、税務署長が行った処分よりも納税者に不利益となるような変更がされることはありません。
◆令和4年度の審査請求
審査請求の件数は3,034件で、前年度より22.2%増加しました。また、処理件数は3,159件でした。処理件数のうち、納税者の主張が何らかの形で受け入れられた件数(認容件数)は225件(7.1%)でした。なお、審査請求については標準審理期間を1年と定めており、1年以内の処理件数割合は95.4%でした。
3.訴訟
国税不服審判所長の裁決を受けた後、なお処分に不服があるときは、裁決の通知を受けた日の翌日から6か月以内に裁判所に訴訟を起こすことができます。
◆令和4年度の訴訟
訴訟の発生件数は173件で、前年度より8.5%減少しました。訴訟の終結件数は186件でした。このうち、何らかの形で納税者側が勝訴した件数は10件(5.4%)でした。
参考資料:
今回は、政治資金と税金についてお伝えします。
政界を大きく揺るがしている自民党の政治資金パーティーをめぐる事件。国会議員が派閥パーティー券の販売ノルマを超えて集めた分を、派閥が議員にキックバックし、派閥側も議員側も政治資金収支報告書に記載していなかった問題です。東京地検特捜部の捜査では、自民党の安倍派、二階派、岸田派が、おととしまでの5年間で合わせて9億7000万円余りのパーティー収入を政治資金収支報告書に記載していなかったことが明らかになっています。
会社でも個人でも何らかの利益を得たら、普通は税金がかかります。「記載しなかったお金」を手に入れた団体や個人に、税金はかからないのでしょうか。
この事件に登場するのは、政治団体と議員個人です。それぞれごとに政治資金と税金との関係をみる必要があります。
1.政治団体と税金
政治団体のうち、法人格を取得した政党と政党の指定する政治資金団体だけが「法人」です。これら以外の政治団体は法人格を持っていないため、「人格なき社団」に該当します。政策研究団体(いわゆる派閥)、資金管理団体(議員が代表となり、その政治資金を取り扱う団体)、国会議員関係政治団体などが「人格なき社団」として扱われます。
◆寄付収入に対する課税
法人税法では、人格なき社団について、収益事業から生じた所得以外の所得については法人税を課さないこととされています。したがって、政治団体が受けた寄附収入について法人税は課税されません。法人格を有する政党等も同様です。
相続税法では、公益を目的とする事業を行う者が受けた贈与財産について、公益を目的とした事業に供することが確実なものについては、贈与税を非課税とする措置がとられています。政治団体が受けた政治活動に関する寄付は、一般的にはこれに該当するという扱いで非課税になっています。
法人格を有する政党等についても、法人は贈与税の納税義務者となっていないため、贈与税は課税されません。
◆事業収入に対する課税
法人格の有無にかかわらず、収益事業による所得があれば法人税が課税されます。例えば、政治団体が、広く社会に向けて対価を得て機関紙等を発行するなどの出版事業を行なっている場合は、法人税も消費税もかかります。
2.政治家個人と税金
政治家個人が政治資金を受けとった場合の税金はどうでしょうか。実は、毎年1月に国税庁が出す「確定申告の手引き―政治資金に係る『雑所得』の計算等の概要-」という文書(以下、「概要」)に、その説明が載っています。令和6年1月の「概要」には、政治資金に係る雑所得の計算について、以下のように書かれています。
政党から受けた政治活動費や、個人、後援団体などの政治団体から受けた政治活動のための物品等による寄附などは「雑所得」の収入金額になりますので、所得金額の計算をする必要があります。 令和5年分の「政治資金に係る『雑所得』」の金額は、年間の「政治資金収入」から「政治活動のために支出した費用」を控除した差額であり、課税対象となります。
式で書けば次の通りです。
【政治資金に係る雑所得(課税対象)= 政治資金収入 - 政治活動のために支出した費用】
つまり、政治資金についても事業所得の計算方法と同じように、収入から支出を差し引いて残った分があれば、それは雑所得であり課税対象になります。
3.政治資金収支報告書の訂正
今年1月から2月にかけて、政治資金収支内訳書の訂正が相次いで行われました。2月8日のNHK WEB「自民 収支報告書訂正の72人 派閥からの寄付約70%が『繰越額』」によれば、2月8日正午までに72人の国会議員がホームページ上で訂正後の収支報告書(おととしまでの3年間分)を公表しています。NHKはその内容を以下のように報道しています。
・派閥側の訂正で新たに判明した議員側への寄付の総額3億7749万円
・議員側の訂正で追加された支出の総額は28%にあたる1億592万円
政治資金収支報告書は、政治団体が作るものです。それを訂正するということは、「記載しなかったお金は政治団体が受け取った」ということを意味しますが、それを鵜呑みにしてもいいのでしょうか。「政治資金収支報告書に記載しなくてもよい」と言われていたお金を、わざわざ政治団体(=収支報告書への記載が必要)に入れるでしょうか。そちらの方が不自然な感じがするのですが…。
もし、政治家個人に渡っていたとしたら、前述のとおり、それは政治家個人の雑所得のもとになる収入です。同額以上の支出がなければ、おそらく納税が必要になるはずです。それをはっきりさせるには、派閥・資金管理団体・政治家個人の口座の動きを追うなどして、お金の流れを解明する必要があります。もちろん、国会議員自身が自主的に「雑所得の申告を漏らしていました」ということで、修正申告し納税すればたいしたものです。
◆1966年 政界の「黒い霧事件」
同事件は、国会議員に対する税務調査まで発展しました。申告漏れなどにより修正申告、更正決定した国会議員は「現職議員が181名、前議員が22名、合計203名で、金額はトータル2億1800万円。当時の衆参両院の定数の3割近くに申告漏れがある計算だった」(東京新聞WEB 2024年2月20日)とのことです。
はたして、今回の事件ではどこまで追求が行われるでしょうか。
参考資料:
こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
今回は、電子帳簿保存法の猶予措置についてお伝えします。
◆対応完了は3割にとどまる
昨年12月の帝国データバンクのアンケート結果によれば、電子帳簿保存法への対応が完了した企業は3割弱(!)とのこと。
それも企業規模が小さいほど対応に遅れがみられるなど、まだまだ対応ができていない事業者が多いのです。
◆データの保存方法が面倒
電子帳簿保存法への対応を困難にしている理由の一つに、「電子取引データの保存方法」があります。
同法によれば、保存したデータについて、①改ざん防止の措置をとる、②「日付・金額・取引先」で検索できるようにする必要があります。
①改ざん防止の措置をとる
データにタイムスタンプを付与する、訂正・削除の履歴が残るシステム等を利用して授受・保存をするなどの方法があります。また、専用のシステム等の費⽤をかけずに「改ざん防止のための事務処理規程を定めて守る」という方法もあります。
②「日付・金額・取引先」で検索できる
こちらも専⽤のシステム等の導入で対応する方法があります。それ以外にも、表計算ソフト等で索引簿を作成する方法や、データのファイル名に「日付・金額・取引先」を付けることで、検索機能が利用できるようにする方法があります。
電子帳簿保存法に対応したシステム等を導入すれば、一定の費用がかかりますが、手間はかかりません。
費用をかけずに対応しようとすれば、手間をかけるしかありません。
「どっちにしても困る!」と思っている間に1月1日が来てしまった、というのが対応できていない事業者の本音でしょう。
◆改正により、厳しい要件が大幅に緩和
さて、令和5年度税制改正では、令和6年1月からの電子取引データ保存についても改正が行われています。
ここまで述べたような状況を予測したうえでの改正であり、①検索機能のすべてを不要とする措置の対象者の見直し、②新たな猶予措置の整備がされています。
①検索機能のすべてを不要とする措置の対象者の見直し
イ.検索機能が不要とされる対象者の範囲が、基準期間(2課税年度前)の売上高が「1,000万円以下」の保存義務者から「5,000万円以下」の保存義務者に拡大されました。
ロ.対象者に「電子取引データをプリントアウトした書面を、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理された状態で提示・提出することができるようにしている保存義務者」が追加されました。
つまり、基準期間の売上高が5000万円以下なら、データの検索機能がなくてもかまいません。また、電子取引データをプリントアウトした書面を、整然とした状態で提示・提出することができる場合も同様です。
②新たな猶予措置の整備(改ざん防止も検索機能も不要)
次のイ・ロの要件をいずれも満たしている場合には、データの改ざん防⽌や検索機能などは不要となり、電子取引データを単に保存しておくだけでよいとされました。
イ.保存時に満たすべき要件に従って電子取引データを保存することができなかったことについて、所轄税務署⻑が相当の理由があると認める場合(事前申請等は不要)
ロ.税務調査等の際に、電子取引データの「ダウンロードの求め」及びその電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合
◆「相当の理由」とは
ところで、②のイにある「相当の理由」とはなんでしょうか。
国税庁は「電子帳簿保存法一問一答(令和5年6月)」問61の回答として、次のように書いています。
したがって、経済的な余裕がなく電帳法対応ソフトを導入できていないとか、人手不足で電帳法対応にあたる従業員が確保できないなども「相当の理由」にあたると考えられています。
電子帳簿保存法への対応ができていない事業者のみなさん。とりあえず、電子取引データの保存だけはしておきましょう。改ざん防止や検索機能については、それができるよう目指しつつ…。
参考資料:
国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました(令和5年4月)」
電子帳簿保存法関連のテレビCMをよく視ます。
とりわけインパクトの強いR社のCMでは、こんなセリフが展開されます。
「おっと〇〇!?取引先から電子発行された請求書を印刷!? ファイルに保存したぞ!?イエローカード!電子発行された請求書を紙で保存することは電子帳簿保存法に違反しています!」
さて、この表現を言葉通りに受け取っていいのでしょうか。視聴者がミスリードするのではないかと、筆者はずっと引っ掛かりを感じています。
1.「紙で保存してはならない」という条文はない
結論から言えば、同法にそのような趣旨の条文はありません。電子データの保存について定めているのは第7条です。
電子取引(※)の取引情報に係る電磁的記録の保存
第七条 所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。
※「電子取引」とは、取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項)の授受を電磁的方式により行う取引をいい、EDI取引、インターネット等による取引、電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含む)、インターネット上にサイトを設け、そのサイトを通じて取引情報を授受する取引等です。
2.重要なのは電子取引データの保存
第7条では「電子取引を行った場合は、そのデータ(電磁的記録)を保存しなければならない」と決めています。
この場合、何が違反になるのでしょうか。それは「電子取引データを保存しない」ことです。「紙に印刷して保存する」ことは違反ではありません。
電子帳簿保存法では「電子取引のデータを保存すること」が重要なのであり、紙での保存が良いとかダメとか言っているわけではありません。
にもかかわらず、「紙で保存することは違反です」と表現するのはおかしな話であり、筆者がミスリードを心配する理由もそこにあります。
国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」では、令和6年からの電子取引のデータ保存について以下のような記述をしています。
「データを保存せよ」が主眼であり、紙の保存がダメというものではないことがわかります。
個人事業者・法人の皆さまへ
請求書・領収書・契約書・見積書などの関する電子データを送付受領した場合には、その電子データを一定の要件を満たした形で保存することが必要です。
令和5年12月31までに行う電子取引については、保存すべき電子データをプリントアウトして保存し、税務調査の際に」提示・提出できるようにしていれば差し支えありません(事前申請等は不要)が、令和6年からは保存要件に従って電子データの保存が行えるよう、必要な準備をお願いします。
1月16日(火)に国分寺にある某介護施設で施設の利用の親族様向けに相続税の申告についての研修会を開催しました。
相続税の具体的な解説や申告、納付期限等をイラストを入れつつわかりやすく説明いたしました。当事務所の相続相談会を担当している坂田税理士にも同席してもらい、専門性が高い研修になりました。
参加者の皆様からは「相続についてほとんど知らない者にとっては、分かりやすかったです。」「かみ砕いてのお話がわかりやすかったです」とご好評いただきました。
セミナーの内容
1.相続税の申告期限はいつまでか
2.相続税がかかるかどうかを調べる
3.守らないといけない期限
4. 相続人の確定・相続財産の確定をする
5.相続税の計算
6.質疑応答
主催:北野税理士事務所 税理士 北野純一
開催日:2024年1月16日(水)
講師:北野純一税理士事務所
代表 税理士 北野 純一
この度の令和6年1月1日に発生しました「令和6年能登半島地震」により被害に遭われた皆様には心よりお見舞いを申し上げます。
皆様の安全と被災地の一日も早い復興そして被災された皆様の生活が1日も早く平穏に復することをお祈り申し上げます。
今回は、災害に遭ってしまった時に所得税を軽減できる方法をお伝えしたいと思います。
地震、火災、風水害などの災害によって、住宅や家財などに損害を受けたときは、確定申告で
(1)「所得税法」による雑損控除の方法、(2)「災害減免法」による所得税の軽減免除による方法のどちらか有利な方法を選ぶことにより、所得税の全部又は一部を軽減することができます。
1.雑損控除
災害によって、住宅や家財を含む生活に通常必要な資産(※1)について損害を受けた場合には、雑損控除を受けて課税所得を減額することができます。
その年の所得金額から控除しきれない金額がある場合には、翌年以後3年間(※2)に繰り越して、各年分の所得金額から控除することができます。
雑損控除の金額は、以下の①と②のうちいずれか多い方の金額です。
(※1)
棚卸資産や事業用の固定資産、山林、生活に通常必要でない資産は、雑損控除の対象にはなりません。なお、生活に通常必要でない資産とは、別荘や競走馬、1個又は1組の価額が30万円を超える貴金属、書画、骨とうなどです。対象となる資産は、納税者自身、または納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族(その年の総所得金額等が48万円以下の人)が所有する資産です。
(※2)
特定非常災害として指定された災害により、住宅や家財などについて生じた損失について、その年分の所得金額から控除しきれない金額がある場合には、翌年以後5年間になります。
(※3)
「損害金額」とは、損害を受けた時の直前におけるその資産の時価を基にして計算した損害の額です。その資産が減価償却資産である場合には、取得価額から非業務用資産として計算した減価償却費累積額相当額を控除した金額を基礎として損害金額を計算することもできます。
(※4)
「災害関連支出の金額」とは、災害により滅失した住宅、家財などを取壊しまたは除去するために支出した金額です。
(※5)
「保険金等の額」とは、災害などに関して受け取った保険金や損害賠償金などの金額です。保険金等の額は、まず、損害金額から差し引き、保険金等の額が損害金額を超える場合には、災害関連支出の金額から差し引きます。
2.災害減免法
災害によって受けた住宅や家財の損害金額(保険金などにより補てんされる金額を除く)がその時価の2分の1以上で、かつ、災害にあった年の所得金額の合計額が1,000万円以下のときにおいて、その災害による損失額について雑損控除の適用を受けない場合は、災害減免法によりその年の所得税が次のように軽減または免除されます。
なお、減免を受けた年の翌年分以降は、減免は受けられません。
北野税理士事務所の北野です。
いよいよ年の瀬が迫りました。この時期、駆け込みでふるさと納税をした人も多いはず。総務省によれば、2022年度のふるさと納税寄附額は約9,654億円、納税寄附件数は約5,184万件、利用者数も約891万人と過去最高を更新しています。今回は、ふるさと納税に焦点をあてます。
自治体に寄付をして減税を受ける
ふるさと納税は2008年から始まった制度です。
居住地ではない自治体に一定額を寄付すると、その年の所得税と翌年の住民税の減税が受けられ、さらにその自治体から返礼品をもらうことができます。
つまり、「減税が受けられる寄付金」です。以前は確定申告が必要でしたが、2015年から「ワンストップ特例制度」が始まり、サラリーマンは寄付先の自治体に所定の申請書を出せば手続きが完了し、使い勝手がよくなりました。ワンストップを利用した場合、所得税の減税分も加えた金額が、住民税から減税されます。
2,000円の負担で、それ以上の返礼品
人気が出た一番の理由は、寄付金が一定額までならば、「実負担額2,000円(=寄付金マイナス減税額)で、それ以上の価値の返礼品がもらえる」ことでしょう。
ただし、そもそもは「今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた『ふるさと』に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」という問題提起から始まった制度です。総務省は、ふるさと納税には「三つの大きな意義」があるとして、以下のように説明しています。
①納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度である。
②生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度である。
③自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進む。
いかがでしょうか。納税者の意図と政府が掲げる意義の間には、なかなかの隔たりがあることがわかります。
ふるさと納税の困った点
さて、人気のふるさと納税ですが、良いことづくめというわけではありません。
過度な返礼品競争が問題になり、総務省が手綱を引き締めたのはご存じの通りです。
特産品のある自治体にはたくさんのふるさと納税が集まる一方、そうでない自治体には集まらないばかりか税収が減ってしまうという問題点があります。
ここで、ワンストップ納税を利用したサラリーマンAさんに登場してもらいます。
Aさんの住んでいる自治体はX、ふるさと納税をした自治体はYです。Xにはこれといった特産品がありません。
Aさんは、ちょうど2,000円の負担で済むよう計算し、Yに50,000円のふるさと納税をしました。
総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度)」、読売新聞「ふるさと納税…結局誰が得をして、誰が損をしているのか」(2022.2.18)を参考に、50,000円がどう配分されるかを考えてみます。
Aさん…Xから48,000円の住民税減税を受け、実負担は2,000円。
自治体X…48,000円の税収減。
自治体Y…50,000円の寄付を受ける。返礼品の販売業者に13,900円(27.8%)、それ以外に諸費用(送付・広報・決済・事務)として9,500円(19.0%)を支出。実収益は26,600円(53.2%)。
(注)カッコ内のパーセンテージは、総務省の資料「ふるさと納税の募集に要した費用(全団体合計額)」による。ふるさと納税サイトへの支払いは諸費用に含まれる。
矛盾を抱える制度
自治体Xが大都市で、もともと財政が豊かならばまだしも、規模の小さな自治体で特産品がない場合は、X自身が受ける寄付金はそれほど多くありません。
ふるさと納税を利用する住民が増えるほど税収減となり、結果として住民サービスの低下につながりかねません。
単純計算で人口比7.4%の利用率なので、それなりの税収減となることもあり得ます。
総務省の意義③に「自治体間の競争」とありますが、土台となる条件が自治体ごとに違っており、そもそも競争として成り立たないのではないでしょうか。
良かれと思ってすることが、実は自分の首を絞めることにつながるのでは困ります。
一方で自治体Yにとっては寄付された金額の半分近くに減るとはいえ、財政難を支える確かな収入源となっており、非常に助かっているという声が出されています。
ふるさと納税は、引き続き矛盾を抱えた制度であり、そもそもの趣旨や自治体財政への影響の検証も含め、さらなる制度変更が必要ではないでしょうか。
北野税理士事務所の北野です。
相続税法及び租税特別措置法の令和5年度改正により、来年1月1日から、暦年課税や相続時精算課税の制度が変わります。
重要ポイントについて、最終確認をしておきましょう。
1.暦年課税…生前贈与加算の対象期間が7年に
「暦年課税」とは、1月1日から12月31日までの一年間に贈与された財産の合計額に応じて10~55%の税率で贈与税が課税される計算方法のことです。
年110万円の基礎控除があるため、それ以下の贈与額であれば贈与税はかからず、税務署への申告も不要です。
「生前贈与加算」とは、被相続人(亡くなった人)から生前に贈与を受けた財産がある場合、その財産を死亡時の財産に加算し、相続税の課税対象にする制度です。
基礎控除額以下で贈与税がかからなかった財産も加算の対象です。
改正前は死亡前3年間の贈与財産が対象でしたが、改正によりその期間が7年間に延長されました。
とはいえ、いきなり7年になるわけではありません。2024年1月1日以後の贈与について、下記のように加算対象期間が長くなっていき、最終的に7年になります。
なお、死亡前3年間の贈与財産については全額を加算しますが、今回延長された4~7年分については、その間の贈与財産の合計額から100万円を差し引いた残額を加算します。
2.相続時精算課税
「相続時精算課税制度」とは、一定の要件に該当する贈与者と受贈者間で財産の贈与を行った場合に選択できる贈与税の計算方法のことです。
この制度を選択すると、贈与財産の累計が2500万円(特別控除)までは贈与税がかかりません。累計が2500万円を超えると、超えた部分に対して一律20%の贈与税がかかります。
その後相続が発生したときは、それまでの相続時精算課税の贈与財産と死亡時の相続財産を合算し、相続税の計算を行います。
すでに支払った贈与税がある場合には、その贈与税を差し引いて残りの相続税を納めます。なお、ある贈与者について一度相続時精算課税を選択すると、その贈与者からの贈与については暦年課税に戻すことはできません。
相続時精算課税は、贈与時の税負担を抑えることができますが、相続時には贈与財産も相続税の対象になるため、「課税の繰り延べ」であるといえます。
3.年110万円の基礎控除の創設
今回の改正により、相続時精算課税を選択した受贈者は、特定贈与者(相続時精算課税の対象である贈与者)ごとに、一年間に贈与された財産の合計額から基礎控除110万円を差し引くことができるようになりました。
相続時精算課税の対象になるのは110万円を差し引いた残りの金額です。以下のような点が変わってきます。
●贈与税
①年110万円以下の贈与なら、贈与税の申告は不要
相続時精算課税を選択すると、改正前はたとえ1万円を贈与した場合でも申告が必要でした。
しかし改正後は、110万円以下の贈与なら基礎控除を差し引いて0円になるため、贈与税が課税されず、申告も不要になります。
②贈与税がかからないかたちで、2500万円以上の財産が贈与できる
例えば、特定贈与者からある年に500万円の贈与を受けた場合、改正前は500万円全額が相続時精算課税の対象になりました。
改正後は、基礎控除110万円を差し引いた390万円が相続時精算課税の対象になります。
その翌年200万円の贈与を受けたとしたら、基礎控除110万円を差し引いた90万円が相続時精算課税の対象になります。
20%課税の基準となる「2500万円」は、年110万円の基礎控除を差し引いた残額の累計で計算するため、実質的に2500万円以上の財産が無税で贈与できるようになります。
●相続税
相続財産に加算する相続時精算課税の贈与財産は、年110万円の基礎控除を差し引いた残額の累計になります。
贈与財産が110万円以下だった年については、加算する財産がないことになります。
このようにみてくると、相続時精算課税についてはメリットを増やし、納税者にとって使い勝手がよくなる方向での改正となっています。
令和5年度改正により、今後この制度を選択する人が増えていくことが予想されます。
北野税理士事務所の北野です。
今回は、オンラインゲームと消費税の関係についてお話します。
オンラインゲームが人気です。スマホでゲームを楽しむ人の姿は、すっかり日常生活に溶け込んでいます。
『ファミ通ゲーム白書2023』によると、2022年の国内のゲーム市場規模は2兆316億円でした。そのうちの約8割(1兆6568億円)を占めたのが、スマートフォン、タブレットやパソコンなどを利用した「オンラインプラットフォーム」でした。
オンラインゲームはゲーム市場の主流といえます。
1.海外ゲーム事業者への支払い
さて、人気のオンラインゲーム。
ゲームアプリそのものが有料の場合はもちろん、アプリは無料でもゲーム内で課金をすれば、当然お金の支払いが発生します。
ゲームアプリの開発業者が国内にいるか国外にいるかは関係なく、その支払いには消費税が課税されます。
「国外の事業者との取引は、そもそも消費税の課税対象外」というのは過去の話。
たしかに2015年9月までは、国外の事業者からインターネット等を通じて受けたサービスには消費税が課税されませんでした。
しかし、同年10月からは消費税がかかるようになりました。
2.「国外取引」から「国内取引」へ
同年の税制改正では、インターネット等を介して行われる電子書籍・音楽・広告の配信などの役務の提供を、消費税法上「電気通信利用役務の提供」と位置付けました。
そのうえで、その役務の提供が国内取引に該当するかどうかの内外判定基準を、役務の提供を行う者の事務所等の所在地ではなく、役務の提供を受ける者の住所等としました。
その適用が同年10月1日からだったため、海外発のオンラインゲームを利用者が購入したり、課金したりした場合、9月までは「国外取引として不課税」、10月からは「国内取引として課税」という扱いになったのです。
3.消費税30億円の申告漏れ
ところで、消費税の納税義務は事業者が負っています。消費税をもらった海外ゲーム事業者は、日本に消費税を納めているのでしょうか。
残念ながらそう上手くはいきません。
つい先日も、人気オンラインゲームを配信するルクセンブルクの会社が、東京国税局から3年間で消費税約30億円の申告漏れを指摘されていた、とのニュースが報道されました。
このゲームは無料で遊べますが、アイテムを購入するためには課金が必要で、その課金の一部である約300億円の売上を申告から漏らしていたとのことです。
4.大手プラットフォーム企業に代行納税を
このケースは幸いにも明らかになりましたが、国内に拠店がない海外ゲーム事業者も多く、その場合は国税当局も実態の把握や徴収が難しいというのが現実です。
つまり、利用者が消費税を支払っても、国に届かず事業者のふところに入ったままになっているのです。
日本政府はこの事態を重くみており、利用者と海外ゲーム事業者のやり取りを介在するグーグルやアップルなどの大手プラットフォーム企業に、消費税の代行納税をさせる制度を検討しています。
10月19日(木)と11月21日(火)に金融機関の職員様向けに相続税・贈与税の改正についての研修会を開催しました。
相続税及び贈与税の改正の具体的な解説や令和5年度税制改正の目玉の一つである110万円贈与の改正についても事例を紹介しつつわかりやすく説明いたしました。
参加者の皆様からは「資料も見やすく、今後のポイントがよく分かりました。」「これからのお客様応対に役立てていきたいです。」とご好評いただきました。
【セミナーの内容】
1. 相続にまつわる件数(家事調停等の件数など)
2. 法人相続税と法定相続分
3. 生前贈与と贈与税
4. 相続税の計算方法
5. 相続税及び贈与税の税制改正
6. R6年1月以降の暦年課税制度と相続時精算課税制度
7. 暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらがよいのか
8. 質疑応答
主催:北野税理士事務所 税理士 北野純一
開催日:2023年10月19日(木)、2023年11月21日(火)
講師:北野純一税理士事務所
代表 税理士 北野 純一
北野純一税理士事務所の北野です。
今回は事業主が同一生計の親族に支払う対価について説明したいと思います。
父親が廃業して、同居の息子であるAさんが事業(製造業)を引
き継ぐことになりました。父親名義の工場や機械があり、Aさん
はそれらを父親から借りて事業をスタートすることに。相場よ
りも若干低めの賃借料を父親に支払い、事業の必要経費にしよ
うと考えていたのですが…。
同居の父親に支払う賃借料は必要経費にできない
結論から言えば、Aさんが考えたような単純な話にはなりません。所得税法第56条によれば、同一生計の父親に支払う賃借料は必要経費にできないのです。条文そのものは読みづらい文章なので、同条をできるだけ簡単に書き換えると以下のようになります。
① 事業主が同一生計の親族に対して事業に関連する対価を支払っても、事業主の必要経費にはできない。
② その親族が事業主から対価をもらうのに必要な経費は、事業主の必要経費とする。
③ その親族が事業主からもらう対価は親族にとって収益でないとみなすし、その対価をもらうのに必要な経費も親族にとって費用でないとみなす。
つまり、Aさんの場合は以下のようになります
① Aさんが同居の父親に賃借料を支払っても、それをAさんの必要経費にすることはできない。
② 父親が支払う工場の固定資産税や工場や機械の減価償却費は、Aさんの必要経費になる。
③ 父親がAさんから対価をもらっても父親の収益でないとみなすし、父親が対価をもらうための経費を払っても父親の費用でないとみなす。
なんとなく違和感を覚える人もいるのではないでしょうか?
課税される「単位」は何か
明治20年に創設された所得税法は、課税の単位を「家族」においていました(同居の家族の所得はすべて「戸主」の所得に合算されていました)。それが、第二次世界大戦後のシャウプ勧告を受けて、課税の単位は基本的に「個人」におかれるようになりました(昭和25年改正)。
しかし、事業所得については、その特例として家族単位課税の考え方が残されました。所得税法第56条はその流れの延長線上にあるといえます。そのように決められた理由として、当時の個人事業は家族全体で営むのが普通であり、家族構成員に対価を支払うような慣行があるとはいえなかったこと、家族構成員への対価を必要経費として認めてしまうと、恣意的な所得分割が行われてしまうこと、家族構成員への適正な対価の認定や支払いの事実の確認が困難であることなどが挙げられています。
なお、特例である56条のさらに特例として、第57条では「青色事業専従者給与」「事業専従者控除」については、必要経費への算入を認めています。
第56条の「廃止」・「見直し」の意見書
実は、所得税法56条はその合理性について以前から疑問が投げかけられてきました。それは、制定から何十年も経過し、個人事業のあり方や家族関係が大きく変化してきたからです。また、白色申告者にも平成26年から記帳とその保管が義務づけられました。第56条が必要とされた理由そのものが、時代の変化とともに揺らいできているのです。
実際、第56条の「廃止」や「見直し」の決議・意見書を採択した自治体は、2022年9月の時点で500を越えています。いくつかの税理士会や日弁連も同様の意見書を採択しています。
それらのなかでは、「世界の主要国で、家族従業員への給与を必要経費として認めている」「白色申告者にも記帳義務が課されたのに、事業専従者控除が少額すぎて不合理である」「第56条は戦前の家制度の名残であり、日本国憲法と矛盾する」などの意見が述べられています。
このような声がさらに大きくなれば、この条文にもきっと変化が訪れることでしょう。第56条についての各地方自治体の意見書は、インターネットで検索すれば容易に確認できます。なお、国税庁の『税務大学校論叢30号』(1998年)には、研究活動としてではありますが、同条の廃止に触れた論文が掲載されています。
参照:「親族が事業から受ける対価の取扱いについての一考察」(国税庁)
北野純一税理士事務所の北野です。
今回は、税務署から届く「お尋ね」文書についてお伝えしたいと思います。
1.税務署から届く「お尋ね」とは
税務署から「~についてのお尋ね」という文書が届くことがあります。
普段目にすることがないため、なかには驚く人もいます。
この「お尋ね」にはさまざまな種類があり、例えば、以下のようなものです。
・所得税(及び復興特別所得税)の確定申告についてのお尋ね
・譲渡所得の申告についてのお尋ね
・事業内容等についてのお尋ね
・お買いになった資産の買入価額などについてのお尋ね
・消費税還付申告の内容についてのお尋ね
・インターネット取引内容等についてのお尋ね
・国外送金等についてのお尋ね
・相続についてのお尋ね
これらは、所得税、消費税、相続税、贈与税などにかかわる「お尋ね」です。
2.税務調査ではなく、行政指導
「お尋ね」は行政指導として行われるものであり、税務調査ではありません。
「お尋ね」の主な目的は、申告の内容が正しいかどうかの確認、無申告の場合には申告の督促、申告が必要かどうかの情報収集などにあります。
法的拘束力がないため、届いた「お尋ね」に回答する義務はありません。
しかし、回答せずにいると、次に電話での問い合わせや税務署への呼び出しへと発展していくことがあります。
そのような場合は、本来行われるべき申告についての情報を税務署側がすでに持っていることが考えられます。
行政指導は比較的軽微な案件について行われるものですから、「お尋ね」が届く理由に心当たりがある人は、無視せず正確なデータをもとに回答をした方が無難です。
3.不動産を売ったあとに届く「お尋ね」
例えば、不動産を売ったあとに届く「お尋ね」は、譲渡所得について正しく申告がされているかどうかを尋ねるものです。
数か月から一年後など、届くまでの期間はまちまちです。
そこには売却した不動産の情報や、その不動産をどうやって手に入れたか、その不動産をいくらで売ったかといったことについての質問が書かれています。
ところで、なぜ税務署は不動産を売ったことを知っているのでしょうか。
それは、所有権移転に関する情報を法務局から定期的に手に入れているからです。
その情報では「いつ、誰と誰との間で、どんな理由で所有権が移転したか」は把握できますが、売ったことで利益が出ているかどうかまではわかりません。そのため「お尋ね」を送って、利益の有無を確認するわけです。
「利益が出ていないように装っておけば…」などと考えてはいけません。
不動産を買った人にも別の書式の「お尋ね」が送られているからです。
また、一定の金額以上の不動産を法人が買ったり、個人の不動産業者が買ったりした場合は、買い手が「不動産の譲受けの対価の支払調書」を作成し、税務署に送ります。
それらによっても「誰からいくらで買ったか」を、税務署は把握します。
4.「インターネット取引内容等についてのお尋ね」
はじめに書いたように、さまざまな税目についての「お尋ね」が送られています。
なかでも最近増えているのは、「インターネット取引内容等についてのお尋ね」です。
昨今、ネット通販やネット広告、暗号資産取引などの経済活動が活発化しています。
ネット上での売買で利益を得ている人の無申告が目立つようになり、税務署もその対策にかなり力を入れています。
心当たりのある人は、この「お尋ね」にも正確なデータをもとに回答することをお勧めします。
10月17日(火)に金融機関の職員様向けに相続税・贈与税の改正についての研修会を開催しました。
相続税及び贈与税の改正の具体的な解説や令和5年度税制改正の目玉の一つである110万円贈与の改正についても事例を紹介しつつわかりやすく説明いたしました。
参加者の皆様からは「具体例もありわかりやすかったです。」「暦年課税制度は前から知っていましたが、注意点や相続時精算課税制度との比較が分かりやすかったです」と大変好評でした!
◆セミナーの内容◆
1. 相続にまつわる件数(家事調停等の件数など)
2. 法人相続税と法定相続分
3. 生前贈与と贈与税
4. 相続税の計算方法
5. 相続税及び贈与税の税制改正
6. R6年1月以降の暦年課税制度と相続時精算課税制度
7. 暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらがよいのか
8. 質疑応答
主催:北野税理士事務所 税理士 北野純一
日にち:2023年10月17日(火)
講師:北野純一税理士事務所
代表 税理士 北野 純一
皆様こんにちは。
北野税理士事務所の北野です。
インボイスの登録申請を行った免税事業者は、9月15日時点で111万者になったとの報道がありました。
新たに消費税の課税事業者になった事業者の多くは、簡易課税や小規模事業者の2割特例を使っての申告が予想されますが、それらを選ばない場合は本則課税での申告になります。
今回は、免税事業者が課税事業者になった場合で、かつ本則課税で申告をおこなう場合の消費税申告にかかわる話です。
1.10月1日から課税事業者になったAさん
例として、インボイス登録を機に、10月1日から消費税の課税亊業者となり、本則課税で申告をするAさんがいるとします。
Aさんはこれまで免税事業者だったため、使っている会計ソフトに消費税の設定をしていませんでした。
10月1日以後の取引について消費税計算ができるよう会計ソフトを設定すると、同日以後の課税取引は「課税売上」や「課税仕入」などと認識されます。
本則課税なので、基本的に事業年度終了時までの課税売上にかかる消費税額から、課税仕入にかかる消費税額を差し引いた残りの金額が納付税額になります。
2.免税期間に仕入れて、課税期間に売り上げた
商品Bは、Aさんが9月20日に仕入れて、10月15日に売り上げた商品です。
9月20日時点の仕入は免税事業者であるため、「課税仕入」になりません。
しかし、10月15日の時点の売上は課税事業者なので、「課税売上」となります。
このまま消費税計算をすると、商品Bについては課税売上だけ計上されることになります。もらった消費税をそっくり納付することになってしまい、消費税の趣旨にも合いません。
そこで、このような場合、「免税事業者が課税事業者となった場合の棚卸資産に係る消費税額の調整」を行います。
3.棚卸資産にかかる消費税額の調整
Aさんの場合、9月30日時点で所有していた棚卸資産のうち、免税事業者であった期間に仕入れたものの課税仕入の消費税額を、課税期間の課税仕入の消費税額とみなして仕入税額控除に含めます。
「調整」とはこのことを指します。なお、棚卸資産とは、商品、製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵中の消耗品等で、現に所有しているものを指します。棚卸資産の取得価額には、その棚卸資産の購入金額のほかに、引取運賃や荷造費用、そのほかこれを購入するために要した費用の額などが含まれます。
4.逆パターンの場合も調整が必要
ところで、ここまで述べたこととは逆に、課税事業者が免税事業者となった場合にも、棚卸資産に係る消費税額の調整が必要になります。翌事業年度が免税事業者となる場合、課税事業者としての課税期間の末日に所有している棚卸資産の課税仕入の消費税額は、その課税期間における仕入控除税額に含めることはできません。
国税庁タックスアンサー:免税事業者が課税事業者となった場合の棚卸資産に係る消費税額の調整
皆様こんにちは。
北野税理士事務所の北野です。
10月1日から消費税のインボイス制度が開始されます。
影響を受ける事業者は、税務署への登録申請やインボイス対応の事務・経理処理の準備が大詰めになっています。一方、社会全体を見渡せば、この制度についての反対意見が引き続き出されています。
インボイス登録申請をしたものの「できればやりたくなかった。元請けからの要請でやむを得ず…」という免税事業者も少なくありません。税の専門家として反対を表明する税理士もいます。つい先日(9月1日)も、全国青年税理士連盟が「インボイス制度に対する反対声明」を出しました。
1.消費税 導入して34年が経過
税の制度は永久不変のものではありません。それは消費税も同じです。
日本の消費税は1989年4月1日から税率3%で始まった新しい税制です。導入時の免税点は課税売上高が年間3000万円以下、簡易課税制度が選択できる課税売上高は年間5億円以下でした。両方とも、今よりかなり広い範囲であり、多くの事業者が含まれていました。
その後、何回もの改定を経て、現在の制度になっています。
日本社会にとってどのような税制が望ましいかは、永遠の課題です。
インボイス制度も、今後の検証が必要な制度であることは間違いありません。
2.インボイス制度 賛成の立場
開始直前ではありますが、ここでインボイス制度の賛成(推進)意見と反対意見を簡単に整理してみましょう。
導入後にインボイス制度の検証をする際、導入前にどのような意見が出されていたかは重要な視点となります。
まずは、賛成(推進)の立場の意見です。
政府はこの制度が必要な理由として、次の2つを挙げています。
①「益税」をなくす(=国の税収を増やす)
②複数税率に対応する
このうち②は請求書等の記載方法の問題であり、より本質的な理由は①であると考えられます。
「益税」とは、免税事業者が売上先から消費税を「預かった」にもかかわらず、経費に含まれる消費税を差し引いた「残りの消費税」を国に納付していないのは「利益を得ている」というものです。財務省は、インボイス制度導入により約2480億円程度の税収増を見込んでいます(2019.2.26国会答弁)。
3.インボイス制度 反対の立場
次に反対の立場の意見です。これは主に、免税事業者から出されているものです。
①売上先から値下げを要求される。応じなければ取引から排除される
②課税事業者になることで税負担が増える
③消費税の申告のための経理事務負担が増える
免税事業者は基準期間の売上高が年間1000万円以下ですから、零細な事業者です。
売上先との力関係は相対的に弱く、取引価格に口をはさむことができない事業者も少なくありません。
その場合、そもそも利益を出すのに必要な取引価格が設定できません。そのうえ、さらに値下げを迫られたり、納税が必要になったりしたら、事業が立ち行かなくなるという主張です。
4.社会全体への影響も
インボイス制度に賛成する側は、税収増と「益税」という不公平感の是正を主張しています。
反対する側は、経済活動において免税事業者は不利な立場にあり、多くが適正価格から値下げした取引価格になっているため、消費税が実質的には転嫁できていないこと、納税の負担が過大であること、取引から排除されるリスクがあることを主張しています。
両者の着眼点は異なっており、その対立は今後も続くと考えられます。
免税事業者は法人・個人を合わせて約500万者とされています。
今後、これらの事業者がどのような選択をするか。それによっては免税事業者だけの問題にとどまらず、日本社会や産業構造に影響が出る可能性も大いにあります。
インボイス制度の行方をよくよく注視する必要があるでしょう。
事業区分の目安として、国税庁は「事業区分のフローチャート」を示しています。スタートから始めて、「Yes」「No」の選択をしながら進んでいくことで、どの事業区分に該当するかを判定することができます。
3.迷いやすい事例
①製造業、建設業(原則は第3種事業)
第3種事業は、おおむね日本標準産業分類の大分類に掲げる分類を基礎として判定します。しかし、前述の「事業区分の表」で、第3種事業の前半部分「農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業をいい」だけで判定してしまうと間違いが起きます。後半の「第1種事業、第2種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます」に注意が必要です。
ポイントは、製造業なら主要な材料を、建設業なら主要な建設資材を自己負担しているかどうかです。それらを自己負担していれば第3種事業、元請けから無償支給されていれば第4種事業になります。元請けから有償支給を受けるのは、自己負担と同じですから第3種事業です。
また、とび工事、はつり・解体工事、足場組立工事などは建設業に分類されていますが、第4種事業になります。これらは「モノを作って引き渡す」というより、「役務の提供」という性質の工事だからです。
②自動車関連業
新車や中古車、タイヤやオイルなどの商品を仕入れ、そのまま事業者に販売するのは第1種事業です。それらの商品を消費者に販売すれば、第2種事業になります。
自動車の板金塗装等はどうでしょうか。この事業区分について国税不服審判所で争われた事例では、板金塗装等の本質は「つくろい直す、造り直す及び交換等をする」という「サービスの提供」であるから、第5種事業にあたるという裁決が出ています。
自動車の整備(部品交換含む)やタイヤ・オイル交換等の工賃、車検等の代行手数料は、すべて第5種事業です。タイヤ・オイル交換等の販売代金と工賃が区分されていない場合には、販売代金を含めた全額が第5種事業になります。
③固定資産の譲渡
事業者が、自己が使用していた固定資産等を譲渡した場合は、自己の本業の事業の種類のいかんを問わず、第四種事業に該当することになります。固定資産等については、建物、建物付属設備、構築物、機械及び装置、船舶、航空機、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、無形固定資産のほかゴルフ場利用株式等も含まれます。
参照
北野純一税理士事務所の北野です。
今回は消費税の仕入税額控除と帳簿の記載事項についてお話します。
日々の実務が忙しいと、帳簿の記載についてもつい省略しがちになってしまいます。しかし、消費税法は仕入税額控除の適用を受けるために必要な事項を帳簿に記載するよう求めています。杓子定規に解釈すれば、「必要事項が記載されていなければ仕入税額控除ができない」ことになります。また、消費税の税率は現在、軽減税率8%と標準税率10%の複数税率であるため、税率ごとに区分して帳簿に記載する必要もあります。
あらためて、仕入税額控除の要件を満たす帳簿についておさらいをしてみましょう。
1.仕入税額控除の要件となる帳簿への記載事項(課税仕入の場合)
イ 相手方の氏名または名称
ロ 資産または役務の提供を行った年月日
ハ 資産または役務の内容
(軽減税率の対象となる資産の場合は、資産の内容および軽減税率対象である旨)
ニ 支払対価の額(消費税額および地方消費税額に相当する額を含む)
2.帳簿への記載方法
(1)帳簿と請求書等の記載内容の対応関係
請求書等に一品ごとに詳しく記載(たとえば、鮮魚店であれば、「あじ○匹」、「いわし○匹」など)されていても、帳簿には商品の一般的な総称(「魚」または「食料品」)でまとめて記載するなど、仕入控除税額を計算できる程度の記載であれば差し支えありません。
ただし、課税商品と非課税商品がある場合(たとえば、ビールと贈答用ビール券)は、区分して記載する必要があります。
また、商品が軽減税率の対象品目である場合にはその旨を記載する必要があります。具体的には、税率や税率コードを記載する、軽減税率の適用対象を示す記号等を記載するなどの方法があります。
(2)一取引で複数の種類の商品を購入した場合
複数の一般的な総称の商品を2種類以上購入した場合、例えば、文房具と雑貨を購入したときのように、それが経費に属する課税仕入である場合には、「文房具等」などと記載することで差し支えありません。
ただし、課税商品と非課税商品がある場合、標準税率対象商品と軽減税率対象商品がある場合には区分して記載する必要があります。コンビニで食品とそれを入れるビニール袋を買ったときは、教科書的に言えば、区分して帳簿に記載しなければなりません。
(3)一定期間分の取引のまとめ記載
1か月分の取引について、請求書等をまとめて作成する場合には、請求書等に記載すべき課税仕入の年月日については、「○月分」でよいとされています。このような請求書等に基づいて作成する帳簿の課税仕入の年月日は、やはり「○月分」という記載で差し支えありません。
1か月の間に、区分が同一となる商品を複数回購入しているような場合で、その1か月分の請求書等に一回ごとの取引の明細が記載(または添付)されているときには、帳簿の記載にあたって、課税仕入の年月日を「○月分」と記載し、取引金額もその請求書等の合計額を記載することで差し支えありません。
(4)帳簿に記載すべき氏名または名称
課税仕入の相手方については、その「氏名または名称」を帳簿に記載することとされています。たとえば、個人事業者であれば「田中一郎」、法人であれば「株式会社鈴木商店」と記載することが原則です。
ただし、正式な氏名または名称およびそれらの略称が記載されている取引先名簿が備え付けられていることなどにより課税仕入の相手方が特定できる状況にある場合には、「田中」、「鈴木商店」のような略称による記載であっても差し支えありません。 また、屋号等による記載であっても、電話番号が明らかであること等により課税仕入の相手方が特定できる場合には、正式な氏名または名称の記載でなくても差し支えありません。
参照
No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿及び請求書等の記載事項
査察と税務調査、何が違う?
北野純一税理士事務所の北野です。
今回は、国税局による査察についてお話します。
税務調査は所轄の税務署が行います。所得税や法人税等に規定されている「質問検査権」に基づく任意の調査です(実施には納税者の同意が必要です)。主な目的は納税者の申告漏れの調査です。通常は、事前に「○月○日に調査にうかがいたいのですが、よろしいですか」と税務署から連絡が入ります。
一方、査察は国税局査察部が行います。「国税犯則取締法」に基づく強制的な調査であり、悪質な脱税や脱税額が大きなケースを中心に摘発することが目的です。強制的な臨検、捜索、差押等の権限があり、納税者の同意を必要としないため、事前連絡はありません。
令和4年度 査察の概要
国税庁は、毎年「査察の概要」を報道発表しています。今年も6月に令和4年度分が発表されました。それによると、着手件数145件、処理件数139件。
処理件数のうち、検察庁に告発した件数は103件(告発率74.1%)でした。脱税総額(告発分)は100億円で、1件当たりの平均脱税額は9700万円でした。
一審判決が61件出ていて、すべてが有罪判決でした。うち、3人は実刑判決でした(執行猶予は付かず)。
「査察の概要」から、事案ごとの特徴的なケースをみてみましょう。
■消費税事案
34件が告発されました。そのうち不正受還付事案は16件でした。
<ケース>
・輸出物品販売場を営む法人が、国内で仕入れた化粧品を外国人観光客に販売したように装い、架空の課税仕入れ及び架空の輸出免税売上げを計上し、消費税の還付を受けた。
・パワーストーンの仕入れがあったように装い、架空の課税仕入れを計上し、消費税の還付を受けようとした(未遂犯)。
■無申告事案
15件が告発されました。
<ケース>
・ウェブサイト上で競艇の予想情報を販売する個人事業者が、所得税の申告義務を認識していたにもかかわらず、確定申告書を申告期限までに提出せず、所得税を免れた。
・相続財産である現金を複数の場所に隠したうえで、相続税の申告書を申告期限までに提出せず、多額の相続税を免れた。
■国際事案
25件が告発されました。
<ケース>
・外国法人に対する架空の支払手数料等を計上することで、法人税を免れた。
・暗号資産の譲渡の主体を自分ではなく外国法人に仮装することで、所得税を免れた。
■その他の事案
<ケース>
・トレーディングカード販売業者が虚偽の領収書を作成し、架空仕入高を計上するなどの方法により所得を隠し、法人税を免れた。
・SNSを利用して多数の給与所得者を勧誘し、架空の事業所得の損失を計上して給与所得と損益通算することで所得税の還付を受ける不正手段を指南。そのうえで、虚偽の内容の所得税の確定申告書を作成して交付し、多数の給与所得者の所得税を免れさせた。
・大手企業の従業員という立場を利用して、親族主宰の法人名の架空請求書を下請け業者に送付し、自身が管理する借名預金口座に資金を振り込ませていた。その所得を隠したうえで、所得税の確定申告書を申告期限までに提出せず、多額の所得税を免れた。
参照
北野純一税理士事務所の北野です。
今回は、「男女賃金の格差」についてお伝えしたいと思います。
1 男女賃金格差のデータ公表
2022年7月に「女性活躍推進法」改正省令・告示が施行され、常用労働者301人以上の企業には自社の男女賃金格差のデータを把握・公表することが義務付けられました。公表は事業年度終了後3か月以内と決められています。今年3月決算の対象企業のデータは出そろったことになります。
このデータは、全労働者、正規労働者、非正規労働者という三つの区分で、それぞれ男性労働者の平均賃金に対する女性労働者の平均賃金の割合を示すものです。
「男女の賃金の差異70%」であれば、男性の平均賃金100に対して女性の平均賃金が70であることを意味します。
2 男女賃金格差が大きい日本
男女賃金格差は、世界各国の問題でもあります。国によってその是正の進み方は違っており、日本はなかなか進まない国の一つです。格差を示すデータをみると、主要7か国(G7)のなかでは最下位、OECDの調査では下から3~4番目のあたりです。もともと日本政府は、男女賃金格差について「我が国の男女間賃金格差は国際的に見て大きい状況にある」と認めつつも、「企業の負担になる」という理由で賃金格差を把握の必須項目にすることにも消極的でした。
しかし、世界経済フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数で日本の総合順位が低迷(2021年…156か国中120位)を続けていること、SDGsの目標とターゲットに男女差別撤廃や同一労働・同一賃金が掲げられていること、国内において男女差別を争う労働裁判や運動が続いていることなどから、格差是正に向けて実効性のある第一歩を踏み出したものと考えられます。
3 格差の要因と是正の方向
実際、どれくらいの男女賃金格差があるのでしょうか。内閣府・男女共同参画局は、「令和3年の男性一般労働者の給与水準を100としたときの女性一般労働者の給与水準は75.2となっています」としています。厚生労働省は「男女間賃金格差の要因で最も大きいのは、役職の違い(管理職比率)であり、次いで勤続年数の違いとなっています」と分析しています。
つまり、賃金制度そのものの問題というよりも、むしろ昇格制度、業務の与え方、出産・育児休暇の利用しやすさ、性別による正規・非正規の人数の違いなどが格差を生み出す要因になっているようです。データ公表により、男女賃金格差の大きい企業は、労働環境や人事制度、社風などの見直しを迫られることになるでしょう。
しかし、そのことは結果として、企業や社員にとってプラスとなり、企業価値を高めることにつながります。厚生労働省は、女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良な企業に対して「えるぼし認定」を行っています。この認定を受けると、企業のPRに役立つとともに、公共調達で優遇を受けたり、日本政策金融公庫の「働き方改革推進支援資金」を通常より低金利で利用したりすることができます。
4 資金調達や経済成長につながる
男女賃金格差の是正は、単に人道的な意味からだけ主張されているのではありません。日経産業新聞(2022. 8.12)は、「男女間賃金格差は、多様な人材が能力を最大限発揮できる組織かどうかを測る重要な指標の1つになる」として、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資を推進する機関投資家にとっては、投資の判断材料になると指摘しています。つまり、資金調達にも関係してきます。
また、国際通貨基金(IMF)は、『ファイナンス&ディベロップメント』2019年3月号において、男女の格差縮小が企業にも社会にもプラスに働き、経済成長を押し上げるというレポートを出しています。
参照
厚生労働省 女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)
日経産業新聞「男女賃金格差の開示始まる ESG投資の判断材料に」(2022.8.12)
IMF「男女格差の解消をさらに前へと進める」『ファイナンス&ディベロップメント』2019年3月号
4 2023年問題への対策
国土交通省は、物流業界への影響を「物流の効率化などの対策を講じない場合、2024年度はおよそ14%の輸送能力が不足し、2030年には全国の約35%の荷物が運べなくなる」と試算しています。これは国民生活にも大きな影響を与える数字です。
個々の企業での対策はもちろんですが、それだけでは限界があります。下請け企業やその従業員にしわ寄せが来てしまうような悪しき取引慣行については改善が必要です。業界を挙げての、また、発注者や消費者も含めた国を挙げての大きな取り組みが求められます。
参照
国土交通省「『建設業働き方改革加速化プログラム』を策定~官民一体となって建設業の働き方改革を加速~」(2018.3.20)
国土交通省「『物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン』を策定しました」(2023.6.2)
国土交通省「トラック運送業に係る標準的な運賃を告示しました ~持続可能な物流の実現に向けて、取引の適正化・労働条件の改善を進めます~」(2020.4.24)
(荷主・元請運送事業者の都合による「長時間の荷待ち」に関する情報提供窓口)
全日本トラック協会「2024年問題(働き方改革)特設ページ」
北野純一税理士事務所の北野です。
今回は、「2024年問題」についてお伝えしたいと思います。
1 2024年問題とは
最近よく耳にする「2024年問題」。これは、働き方改革にかかわる話です。2018年7月に成立した改正労働基準法には、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得促進などが盛り込まれ、すでに2019年4月(中小企業は2020年4月)から適用されています。
しかし、建設や物流、医師などの分野については、時間外労働の上限についての適用が5年間猶予、また、一部特例つきでの適用となりました。猶予期間は2024年3月で終わるため、今年はその後に向けての準備が急がれています。なお、5年間の猶予は、業務の特性や取引慣行の課題があることなどを理由にしたものです。
2 時間外労働の上限
改正労働基準法で規制された時間外労働の上限は、以下の通りです。これらの規制に違反すると、6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科せられます。
●時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として、月45時間・年360時間。
臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできない。
●臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、
・時間外労働・・・年720時間以内
・時間外労働+休日労働・・・月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内
とする必要がある。
●原則である月45時間を超えることができるのは、年6か月まで。
3 猶予期間終了後はどうなる?
猶予期間終了後(2024年4月~)の取り扱いは、以下のようになります。
<建設業界>
●災害の復旧・復興の事業を除き、上記2の上限規制がすべて適用される。
●災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休⽇労働の合計について、
・⽉100時間未満
・2〜6か⽉平均80時間以内
とする規制は適用されない。
<物流業界>
●特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限は、年960時間。
●時間外労働と休⽇労働の合計について、
・⽉100時間未満
・2〜6か⽉平均80時間以内
とする規制は適用されない。
●時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは年6か⽉までとする規制は適用されない。
4 2023年問題への対策
国土交通省は、物流業界への影響を「物流の効率化などの対策を講じない場合、2024年度はおよそ14%の輸送能力が不足し、2030年には全国の約35%の荷物が運べなくなる」と試算しています。これは国民生活にも大きな影響を与える数字です。
個々の企業での対策はもちろんですが、それだけでは限界があります。下請け企業やその従業員にしわ寄せが来てしまうような悪しき取引慣行については改善が必要です。業界を挙げての、また、発注者や消費者も含めた国を挙げての大きな取り組みが求められます。
参照
国土交通省「『建設業働き方改革加速化プログラム』を策定~官民一体となって建設業の働き方改革を加速~」(2018.3.20)
国土交通省「『物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン』を策定しました」(2023.6.2)
国土交通省「トラック運送業に係る標準的な運賃を告示しました ~持続可能な物流の実現に向けて、取引の適正化・労働条件の改善を進めます~」(2020.4.24)
(荷主・元請運送事業者の都合による「長時間の荷待ち」に関する情報提供窓口)
全日本トラック協会「2024年問題(働き方改革)特設ページ」
北野純一税理士事務所の北野です。
今回は、失業給付を受給する際、健康保険の被保険者になれるのかどうかについてご説明したいと思います。
退職後の健康保険
会社を退職後の健康保険については、次の3つのいずれかに加入の手続きを取ることになります。
それは、1.任意継続健康保険、2.国民健康保険、3.ご家族の健康保険(被扶養者)です。このうち、3の健康保険の被扶養者になるには、一定の要件を満たす必要があります。
社会保険の被扶養者
社会保険の被扶養者とは、以下のアまたはイに該当する人です。
ア.被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、
主として被保険者に生計を維持されている人(必ずしも同居している必要はない)
イ.被保険者と同一の世帯で主として被保険者の収入により生計を維持されている次の人
(同居して家計をともにしていることが必要)
① 被保険者の三親等以内の親族(1に該当する人を除く)
② 被保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の人の父母および子
③ ②の配偶者が亡くなった後における父母および子
被扶養者自身に収入がある場合
被扶養者として認定されるには、主として被保険者の収入により生計を維持されていることが必要であり、その収入については以下のように定められています。
【認定対象者が被保険者と同一世帯に属している場合】
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である場合は被扶養者となります。
【認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合】
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者からの援助による収入額より少ない場合には、被扶養者となります。
失業給付の受給が始まるまで、始まってから
失業給付は、税金上は非課税です。しかし、社会保険の扶養判定では、収入とみなされます。失業給付の待期期間及び給付制限期間など、受給を受けていない期間は、社会保険の被扶養者となることができます。しかし、受給が始まると、「雇用保険受給資格者証」に記載の基本手当日額が、3,612円以上(60歳以上、または障害年金受給要件該当者は5,000円以上)の場合は、社会保険の被扶養者となることができません。被扶養者となることができなくなる日は、実際に失業給付が入金した日ではなく、支給対象期間の初日です。
なお、失業給付の総額がいくらになるかは関係ありません。あくまで上記の基本手当日額のみで被扶養者になるかどうかが判定されます。上記の金額以下の場合は、引き続き被扶養者であり続けることができます。
参照
関東信越厚生局/健康保険制度に関係するよくあるご質問Q&A(一般の方向け)
日本年金機構/従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き
北野純一税理士事務所の北野です。
フリーランスと呼ばれる働き方が増えています。ランサーズ株式会社の調査発表(2021.11.12)によれば、「広義のフリーランス」の人口は1577万人(※)にも達しています。調査を開始した2015年と比較して、約640万人も増えているそうです。ということは、フリーランスを活用する企業も増えているはずです。
※「フリーランス」は法令上の用語ではないため、確立した定義がありません。調査機関ごとに定義が違っています。2020年の内閣官房「フリーランスの実態調査結果」では、フリーランス人口を462万人としています。
発注側に対して立場が弱い
そんなフリーランスですが、個人で業務を受注して生計を立てるという性質から、多くが発注側に対して弱い立場に置かれています。企業に雇用される労働者ではないため、労働基準法などの労働法は適用されません。したがって、取引上の不公平や不利益を被ることも少なくありません。内閣官房「フリーランスの実態調査結果」では、「収入の少なさ」と「取引先とのトラブル」が大きな課題として挙げられています。
フリーランスの保護については、すでに「下請代金支払遅延等防止法」「独占禁止法」などがありますが、それらでは対象外となるケースも多くありました。そこで、2021年3月には、内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の4省庁の連名で「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が策定されました。それでも上記のような課題の解決には至りませんでした。
一方で、日本政府は「働き方改革」の一環として、兼業・副業に加え、フリーランスを推奨する立場です。フリーランスの保護に実効性を持たせるためには、この問題についての新しい法律が必要になりました。
5月12日、「フリーランス新法」公布
正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」で、1年6か月以内(2024年11月まで)に施行されます。「特定受託事業者」とは、個人や一人会社という立場で業務委託を受ける事業者のことです。「フリーランス=個人事業主」という思い込みは禁物です。なお、委託者の定義も定められています。
「業務委託」については、「事業者がその事業のために、他の事業者に物品の製造(加工を含む)または情報成果物の作成を委託すること」「事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること」と定義されています。業種が限られているわけではないので、零細事業者の多くが受託事業者に該当することになると考えられます。
取引の適正化、就業環境の整備など
フリーランス新法第2章では「取引の適正化」について定められています。委託者は受託者に対して、業務の内容や報酬の額、支払期日その他の事項を書面等で明示しなければなりません。報酬については原則として成果物や役務を受領した日から60日以内に支払わなければなりません。委託者は、正当な理由なく受領を拒否したり、報酬を減額したり、返品したりなどの不当な行為をしてはなりません。
同法第3章では、「就業環境の整備」について定められています。委託者は、募集情報の的確な表示や育児・介護をしている受託者への配慮、ハラスメントが起きないような体制の整備等を行わなければなりません。
ほかにも、行政側の対応や違反した場合の罰則等について定められています。1年6か月以内に施行されます。フリーランスを活用している企業では、今のうちに同法の内容や前述のガイドラインを参照してください。両方とも、下記のサイトで確認することができます。
参照先:フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ(厚生労働省)
皆さま、こんにちは。北野税理士事務所です。
4月27日より『相続土地国庫帰属制度』がスタートしました。
土地を相続したからといって良いことばかりではありません。「遠いところにあって利用する予定はない」「処分しようにも、借り手も買い手もつかない」「未使用なのに管理が必要で大変」など、不動産ならぬ「負動産」になっているケースも少なくありません。
このような土地が管理されないまま長期に放置されていると、将来、「所有者不明土地」となってしまうおそれがあります。それを予防するために創設されたのが、「相続土地国庫帰属制度」です。この制度を利用することで、相続又は遺贈によって土地の所有権を取得した相続人が、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国庫に帰属させることが可能になりました。
◆この制度のポイント
①相続等によって、土地の所有権又は共有持分を取得した者等は、法務大臣に対して、その土地の所有権を国庫に帰属させることについて、承認を申請することができます。
②法務大臣は、承認の審査をするために必要と判断したときは、職員に調査をさせることができます。
③法務大臣は、承認申請された土地が、「通常の管理又は処分をするに当たり、過分の費用又は労力を要する土地として法令に規定されたもの(国が引き取ることのできない土地)」に当たらないと判断したときは、土地の所有権の国庫への帰属について承認をします。
④土地の所有権の国庫への帰属の承認を受けた者が、一定の負担金を国に納付した時点で、土地の所有権が国庫に帰属します。
◆申請ができる人
この制度の申請ができるのは、相続又は相続人に対する遺贈によって土地を取得した人です。相続等により、土地の共有持分を取得した共有者は、共有者の全員が共同して申請を行うことによって、この制度を利用することができます。
◆申請先・相談先
申請先は、帰属の承認申請をする土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)です。
制度の利用に関する相談先は、全国の法務局・地方法務局です。個別の具体的な相談をする場合は、事前予約制で、対面相談または電話相談のどちらかになります。相談予約は、インターネット上の「法務局手続案内予約サービス」で行います。事前予約なしの相談の場合は、制度の概要の説明に限られます。
国が引き取ることのできない土地
国が引き取ることのできない土地の要件については、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」に定められています。
◆以下のような土地が該当します。
ア.申請をすることができない土地(却下事由)(法第2条第3項)
・建物がある土地
・担保権や使用収益権が設定されている土地
・他人の利用が予定されている土地
・土壌汚染されている土地
・境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
イ.承認を受けることができない土地(不承認事由)(法第5条第1項)
・一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
・土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
・土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
・隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
・その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
◆負担金
審査手数料として、土地一筆当たり14,000円が必要です。申請時に、申請書に審査手数料額に相当する額の収入印紙を貼って納付します。申請を取り下げた場合や、審査の結果却下・不承認となった場合でも、手数料は返還されません。
<参考>
北野純一税理士事務所の北野です。
「コロナの影響で資金繰りが厳しいので、支払いを待ってほしい」。
普段から付き合いのあった売上先からそう言われ、取引をストップ。
そうこうするうちに一年以上経ってしまった!
そんなときに使えるのが「形式上の貸倒れ」です。
◆「形式上の貸倒れ」が使える債権とは
売掛債権の相手先に一定の事実が発生した場合、備忘価額(通常は1円)を差し引いた残りの金額を
貸倒損失として損金算入することができます(法人税基本通達 9-6-3 一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ)。
あくまで売掛債権やそれに準ずる債権だけが対象で、貸付債権で使うことはできません。
また、「法律上の貸倒れ」と違い、損金経理が要件となっています。
◆どんなことが起きたら使えるか
相手先に発生した「一定の事実」には、以下の2種類があります。
ア.取引を停止してから一年以上が経過した場合
イ.売掛債権の額がその取立てのために要する旅費その他の費用よりも少ない場合に、支払いを督促したけれども弁済してもらえないとき
アの場合、以下のような点に注意する必要があります。
①継続的な取引を行っていた相手先に限られる※
②相手先の資産状況、支払能力等が悪化したため取引を停止した場合であって、営業上の紛争などを理由に取引を停止した場合は含まれない
③「一年」の起点は、「取引を停止した時」・「最後の弁済期」・「最後の弁済の時」のうち、最も遅い時である
④その売掛債権について担保物がある場合は、貸倒損失をできない
※例外として、「通信販売により生じた売掛債権の貸倒れ」があります。
これは、通販業者などが継続・反復して販売することを期待してその顧客情報を管理している場合には、結果として一回だけの取引だったとしても、
その取引先を「継続的な取引を行っていた債務者」として扱ってもよいというものです。
◆備忘価額はいつまで残す?
最後に備忘価額です。
最初の方で「通常は1円」と書きましたが、1円と決まっているわけではありません。
10円や100円でもいいのですが、単に覚えのためだけなので通常は1円にします。
さらに、「備忘価額をいつまで残すか?」という問題があります。
これについて「回収できないことが明らかになったときまで」というのが、教科書的な回答です。
つまり、法人税法基本通達9-6-2「回収不能の金銭債権の貸倒れ」が適用できるようになったときに落とすというものです。
ただし、「債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないこと」を明らかにするには、それなりの労力が必要な場合もあると思われます。
1円を落とすための費用対効果を考えると、ちょっとどうかという気がします。
参考資料
2月27日(月)に中古車販売業を営む社長様及びその従業員様向けにインボイスセミナーを開催しました!
インボイスという言葉を聞いたことはあるけど、何がどう変わるのか具体的に分からないという方の為に、事例を紹介しつつ分かりやすく解説を行いました。
参加者の皆様からは「知らないことを知ることができて、とても良かったです。」と大変好評でした!
セミナーの内容
1、適格請求書等保存方式(インボイス制度)の概要
2、適格請求書の記載事項・記載の留意点
3、売手の留意点(適格請求書発行事業者の義務等)
4、買手の留意点(仕入税額控除の要件)
5、税額計算の方法等
6、適格請求書発行事業者の登録申請手続
7、国税庁適格請求書発行事業者公表サイト
8、質疑応答
主催:北野税理士事務所 税理士 北野純一
日にち:2023年2月27日(月)
講師:北野純一税理士事務所
代表 税理士 北野 純一
成年後見人制度の概要
成年後見人制度は、判断能力の不十分な方を成年被後見人・被保佐人・被補助人に分けて保護する制度です。成年後見制度には、法定後見と任意後見の2つの制度があります。
法定後見は、配偶者・子供・孫などが後見人の選任を家庭裁判所に対して申立てを行います。任意後見制度は、本人があらかじめ任意後見人となる人と任意後見契約を結び、本人の判断能力が不十分になった後に、後見人として契約を結んだ人が家庭裁判所に対し申立てを行います。
税理士と成年後見人
税理士は、任意後見人になることができるだけでなく、税理士会が行っている研修を受講し名簿に登録されるなどの条件をみたすことで、法定後見人になることができます。2022年3月より税理士法施行規則が改正され、税理士法人が成年後見人等の事務を行うことができるようになりました。
税理士は、日頃から事業者の経営内容を知るとともにアドバイスをしていますし、個人の方にとっても相続などの相談ができる身近な存在です。また、財産管理の知識が豊富です。今後、高齢化社会が進んでいくと、成年後見人制度がますます重要となってくると思われます。専門知識と職業的倫理観を持つ税理士に、成年後見人になってほしいとの依頼があるかもしれません。
税理士を成年後見人とするメリット・デメリット
通常は、親族が成年後見人になるケースが多いでしょう。財産が多い方だと、日頃から財産管理や相続の相談を税理士に依頼していて、親族より第三者である税理士のほうが信頼できるというケースもあります。第三者である税理士に依頼するメリットは、税理士には財産管理の知識があり、依頼者の意向を尊重した客観的な判断が可能であることです。デメリットは、基本的に利用をやめることができないことや、専門家に依頼する場合には費用がかかることがあげられます。
成年後見人を引き受ける場合には、制度をよく理解し、依頼者にはデメリットがあることを認識したうえで、誠実な対応が求められます。個人で成年後見人を引き受けると、引き受けた者が何かの事情により事務を行うことができなくなった場合に困りますが、税理士法人であれば個人の事情に左右されません。
税理士や税理士法人が成年後見人制度と積極的にかかわっていくことは理にかなっていることではありますが、高齢化社会の問題点や税理士の在り方について考えさせられることでもあります。
1月の償却資産税の申告と法定調書の提出が終わり、いよいよ確定申告時期です。国税庁の確定申告書作成コーナーはスマホでも利用することができ、自分で確定申告を行う方も増えています。しかし、分かりやすく説明はしてあるものの、知識のない一般の方には理解しづらい項目もあります。
今回は、譲渡所得の申告について、どのようなことに注意しなければならないかをまとめました。
譲渡所得がある場合
不動産などの資産を売却したときに、譲渡所得として確定申告が必要な場合があります。土地や建物の譲渡は、棚卸し資産に分類される場合などを除いて、分離課税制度となっています。さらに、所有期間で税率が異なります。譲渡所得金額は、収入金額から取得費や譲渡費用を差し引き、特別控除額を引いて計算します。譲渡所得は所得税の計算ではありますが、資産課税の側面があり複雑です。
譲渡所得の相談を受けた場合には、まず、取得費、取得時期、特例が活用できるかどうかの注意が必要です。
取得価額・取得時期を確認する
譲渡した不動産の取得費が書類で確認できて、それが売却価額より高く、損失が発生している場合には、そもそも確定申告が不要なケースもあります。逆に、相続で取得した先祖代々受け継がれている土地ということであれば、取得価額がわからず、5%の概算価額で計算することになり譲渡益が高額になってしまうケースもあります。
まず、いくらで売却し、取得価額を確認できる書類が保存してあるかどうかを確認する必要があります。また、取得時期により長期譲渡所得か短期譲渡所得かに分類され、税率が大きく異なるため、取得時期を聞く必要があります。
特例が適用できるかどうかを確認する
不動産を売却した場合、ケースによっては特別控除の適用が可能です。特別控除を受けることで、結果的に譲渡所得に対する税額がゼロになることもあるので、しっかりと確認をする必要があります。居住用の土地・建物を売ったときは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から3,000万円までの控除が可能です。相続した不動産を売り、3,000万円の控除を受けることができるケースもあります。
特例の適用を受けることができそうな場合、要件をみたすかどうかのチェックと必要書類の確認が必要です。駆け込み確定申告依頼の場合には、特例適用を受けるためには申告が必要なケースかどうかを確認し、依頼人にいそいで必要書類をそろえてもらうようにしなければなりません。 譲渡所得の申告方法は国税庁からアナウンスされており、チェックリストもありますので活用していきましょう。
他の所得を確認する
よくある事例として、サラリーマンで普段は年末調整を行っている方に譲渡所得が発生し、確定申告が必要になるケースがあります。普段は年末調整のみの方だと、確定申告について理解していないこともあり、譲渡所得の申告のみを行えばいいと考えている方もいます。
譲渡所得の申告の際には、源泉徴収票が保存してあるかどうかや、ふるさと納税、医療費など一般的な確定申告で必要な事項についてもしっかりと確認しておく必要があります。譲渡所得の書類をそろえ、確定申告をしようという段階になって、源泉徴収票を紛失していて再発行の時間がかかり申告期限ぎりぎりになってしまうこともあります。
国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
1月の法定調書や償却資産税の申告が終わると、いよいよ確定申告ですね。所得税・贈与税の申告・納付は令和5年3月15日まで、個人事業業者の消費税等の申告・納付は令和5年3月31日までです。計画的に業務を進めていきましょう。
確定申告時期に先立ち、令和4年分の確定申告で確認すべきことをまとめました。
様式の統一・簡素化
昨年までは、確定申告書AとBがありましたが、Aは廃止されBのみとなり、名称からA・Bの表記がなくなりました。Aは、給与所得・公的年金等・その他の雑所得などがある方を対象とするもので、簡易的なものでした。確かに、今までは確定申告書を作成する際に、まずAかBかを考えなければならず、分かりにくかったと思います。
修正申告で使用していた第5表も廃止され、第1表に修正申告欄が追加されました。修正申告の際に税務署側で過去のデータは把握しているため、簡素な欄に記入するのみで足りますよね。そのほかにも、2023年1月1日以降の納税地の変更等について、確定申告書の記載内容で確認可能であるため届出書の提出が不要となるなど、簡素化に関する変更がされています。
雑所得の変更点
働き方改革の一環として副業が注目されていますが、副業の税務上の取り扱いについて、さまざまな議論がされています。この流れの中で、2022年度分から副業収入について取り扱いが明らかにされています。
副業収入が事業所得か雑所得かによって取り扱いが大きく異なるため、その判断基準が問題となっていました。原則として副業が社会通念上事業といえるかどうかで判断し、取引記録のある帳簿書類が保存されていない場合には、収入金額の規模が300万円を超えていないと雑所得となります。
なお、2023年度からは収支内訳書の提出などが予定されており、これからの改正点も注目されています。
適格請求書を確認しよう
令和5年10月からインボイス制度の開始が予定されていますが、登録期限が令和5年3月31日までとなっており確定申告の時期と重なります。個人事業を行っているクライアントやかけこみ確定申告のケースで、インボイス制度の登録について確認することを忘れないようにしましょう。
個人事業者の場合、屋号は記載せず氏名のみ記載し、屋号の公表を希望する場合は、適格請求書発行事業者の公表(変更)申出書を提出する必要があるなど細かい注意点もありますので、国税庁のWebサイトで確認するようにしましょう。
北野純一税理士事務所の藤田です!
1月23日(月)に企業の若手職員向け研修として、
【消費税インボイス制度 ここだけは、気をつけたい】をテーマに、
セミナーを行いました!
今年の10月1日からインボイス制度が始まるけれど、インボイスという名称くらいしか聞いたことない。自分には関係がなさそう・・・
ところが、会社に勤めて働いている以上は、知らないでは済まされないことがあります。
そんな、あまり詳しいことは分からないという方の為に、インボイスについてわかりやすく説明いたしました。
セミナーの内容
1、適格請求書等保存方式(インボイス制度)の概要
2、適格請求書の記載事項・記載の留意点
3、売手の留意点(適格請求書発行事業者の義務等)
4、買手の留意点(仕入税額控除の要件)
5、税額計算の方法等
6、適格請求書発行事業者の登録申請手続
7、国税庁適格請求書発行事業者公表サイト
8、質疑応答
主催:北野税理士事務所 税理士 北野純一
日時:2023年1月23日(月) PM4:00~PM5:30
会場:北野純一税理士事務所会議室 高松市檀紙町1648−6 カヘイビル1F
講師:北野純一税理士事務所
代表 税理士 北野 純一
~ご参加頂いたお客様の感想~
・分かりやすく大変参考になりました。
・具体的な内容で話がとてもわかりやすかったです。
・今日学んだ知識を仕事でも生かしていきたいです。
北野純一税理士事務所の藤田です!
1月12日(木)に金融機関職員研修セミナーを開催しました!
講師に行政書士の宮川譲氏をお招きし、金融機関の職員研修の為に、
【認知症などになる前にできること】をテーマに、セミナーを行いました!
認知症などによって意思確認が取れない人の資産がどうなるのか、
そうなってしまう前に今のうちにできる事をわかりやすく説明いたしました。
セミナーの内容
1、どんな方法があるの?
ー特徴・できる事・できない事ー
⑴任意後見制度
⑵民事信託
⑶遺言書
2、質疑応答
主催:北野税理士事務所 税理士 北野純一
日時:2023年1月12日(木) PM4:00~PM5:30
会場:北野純一税理士事務所 高松市檀紙町1648−6 カヘイビル1F
講師:宮川譲行政書士事務所 代表 行政書士 宮川 譲 氏
~ご参加頂いたお客様の感想~
・分かりやすく大変参考になりました。自分で詳しく調べてお客様へ提案できるようにしたいです。
・認知症対策にもいろいろあることを知ったので、客様に提案できるようにもっと勉強をしたいと思います。
・今まで成年後見人制度しか知らなかったので、委任契約や家族信託という方法があるという事を知れて良かったです。
・家族信託の話がわかりやすかったです。
・深く理解ができました。参加して良かったです。
2022年も終わりに近づき、年末調整の山もあと少しという会計事務所も多いのではないでしょうか。忙しいときほど、発送や連絡漏れがないように細心の注意を払って仕事を進めていきましょう。
12月16日に、令和5年度与党税制改正大綱がまとめられました。閣議決定と国会審議を経て、順調にいけば2023年3月末までに公布されます。今回の税制改正大綱は、どのような点にポイントがおかれているのでしょうか。
個人所得課税の見直しで投資促進のねらい
所得税については、NISAの抜本的な拡充や恒久化が前面におしだされているのと同時に、高所得者の優遇とならないような配慮がされています。これにより、貯蓄から投資への流れを加速させたいねらいです。
クライアントから資産形成の相談を受けた際には、NISAを検討材料にするのもよいかもしれません。
相続税・贈与税の一体化に向けた動き
現行の贈与税の制度では、贈与者の死亡前3年間に行われた贈与財産額は相続財産額に合算され、相続税の課税対象となっています。これが、今回の税制改正大綱では、2024年1月1日以後の贈与では7年間となることが記載されています。これにより、2023年に駆け込み贈与が増えるのではないかと予想されます。
一方、相続時精算課税を適用する場合、現行の基礎控除とは別に、基礎控除110万円を控除できる制度が新設されます。これにより、相続時精算課税制度を選択したとしても毎年110万円以下の贈与については贈与税の申告が不要となり、相続時精算課税制度が利用しやすくなります。相続税と贈与税の一体化に向けて、徐々に制度が整備されていこうとしています。
消費税
2023年10月から、いよいよインボイス制度がはじまります。インボイス制度がはじまると、今まで免税事業者だった人が課税事業者となることにより、負担が増えることが懸念されていました。これを緩和する措置として、2023年10月1日から3年間の納税額を、売上税額の2割に軽減することが盛りこまれています。売上の消費税から80%の控除が可能となることにより、事務処理を軽減することができ、ケースにもよりますが消費税の負担も減らすことができます。
ただし、多くの消費税申告を手がける会計事務所にとっては、消費税計算のパターンが増えることとなるため、より一層の注意が必要となるでしょう。
税制改正大綱では、ほかにも各税目について、さまざまな取り組みがまとめられています。これを読むことで、国がどのような方向に進もうとしているのかもみえてきます。正式な決定ではありませんが、ぜひ参考に読んでみてください。
北野純一税理士事務所の藤田です。
12月も半ばとなり年末調整で忙しく、年明けにも法定調書の提出や償却資産税の申告が待っていますが、新型コロナの新規感染者数も増えてきています。体調管理やいざというときにテレワークに移行できる備えも忘れないようにしましょう。
1月末までに申告を行う償却資産税は、固定資産税の一種です。償却資産税は、土地や建物と違い毎年の申告が必要となりますが、事業者側で税額を計算するわけではなく、市町村側が計算を行い納付書が送付されます。このため、償却資産税の申告をしていても、税金の仕組みが分からないケースも多いのではないでしょうか。今回は、償却資産税の仕組みについてまとめました。償却資産税が高いと感じたときや、市町村側が行った計算の確認の際の参考にしてください。
償却資産税の課税
償却資産には、土地や建物と違い、登記という制度がありません。課税対象となる償却資産の存在や状況などを把握するために、償却資産税の申告が義務付けられています。課税対象となる償却資産は、土地、家屋以外の事業用の資産のうち、減価償却費が法人税や所得税の計算にあたり、損金や必要な経費に算入されるものをいいます。
ただし、その性質上、特許権やソフトウェアなどの無形固定資産、牛・馬・果樹などの生物は課税対象となりません。また、いわゆる少額の減価償却資産や一括償却資産、取得価額が20万円未満のリース資産も課税対象となりません。二重課税を避けるために、自動車税・軽自動車税の対象となる資産も対象外となります。反対に、減価償却は行っていなくても、休止中であっても事業用にすることが可能な遊休・未稼働の資産、耐用年数が経過して償却済みの資産、赤字決算のために減価償却を行っていない資産、帳簿に記載されていない簿外資産など、課税対象となるものもありますので注意してください。エアコンなどで家屋と構造上一体となっている設備(附帯設備)は原則として家屋となるのですが、事業用に取り付けたものは償却資産となる場合がありますので、建物を借りていてエアコンを事業用に取り付けているケースなどで注意が必要です。
償却資産の申告
償却資産の申告先は、東京都の場合は都税事務所、そのほかの地域は市町村となります。償却資産の所在地ごとに申告する必要があるので、支店が各地にある場合には所在地ごとに資産を分けて提出する必要があります。
償却資産の申告書は簡易的な一般方式のほか、すべての資産について事業者側で評価額などを計算したうえで申告する電算処理方式もあり、償却資産の増減が多い法人などでは電算処理方式のほうが作成しやすい場合もあります。中小企業では、初年度に申告対象のすべての償却資産を申告し、2年目以降は償却資産の増加や減少についてのみ申告する一般方式で申告することが多いでしょう。したがって、償却資産の申告をするために資産台帳の情報を利用することになりますが、会計ソフトには資産台帳から自動的に申告書が作成できる機能があるものもあります。その場合でも、課税対象があっているかどうか、新規の資産がないかどうかのチェックをする必要があります。なお、市町村から送付される固定資産税の課税明細書には償却資産税の明細が記載されません。
償却資産税の税額計算
償却資産税は、法人税や所得税の減価償却に比べて簡単に計算が可能です。償却資産の評価額は1月1日時点の時価となりますが、これは取得価額か前年度評価額から、減価率を乗じたものを引くことで計算できます。計算方法は減価償却の定率法と同じです。ただし、初年度について法人税や所得税では月割計算を行いますが、固定資産税においては月割りではなく2分の1となります。
償却資産税には免税点という制度があり、課税標準額の合計が150万円未満の場合には課税されません。しかし、150万円未満であるかどうかにかかわらず申告書の提出義務があるため、償却資産が少なくても申告する必要があります。
北野純一税理士事務所の藤田です!
12月10日(土)に『認知症などになる前にできること』セミナーを開催しました!
講師に行政書士の宮川譲氏をお招きし、自分や家族が認知症などにかかった時の為に、
【認知症などになる前にできること】をテーマに、セミナーを行いました!
実務の経験も踏まえ、遺言書作成、任意後見、家族信託についてわかりやすい内容で解説いたしました。
セミナーの内容
1、どんな方法があるの?
ー特徴・できる事・できない事ー
⑴任意後見制度
⑵民事信託
⑶遺言書
2、質疑応答
事前にお聞きした悩みに回答します!!
主催:北野税理士事務所 税理士 北野純一
日時:2022年12月10日(土) PM2:00~PM3:30
参加費:無料(定員10名様)
会場:北野純一税理士事務所会議室 高松市檀紙町1648−6 カヘイビル1F
講師:宮川譲行政書士事務所 代表 行政書士 宮川 譲 氏
~ご参加頂いたお客様の感想~
・今回のセミナーで認知という事も考えなければいけないと感じました。
・大変参考になりました。
・今後契約等が必要になってくる中で、現時点で準備できる対策を詳しく知ることができて良かった。
・非常にわかりやすかったです。
・自分に合った制度を調べて対策していきたいと思います。勉強になりました。ありがとうございました。
北野純一税理士事務所の藤田です。
円安の進行に伴い、海外から訪れる人が増えただけでなく、日本の不動産を海外の人が買い求めているとメディアで報道されたことがありました。不動産関係の税金といえば、固定資産税や不動産収入がある場合の所得税です。所得税を納付するには、確定申告が必要になります。海外に住んでいる場合は、これらの税金はどうなるのでしょうか?
今回は、海外の居住者が日本国内の不動産を所有することになった場合の税務について、まとめました。
非居住者のための納税管理人制度
日本国内の不動産を非居住者が購入した場合でも、日本人が購入した場合と同様に、不動産取得税・登録免許税・印紙税・固定資産税などが課税され、申告書の提出など税金に関する事項を処理する必要があります。
納税者が海外にいる場合には納税事務を行うことができませんので、代わりに納税事務を行う人が必要となります。納税に関する一切の事項を処理するための代理人のことを、納税管理人といいます。不動産所得がある場合には、出国までに確定申告をする必要がありますが、これができない場合も納税管理人に依頼します。
税金を納める先は、市町村、都道府県、国とさまざまです。たとえば固定資産税が発生する場合は固定資産が所在する市町村、不動産収入があり所得税が発生する場合には税務署で、それぞれ手続きを行う必要があります。近年、海外に居住する方が日本国内の不動産を所有するケースが増え、納税管理人制度の理解と協力が呼びかけられています。
納税管理人はどのような人がなるのか
納税管理人は、日本国内に居住していれば誰でもなることができ、個人でも法人でもなることができます。
固定資産税の場合は、納税管理人になる人が固定資産所在の市町村に住所があるかどうかで、手続きが異なります。固定資産税など普通徴収の方法がとられている税金の場合は、親族など身近な人が日本国内に居住していれば、その人を納税管理人にしても問題ないでしょう。しかし、不動産から収入がある場合には確定申告が必要となり、税理士が必要となります。このため、税理士が納税管理人となることも多いです。納税管理人を解任したい場合には、解任届出書を提出することで、いつでも解任することができます。
納税管理人の業務
納税管理人は、納税に関する一切の事項の処理を代理することとなります。具体的には、確定申告書提出と各種税金の納付、還付金の受け取り、税金に関係する各種書類の受け取りを指します。納税代理人は、納税に問題が生じた場合でも連帯責任を負うことはありません。
納税管理人を税理士にすれば、確定申告書の作成のほか、節税に関する相談やアドバイスを受けることも可能となりますので、納税管理人の選択肢として税理士を検討してみてはどうでしょうか。
北野純一税理士事務所の藤田です。
さまざまな問題でニュースなどで取り上げられることの多い岸田政権ですが、内閣支持率が低いと国会への影響が気になります。税法の改正も、国会で改正案が通るかどうかが関係するために、支持率や税法改正動向には注意しておきたいですね。
今後の改正動向が注目されている税金のトピックスの1つに、相続税と贈与税の一体化があげられます。相続対策に大きくかかわるため、どのような方法で相続税と贈与税を一体化しようとしているのかが注目されています。相続税と贈与税の一体化が進むと、相続対策として生前贈与を活用するという節税対策ができなくなる可能性もあります。 今回は、相続税と贈与税の一体化が実現した場合の相続対策はどうしたらよいのかなど、関連項目について考えてみます。
現在の相続対策としての生前贈与
相続対策としての生前贈与は、生前贈与により将来の相続税を減らすことで行われています。贈与を行うと贈与税がかかり、相続税率より贈与税率のほうが高くなります。しかし贈与税では、贈与を受ける人1人あたり年間110万円の基礎控除があるため、この基礎控除を適用しながら長期にわたって贈与を行う対策を行うことで、贈与税がかからない範囲で贈与を行うことが可能となっています。
そのほか、扶養義務者からの生活費や教育費で通常必要と認められるもの、香典など社会通念上相当と認められるものの贈与も、贈与税の対象とはなりません。また、贈与税は個人間にかかる税金であるため、法人から贈与を受けた場合には贈与税ではなく所得税の対象となります。さらに、財産の状況や金額によって相続時精算課税制度を活用する方法などもあります。
相続税と贈与税の一体化とは?
現在、相続開始前3年以内の贈与については、相続税を計算する際に加算する制度がとられており、生前贈与加算とよばれています。これは、いわゆる駆け込みの相続対策を回避するための制度です。相続税と贈与税の一体化は、この3年の期間を延ばす方法が考えられており、10年、15年と期間を区切る方法のほか、その期間を一生涯とする方法も考えられています。日本では3年となっていますが、他の先進諸国ではもっと長い期間で計算する制度がとられており、特にアメリカでは一生涯とされています。
また、日本でも相続時精算課税制度を適用すると、制度選択時から2,500万円まで非課税となるかわりに、相続発生時に適用を受けた贈与金額を相続税の計算に加算することとなっています。この制度も、相続税と贈与税が一体化制度であると考えることができます。相続税と贈与税を一体化する方法として、すべてを相続時精算課税制度にするという方法も考えられています。
相続税と贈与税の一体化された場合の節税対策は
相続時精算課税制度では、将来値上がりする財産は贈与時の価格で課税されるため、時価が下がっている間に贈与するとメリットがあります。たとえば株式や事業承継時の自社株について、時価が値下がりしているタイミングで贈与するという方法が考えられます。また、賃貸収入がある不動産を早めに贈与すると、贈与した後の不動産からの収入が相続財産に加算されないためメリットがあります。相続税と贈与税が一体化された場合には、相続時精算課税制度と同じように、将来値上がりする可能性のある財産を時価の低いうちに贈与する、収益不動産を早めに贈与するという節税対策が考えられます。
贈与税の非課税枠の範囲内で少しずつ資産を移転するという方法は、相続税と贈与税の一体化が実現されると難しそうです。しかし、相続税と贈与税が一体化することで、ある程度、財産移転時期を自由に選択することができ、贈与か相続かによって税金が変化しないことにより生前に財産を移転しやすいというメリットがあります。
北野純一税理士事務所の藤田です。
原材料価格やエネルギー価格が上昇しており、経営が苦しい中小企業も多くなっています。このような環境の中、中小企業のために、さまざまな取組みが提言されています。中小企業庁は、大企業と下請中小企業の取引を適正化するための5つの取組みを実施しようとしています。この中で、気になるのが「2026年の手形交換所における約束手形の廃止」です。経済産業省は2026年に約束手形を廃止する方針を決定していますが、業種によっては約束手形での取引が多いケースもあります。
今回は、約束手形が廃止されるメリットとデメリット、約束手形の代替方法をまとめました。約束手形の取引が多い事業者の方は参考にしてください。
廃止されると困る?約束手形のメリット
約束手形は、決済手段の多様化や電子化などで流通量が減っていますが、製造業や建設業を中心に今でも多くの中小企業が利用しています。約束手形の大きなメリットは、支払いの先延ばしです。一時的に資金繰りが苦しい場合などの利便性が高い決済方法といえます。また、金融機関の審査を通過した企業しか約束手形を振り出すことができないため、約束手形を受け取る企業にとって安心感を得ることができます。不渡りを2回出した企業は銀行取引などが停止され、事実上の倒産とみられて信用力をなくすため、不渡りを避けるための努力がされることを想定されることも、約束手形を受け取る企業の安心感につながっています。
約束手形を受け取った企業は、手数料を払い手形を割り引くことで、期日よりも早く資金を回収することも可能です。
廃止される理由は?約束手形のデメリット
利便性が高い約束手形ですが、なぜ廃止されるのでしょうか?約束手形は決済期間が30日(1か月)から120日(4か月)と長いものが多く、約束手形を受け取った企業の資金繰りが困難になるケースが多いことがあげられます。約束手形は、30日(1か月)から120日(4か月)以内を期日として振り出されることが一般的です。手形割引をする方法もありますが、手数料がかかるというデメリットがあります。また、約束手形は紙で発行され、第三者への譲渡が可能で有価証券としての性質を持ちます。このため、印刷・郵送のほか管理・保管のためのコストがかかります。紛失した場合のリスクも大きいです。
中小企業の資金繰りの負担を少なくするために2026年までに約束手形を廃止し、約束手形にかわりペーパーレスの決済手段である電子記録債権(通称でんさい)へ移行することが推奨されています。
約束手形の代替方法として推奨される電子記録債権(でんさい)とは?
電子記録債権(でんさい)は手形代わる新しい決済方法で、電子債権記録機関である「でんさいネット」の記録原簿に債権の発生や譲渡を電子記録することで、効力が発生します。ペーパーレスであることからコスト削減につながり、自動入金されることで回収の手間が不要となります。分割返済が可能なことのほか、紙を使用しないため印紙税がかからないというメリットがもあります。
電子記録債権(でんさい)は紙での約束手形に比べるとメリットは多いですが、受取側企業の資金繰りから考えると、なるべく手形ではなく即時入金してほしいところです。約束手形廃止をきっかけとし、なるべく期日の短い決済手段をお願いするのもよいでしょう。ただし、どうしても約束手形を利用しなければならないようなケースもあります。このような場合には、電子記録債権(でんさい)は約束手形と同じように審査や支払不能時のペナルティなど安全策があり、譲渡や割引も可能なため、比較的安心して利用できるのではないでしょうか。
北野純一税理士事務所の南田です。
政府の副業促進施策に関連して、国税庁は年間300万円以下の副業などによる収入を雑所得とする改正案を発表し、パブリックコメントの募集を行いました。しかしながら、意見公募を受けて、10月7日に改正案の修正が発表されました。反対意見の多かった所得税の改正案が修正され、帳簿書類の保存の有無で所得区分を判定するという修正が入りました。
では、副業を求める人を受け入れたい企業側では、どのような問題が生じるのでしょうか。人材を受け入れる方法として、外注か雇用かという問題が生じます。今回は、外注と雇用の違いが経営や税務にどのように影響するのか、税務上の注意点をまとめました。
外注費と給与の違い
外注費とは、自社の業種の一部を外部に委託したときに発生する費用です。したがって、外注費は幅広い意味を持ちます。例えば、清掃業務を外部に委託した場合には外注費ともいえますし、福利厚生の一環であれば福利厚生費、清掃に対する手数料と考えるなら支払手数料と考えることもできます。源泉徴収の発生しない支払いであれば、どの勘定科目に入れたとしても税務上の違いはなく、選択した勘定科目で継続して処理を行っていけば問題ないでしょう。
これに対し、給与とは、社内の従業員に支払われる報酬をいいます。同じ仕事に対して支払われる報酬であったとしても、社内か社外かによって、給与で処理するか外注費として処理するのかが変わり、税務上での取り扱いも変わってきます。
外注費と給与の判断基準と税務上の注意点
外注費と給与は、社外の外注先に支払うのか、社内の従業員に支払うのかで変わりますが、実際には契約と業務実態の観点から判断されます。原則として、請負契約であれば外注費、雇用契約であれば給与として処理することとなります。しかし、近年は多様な働き方が認められ、請負契約も業務委託契約や派遣契約などさまざまなものがあります。契約内容では判断が困難な場合、業務実態で判断することになります。たとえば、請求書発行を行っているかどうか、時間的な拘束があるかどうか、成果物を完成させるための費用の負担は誰なのか、といった観点です。
外注費の場合は、消費税がかかり、消費税の仕入税額控除の対象となります。給料の場合は、消費税はかかりませんが、仕入税額控除の対象とならず、また、源泉徴収税額が発生します。外注費でも原稿料など一定の場合には、源泉徴収税額が発生します。
外注費は、税務調査で注目されやすい勘定科目です。給与とすべき支払いを外注費にしていることを税務調査で指摘されると、源泉徴収の追徴課税が発生してしまいます。税務調査では、外注先がしっかりと確定申告をしているかどうかの調査をされることもあります。確定申告がない場合、給与として処理することを求められるケースや、外注費として認められても外注先の確定申告まで求められることもあります。
企業にとって外注と雇用、どちらがメリットがある?
企業が外注を行うメリットは、少ないコストで専門知識や技能のある人材に仕事をしてもらえる点です。必要なときにのみ仕事をしてもらえますが、その反面、緊密な連携や効率、継続的な仕事の依頼がしにくいというデメリットがあります。雇用のメリットは、企業内にノウハウが蓄積され人材育成につながり、企業の成長発展につながることです。その反面、管理の手間やコストがかかるというデメリットがあります。
税務面からみれば、外注費で計上することで消費税の仕入税額控除ができるという大きなメリットがあります。給与で処理すると、源泉徴収事務、年末調整、社会保険手続きなど、手間がかかります。外注費か給与で処理するか迷うような状況の雇用であれば、外注費で処理したほうが税金面ではメリットがあるといえるでしょう。しかし、税務調査では給与ではないかどうか厳しく調べられるため、外注費とするのであれば、契約書や業務形態についてしっかりと確認するようにしましょう。